【世界が認める日本の先駆者たち⑦】陶芸家・額賀章夫|笠間の伝統工芸を世界に。

もしこのヒトがいなかったら……。身近にあるカルチャーやプロダクツが、たった一人の日本人が先駆けとなったことで、世界に大きな影響を与え、文化を築き上げていた。そんなレジェンドと呼ぶに相応しい賢人たち7名の今と昔を取り上げていく連載企画の最後に取り上げるのは、ヒースセラミックスをはじめ、海外でも個展を行っている陶芸家の額賀さん。笠間の伝統を守りながらも、モダンに仕上げる作品は国内外で多大な評価を得ている。

 

1963年生まれ。東京都出身。N.ceramic studio代表。東京造形大学デザイン学科を卒業後、茨城県窯業指導所ろくろ科の研修生に。1993年独立

茨城県笠間市の伝統工芸である笠間焼。その歴史は旧く、江戸時代の安永年間(1772〜1781年)に信楽の陶工である長石衛門の指導によって始まった。厨房用粗陶器の産地として賑わったが、戦後にプラスティック製品に押され、風前の灯火になってしまった。笠間焼を終わらせない。そんな熱意から生まれたのが、茨城県窯業指導所。ここは美大を卒業した額賀氏が門戸を叩いた場所である。

笠間市下市毛にて独立後、1999年には現在の工房へと移転

「美大を卒業後は、大工仕事で生計を立てていました。そこで気付いたのが自分は机に座るのではなく、手を動かすことが好きということ。同僚の勧めもあり、焼物をやってみようと思い、父親が茨城出身で遠い親戚が笠間にいたので、そこの窯業指導所に入ったんです。翌年に向山窯で修行を始め、その後独立しました」

額賀さんの作品は、笠間の赤土を使い伝統を感じさせながらも、モダンな仕上がり。和物でも洋物でも絶妙なバランスは、海外でも高く評価されており、あのアダム・シルヴァーマンと共作したことも。その関係もあり、サンフランシスコのヒースセラミックスで個展を毎年行っている。

なんとロサンゼルスのベニスビーチにある超人気店であるGjelinaから特別オーダーされたラーメン鉢。黒掛け分けで作った

「海外に出るきっかけは、2006年に福光屋さんでやった個展。そこにニューヨークの高島屋でバイヤーをしている方に出会い、翌年から海外との取引が始まりました。同時期にヒースセラミックスのディレクターをやっていたアダム・シルヴァーマンが工房へ遊びに来てくれて、そこからヒースセラミックスで個展をやるようになったんです。粉引しのぎを中心よした昔ながらの手法で作っているだけなのですが、ここまで評価してもらいありがたい限りです」

海外の個展で額賀さんが作り方を説明している様子

そう謙遜するが、修行を積んだ職人であればできる代表的な手法で他と差をつけられるセンスや技術こそ、額賀さんの魅力である。その人気は国内外でもかなり高く、作品は年に10回ほど行っている個展で買うことができるが、初日でほぼ売れてしまうことも。超が付く人気作家にも関わらず、気兼ねなく日常使いしてほしいとの思いから価格設定もけっして高くない。そんな作品を作る上でのイメージソースになっているのが、学生時代に見た中近東を中心とした各地の民芸品だと語る。

制作途中のプリーツワーク。手作業で削っていき、プリーツ状にしていく。額賀さんの作品を代表する手法のひとつだ

「直接的に影響を受けているというわけではありませんが、学生時代に中近東文化センターや出光美術館、日本民藝館などで、各地の民芸品を見ていました。その経験値が自分のモノ作りに影響を受けていることは間違いありません。あとは毎回のように来てくれるお客さんの顔を浮かべながら、新作を作ることが多いですね。喜んでもらえるのが一番ですから」

モダンとクラシックが融合する唯一無二の作品。

額賀さんが得意とするのは、笠間の赤土の風合いをうまく活かした粉引と繊細な手作業に寄るプリーツワーク。また国内外で多大な評価を得ているのが、美しいカラーリングが光るインディゴシリーズ。ひとつずつ表情が異なる。

