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このまま施行されるの?——スマホ新法と“公正”の間にある不思議なねじれ

昨年閣議決定され、今年(2025年)の12月18日から施行される『スマホ新法』(正式名称:スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)。我々の手元にあるスマートフォンに関する法律だから、非常に重要なはずなのだが、『誰が』『何のために』規制をかけようとしているのか? なんとも分かりにくい。運用ガイドライン案に関するパブリックコメントが締め切られ、実際の運用案について、アップルも意見を出したということなので、あらためて復習しておこう。

施行されると何が起こるの?

法律の意図としては『アップルやGoogleなどの巨大プラットフォーマーが、独占してるアプリストアや決済方法などを開放しよう』ということで、一見すると良いことのように思える。

そのために、サイドローディング(App Store以外からのアプリインストール)を可能にしろ、他社決済を許容しろ、APIを開放しろといった要求が並ぶ。表向きはスタートアップや新規参入者のための措置とされているが、本当にそうなのだろうか。

Appleが現在App Storeで得ている『最大30%の手数料』は確かに目立つが、実際には90%以上の中小のデベロッパーからは手数料を取っていない。実際、デベロッパーから話を聞いても、『わずかな手数料で世界中のユーザーにアプリを届けることができて感謝しかない』という返答しか返ってこない。実のところ、高額な手数料を支払っているのはNetflixやSpotify、Epic Gamesのような大手企業が中心になっている。

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誰が、何のためにこの法案を推進しようとしているのかは分からないが、結果的にこの法改正が守ろうとしているのは、皮肉にも小さなスタートアップではなく、MetaやGoogle、Netflix、Spotify、Epic Gamesといった米国発の別の巨大テック企業ということになる。

スマホの自由を求める広告モデルの巨人たち

彼らがAppleに対して要求しているのは、『自由』である。自由というと聞こえがいいが、その『自由』とは、我々ユーザーの端末内にあるあらゆる情報へアクセスできる自由だ。なぜなら、MetaやGoogleの収益の源泉は、ユーザーの行動履歴、位置情報、閲覧傾向といった個人データにあるからだ。個人の写真、メッセージ、スケジュール、それらをAIでプロファイリングし、より精度の高い広告を表示することが彼らのビジネスモデルそのものだ。

一方でAppleは、個人情報を守ることを企業価値の中核に据えてきた。『Appleはあなたのデータを収集しません』という立場を貫くことで、むしろその“閉じた世界”がユーザーからの信頼を獲得し、iPhoneという製品の競争力を高めてきた。ユーザーのプライバシーを守るという思想と、それをビジネスに転換するロジックが一体化している。

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この両者の対立構図を考えれば、今回のスマホ新法がいったい誰のためにあるのか、その真意は見えてくる気がする。個人の自由の名のもとに、実は広告ビジネスの自由を拡張しようとしている──そんな印象を拭えない。

なぜ、そんな法案を作ろうという話になるのか、我々一般消費者には、まったく分からないが、新聞記者など政治に詳しい方に聞くと、それは政治的な問題」であって、「アップルに制限をかけた」ということが評価される立ち位置で仕事をしている人がいるということらしい。一般消費者のことはさておき、巨大企業に向けて政治向きの仕事をしている人たちが動かしている話……ということだ。

Appleが守ってきた「唯一安全なアプリ経済圏」

現在、ウェブを開けば詐欺広告が並び、迷惑メールの山にうんざりし、SNSのダイレクトメッセージはフィッシングの温床と化している。我々のようにITに詳しいはずの人間でさえ、詐欺サイトで決済してしまうほど、ネットは安心できる場所ではなくってしまっている。

そんな中で、唯一といってよいほど『安心して使える』のがAppleのApp Storeだ。理由は明確で、Appleがすべてのアプリをコードレベルでレビューしているからである。目的と機能が一致しているか、詐欺的要素が含まれていないか、ギャンブルやポルノに該当しないか──すべて人間と機械によるチェックを通過して初めて、アプリは公開される。

高齢者にも、子どもにも、安心して渡せるスマートフォン。それを実現しているのがApple独自の審査体制である。この仕組みに強制的に穴を開けようとするのが、今回の法改正だとすれば、安全と自由は本当にトレードオフでよいのか、慎重に問われなければならない。

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スマホ新法が新機能を奪う可能性もある

もう一つの懸念は、Appleが新機能のグローバル同時展開を見送る可能性がある点だ。たとえば現在、Appleが発表したばかりの『Apple Intelligence』は、EUでは法規制との整合が取れないことを理由に提供されていない。仮に日本も同様の規制を強めていけば、「今回の新機能は日本では提供されません」となる可能性がある。

つまり、ユーザー保護のために導入されたはずの法律が、皮肉にもユーザーの選択肢を狭め、最先端の技術を手にする権利を奪う──そんな逆説がこのスマホ新法には含まれている。これはもはや『公正取引』の問題ではない。技術と社会と倫理のバランスをどうとるかという問いである。

iPhoneという選択肢を守る自由が、公正であるべきだ

現在のところ、法案は通っているが、実際の運用指針については議論の最中で、だからこそ、アップルも意見書を出しているのである。

そこには、『アップルがユーザーの個人情報を保護できるようにするべき』『代替アプリストアがユーザーのプライバシー、安全性、セキュリティに危険を及ぼさないようにすべき』『サードパーティのOS機能へのアクセス提供によるリスクを最小限にすべき』『代替決済システムに伴うリスクを最小限にすべき』などの項目が続く。

つまり、運用次第では、これまでiPhoneの中に安全に保存されていた我々の個人情報がMetaやGoogleに提供され、彼らのマーケティングデータに活用されるとか、iPhoneで決済してみたら詐欺だった……というようなことが頻繁に起こるようになるかもしれないということだ。

スマホ新法が、果たして「公正さ」を実現するものなのか、それとも単なる政治的ゲームとして行われる構造改悪なのか。少なくとも、現時点では後者に傾いて見えるのが率直な印象である。

我々は、せめてiPhoneだけでも安心して使いたいだけなのに。

(村上タクタ)

この記事を書いた人
村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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