松田聖子のCMと共にインプットされている映画『レット・イット・ビー』|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVol.29

前にも一度記したように、我が家にビデオデッキが導入されたのは81年末のこと。定価20万円の代物が、親が当選した宝くじの賞金を元手に購入の運びとなり、初のビデオデッキが家にやってきた。まさにそれは事件だった。肝心の製品はというと、近所付き合いのあった電気屋からの推薦でナショナルのVHS、ベータマックスという選択肢は最初からなかった。そのデッキで最初に録画したのが、81年末にTBSで放送された映画『レット・イット・ビー』であった。

ベータ普及のための施策「名作洋画ノーカット10週」

復活祭で購入したポストカード

当時のビデオデッキは希少品で、自分のまわりにはビデオデッキがある家はなかった。ぜひ見てみたいというので、友達数人が我が家にやってきて、それで『ルパン三世カリオストロの城』を観た記憶がある(1982年9月22日放送回)。ビデオデッキが一般家庭に普及しだしたのは83~84年にかけてのことで、世間ではその規格を巡る主導権争いが熾烈を極めていた。VHS対ベータマックスのいわゆるビデオ戦争の時代である。当初互角であったものの、徐々に後発だったVHSが優位に立ち、ベータマックスは少数派だった。

その情勢に一矢を報いるべく、ベータ陣営のソニーは趣向を凝らした宣伝展開を行っていたのだが、そのひとつの施策が、83年4月からTBSで始まった『SONY PRESENTS 名作洋画ノーカット10週』であった。ソニーがベータマックスをプロモーションすることを目的とした一社提供の番組で、その名のとおり誰もが知る名画をノーカットで放送する内容が好評を博した。『男と女』『真夜中のカーボーイ』『サイコ』等々。当時の映画番組は、放送枠に合わせ適宜カットしたバージョンを放送することが通例だったので、BSもなければCSもなく、配信なんて想像すらつかない時代においてノーカット(途中一度インターミッションが入る)は画期的かつ貴重なものであった。

その枠で『レット・イット・ビー』が放送されたのは84年4月14日の土曜深夜。83年4月から6月までに10本の名画が放送されたあと、長いインターバルを置いて84年4月に再開した1本目、いわば同枠の目玉として抜擢されたのが『レット・イット・ビー』であった。当時の土曜深夜といえば『オールナイトフジ』が大人気で、わたしもご多聞にもれず毎週楽しみにしていたのだが、『レット・イット・ビー』が放送されると知ってからは『オールナイトフジ』そっちのけでまだかとその日を待ちわびた。

初めて観たノーカット版

映画が始まってまず気づいたのは前回TBSで放送したものとはソースが違うということであった。81年12月放送版はかまやつひろしのナレーションが入っていたのでまずそこが大きく違うのだが、84年版は全体的にクリアで明るい印象、それにトリミングもオリジナルに準じていて、初めて知ることも多々あった。たとえば、前回版の「トゥ・オブ・アス」のシーンはポールをアップ目にトリミングしていたので、ずっと座って歌っていると思っていたのだが、実はポールは立って歌っていたということがわかった。後方にジョージとリンゴがいたことも、84年版で判明した。

そしてなにより音質良好なのもなのもうれしかった。この頃のテレビ放送はほとんどがモノラルでステレオ放送の場合は新聞のラテ欄に「ス」と記され、番組の画面上にも「この番組はステレオで放送しています」とわざわざスーパーが出ていたくらいで、音質は二の次の印象だったのだが、この放送はステレオでこそなかったが、81年版よりは音質が向上していたことはうかがえた。あとはなんといっても前回の放送ではカットされていたシーンが見られたことに感動を覚えた。とくにジョージとリンゴが二人で仲良く「オクトパス・ガーデン」を作曲するシーンはたまらないものがあった。

このときの放送はきちんとVHSの標準で録画し、永久保存版となるのだが、映画『レット・イット・ビー』はそのあと、権利上の問題とかで公式に上映されることも、ソフト化することもなく、40年以上も闇に葬られてしまう。その間に数多く出回ったブートのソースがこのノーカット版であることも少なくなかった(たいていは幻のレーザーディスクをソースにしていたが)。わたしは81年版を嫌になるほど、それこそムッシュのナレーションを暗記するくらい見返したし、84年版もしかり。今までで最も多く見た映画、思入れのある映画が『レット・イット・ビー』なのである。

それゆえ、近年ディズニーチャンネルで配信されたときは様々な感慨が沸き上がって来たものであった。同時に、ラストがオリジナルと違うことに違和感を覚えたり。さらには、84年版になじみがある者としては、本編終了後に放送されたソニーのCM、松田聖子のベータマックスやヒットビットのCM映像込みで認識されているから、勝手に松田聖子のCMが頭の中で付け加えられたりして、なかなかに厄介である。

サザンのビリー・ジョエル版「レット・イット・ビー」

最後に余談的な話をひとつ。このとき放送では途中一回だけわずかなインターミッションが入ったのだが、その間に日本テレビにチャンネルを変えてみたらサザンオールスターズが出ている番組が放送されていた。『サザンの勝手にナイトあっ!う◯こついてる』というタイトルの、サザンがコントをやったり演奏をしたりという音楽バラエティで、これがサザン初の冠番組だったとか。桑田佳祐が長門裕之に似ている方との理由で、南田洋子が出ていたり、まだ人気が出る前のSETもコントをやったりしていた。

このときは、軽く認識するくらいだったのだが、第二回放送ではサザンが「レット・イット・ビー」をカバーしていた。しかも、これがおもしろかった。通常のアレンジではなくて、もしもビリー・ジョエルが「レット・イット・ビー」を歌ったらという架空カバーバージョン。この頃桑田佳祐はテレビやラジオでビリー・ジョエルのものまねをよくしていた。その流れだったのだろう、「ガラスのニューヨーク」を模したアレンジで、リズムもアップテンポに替え、そこに「オネスティ」や「アレンタウン」などのビリーの曲名がインサートされていく。嘉門雄三&ビクターホイールズのライブ盤に入っていた「ガラスのニューヨーク」のような感じといえばわかりやすいだろうか。これがカッコよかった。

MCではラジオの番組でビリーと話す機会があり、「ビートルズに入りたいと思ったことはありますか?」と質問をしたらビリーは黙ってしまったというエピソードを話してくれたことをこれを書いていて思い出した。このビデオ実家のどこかに眠っていると思うのだが、まだ観られるだろうか。

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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