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『スマホ新法』は、本当に国民のため? App Storeの安全が破壊されると困るのは僕ら

政府……といっても一枚岩ではなく、デジタル庁のように我々の利便性を確保するために活動してくれている省庁もあれば、企業の収益性向上が主眼にあり、かえって我々の生活を不便にしたり、リスクにさらしたりする省庁もある。昨年6月に成立し、2025年12月18日に全面施行される『スマホ新法』(正式名称『スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律』)は、我々のためになる法律なのだろうか? それともロビー活動をした特定の企業のための法律だろうか? そのメリット、デメリットを施行される前に知っておきたい。

スパムと詐欺が蔓延していない、唯一の場所

みなさんのメールボックスにはうんざりするほどのスパムが来ているのではないだろうか? FacebookやX、Instagramなどにも、詐欺まがいのメッセージや、スパムが溢れている。ウェブサイトにも、驚くほど詐欺に類する広告が表示されている。

ただ、ひとつ安全な場所がある。それが、アップルのApp Storeだ。また、GoogleのGoogle Playも近い状況にある。これらアプリストアでは、アップルやGoogleが、アプリの中に詐欺や、犯罪に類する仕組みが紛れ込んでいないか? クレジットカード番号を搾取する仕組みが組み込まれていないか? を莫大な労力をかけてコードレベルまで確認している。

だから、App Storeのアプリは、お年寄りがダウンロードしても、子供たちが使っても、アプリの中にいる限りは安全なのである。

しかし、スマホ新法が施行されると、そうも言ってられなくなる。

シリコンバレー企業が、国家以上の力を持っていいのか?

『スマホ新法』は、『スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律』という名前から分かるように、簡単に言うと、スマートフォンのソフトウエアにおいて、AppleやGoogleなどのビッグテックが不当に優位な状況にあるから、それを制限しよう……という法律である。

それも、まぁ、一理ある。

インターネット、検索、アプリストア……など、今、世の中を支えるテクノロジーはアメリカ、シリコンバレーが中心になって作ってきた。App Storeでアプリを買ったり、アプリを使ってサービスを利用すると、基本的には30%のお金がアップルやGoogleに落ちるようになっている。インターネットで検索を使うと、広告が表示され、その広告費用の一部はGoogleに支払われる。Amazonでモノを買えばAmazonに、その際にVISAカードを使えばVISAにお金が落ちる仕組みの上で我々は生きている。

それはシリコンバレー企業がEvilでないという前提の上に成り立っているが、それにしても1990年代以降の世界は、そういう枠組みで動いている。世界の高い成長は期待できたが、常にシリコンバレーの成長はそれ以上になる仕組みだ。

それに対抗するために、EUはなんであれシリコンバレー企業の収益を損なうためのルールを作るというわけだ。また、富がシリコンバレーに集中しすぎることについて、シリコンバレー以外のアメリカも良かれとは思っていない。

しかし、EUですでに発生しているように、国がアップルやGoogleへの制限を強くすると、彼らが提供する新機能が我々は使えないということも起こるだろう。「日本は非対応。ただし、それは日本の制限のせい」というわけである。

日本はどうあるべきだろうか?

今年12月に『スマホ新法』が施行されたらどうなるか?

EUのやっていることと同様に、日本でもシリコンバレーのやっていることに制限をかけようという法案が『スマホ新法』なわけだが、これまたEUと同じく、この新法は我々一般ユーザーに不利益をもたらす可能性が高い。

『スマホ新法』は具体的には、プラットフォーマーであるアップルやGoogleが、他企業の提供するアプリストアの利用を不当に妨害しないこと、自社以外の課金システムを制限しないこと、自社サービスを優遇しないこと、などを求めている。

つまり、アップルに制限されない独自アプリストアの設立を求めるような法案なのだが、すべてのアプリにウィルスやトロイの木馬、詐欺的仕組みが隠されていないか確認するような莫大な資金と人的資源がかかる作業を、アップルやGoogle以外の企業にが実現可能なのだろうか?

事実、サードパーティ製アプリストアを解禁したEUでは早速ポルノアプリがローンチされた。ポルノアプリは言うまでもなく、詐欺や犯罪の資金源になり、より危険なアプリが入り込む可能性を高める。

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2025年10月27日

規制されない独自アプリストアでは、ゲーム、ポルノアプリなどを足がかりにセキュリティが侵食されていくだろうし、それは「安全なApp Store」を崩壊させていくだろう。iPhoneやAndroidのホーム画面が、今のあなたのメールボックスや、SNSのように混沌とした状態になる可能性は高い。

日本で、誰が独自アプリストアを運営したいと公正取引委員会に主張しているのだろうか? 先のポルノアプリが公開されたストアを運営しているEpic Gamesなのだろうか? それとも他のゲーム会社なのか? はたまた、いつも自社アプリを押し付けようとする通信キャリアなのだろうか? 我々を危険にさらしてまで独自アプリストアを作って、誰が利を得るのか、そこに答えがあるような気がする。

App Storeがいかに努力して平和な状況を維持しているか

以下、アップルのプレスリリースだ。

App Store、過去5年間で不正取引と見なされた取引90億ドル以上を阻止
https://www.apple.com/jp/newsroom/2025/05/the-app-store-prevented-more-than-9-billion-usd-in-fraudulent-transactions/

アップルは、我々が平和にApp Storeを使っている背後で、過去5年間で90億ドル以上の取引を阻止してユーザーを保護している。リスクの高いアプリも200万件近くを我々に届く前に食い止めている。

毎週15万件のアプリを審査し、個人情報を勝手に集めるアプリや、他のアプリの真似やスパム、実はギャンブルやアダルト要素がある『隠し機能』があるアプリを阻止し、2024年だけで190万本以上のアプリを却下、14万6000件のデベロッパアカウントを停止している。また、20億ドル(約3000億円分)の不正取引を阻止し、盗難カード470万枚を特定して利用をブロックしている。

ストアにつく偽のレビューも1億4300万件を阻止し、評価を操作するようなアプリもApp Storeから削除している。

App Storeは安心なクレジットカード利用先だが、それを犯罪者や詐欺集団が利用可能になったら、どのようなことになるのか。想像しただけでも恐ろしい。

まだ、パブリックコメントで状況を変えられるかも

『スマホ新法』は制定はされているが、運用に関してはまだパブリックコメントを募集している段階である。我々の力で、運用を少しはマシなものにできるかもしれないということだ。ぜひ、みなさんの意見を寄せていただきたい。

スマホ新法第三条第一項の事業の規模を定める政令の一部を改正する政令(案)に対する意見募集
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250515_publiccomment.html

(村上タクタ)

この記事を書いた人
村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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