インディゴ

額賀さんが2015年頃始めた独自の手法で、コバルトを使って、この鮮やかなブルーを表現。当初はボーダー柄で作っていたが、試行錯誤して全体に色を付けるようになった。

プリーツワーク

伝統的な粉引と手作業によるプリーツワークが組み合わされた人気のシリーズ。この模様は、手作業でひとつずつ削っていくので、高い技術と時間が要求されるのだ。

黒掛け分け

2種類以上の釉薬を使った掛け分けの手法もよく使うもの。インディゴや白といったイメージが強いが、海外では黒の人気も高い。

額賀さんが得意とする粉引に窯変(ようへん)をうまく活用して、より風合いを出したシリーズ。笠間焼の特徴である赤土とも相性がよい。

額賀章夫さんのヒストリー

1963年 東京都杉並区に生まれる
1985年 東京造形大学デザイン学科を卒業
1988年 茨城県窯業指導所ろくろ科研修生
1989年 向山窯にて修業
1993年 笠間市下市毛にて独立。工房名「額賀章夫陶磁器工房」。
1999年 現在地に工房を移転 周りに何もなかったが、ロケーションが気に入って選んだそう。そこを開墾して現在の形に。2011年、屋号をN.ceramic studioに変更。
2007年 ヒースセラミックスでの個展をスタート

▼まだまだいます、世界に誇る日本の先駆者たち。

【世界が認める日本の先駆者たち①】「EVISU」山根英彦|日本で生まれたカモメマークは どこよりも早く世界へと羽ばたいた。

【世界が認める日本の先駆者たち①】「EVISU」山根英彦|日本で生まれたカモメマークは どこよりも早く世界へと羽ばたいた。

2021年10月24日

世界が認める日本の先駆者たち②「CHABOTT ENGINEERING」木村信也|モーターサイクルをアートにした先駆者。

世界が認める日本の先駆者たち②「CHABOTT ENGINEERING」木村信也|モーターサイクルをアートにした先駆者。

2021年10月24日

【世界が認める日本の先駆者たち③】「ムーンアイズ」ワイルドマン石井|ピンストライピングを広めた第一人者。

【世界が認める日本の先駆者たち③】「ムーンアイズ」ワイルドマン石井|ピンストライピングを広めた第一人者。

2021年10月24日

【世界が認める日本の先駆者たち④】「ロッドモータース 」葛木誠&良|アメリカ車文化を牽引する親子。

【世界が認める日本の先駆者たち④】「ロッドモータース 」葛木誠&良|アメリカ車文化を牽引する親子。

2023年02月21日

【世界が認める日本の先駆者たち⑤】レッドブル・エアレース・パイロット・室屋義秀|日本人初のワールドタイトルを獲得したパイロット。

【世界が認める日本の先駆者たち⑤】レッドブル・エアレース・パイロット・室屋義秀|日本人初のワールドタイトルを獲得したパイロット。

2023年02月21日

【世界が認める日本の先駆者たち⑥】「新喜皮革」|世界屈指のコードバンタンナー。

【世界が認める日本の先駆者たち⑥】「新喜皮革」|世界屈指のコードバンタンナー。

2021年10月24日

(出典/「Lightning 2018年1月号 Vol.285」)

この記事を書いた人
めぐミルク
この記事を書いた人

めぐミルク

手仕事大好きDIY女子

文房具、デザイン、ニッポンカルチャーなどのジャンルレスな雑誌編集を経てLightningへ。共通しているのはとにかくプロダクツが好きだということ。取材に行くたび、旅行するたびに欲しいものは即決で買ってしまうという散財グセがある。Lightningでは飲食、ハウジング、インテリアなどを担当。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

日本人に最適化された新作の“JAPAN LIMITED”に注目!「MOSCOT」現代に引き継がれるアメリカンクラシックのDNA

  • 2026.05.20

1915年にNYで創業し、アイウエアデザインの王道を形づくった「モスコット」。多様なデザインで溢れるいまこそ、伝統に裏打ちされたクラシックな佇まいに惹かれる。 新作の“JAPAN LIMITED”のラインナップを紹介! 2016年よりスタートした“JAPAN LIMITED”は、インラインにはないノ...

「ファーストアローズ」創業30周年記念! 「JELADO」「RE-BUILT」とのコラボによる銀で彩った、贅沢なデニム。

  • 2026.06.29

日本屈指のシルバーアクセサリーブランド「ファーストアローズ」が創業30周年を記念して、これまでの集大成かつファンへの感謝の気持ちを込めて、「JELADO」と「RE-BUILT」とコラボしたスペシャルなデニムを制作。限定100本。節目の年に相応しいこだわりに満ちたデニムの詳細を大解剖! First A...

アメリカンクラシックの原点「ディグナ クラシック」の[ジミー]なら、カラバリ・仕様も豊富で自分好みの1本が見つかる!

  • 2026.05.21

50sアメリカンスタイルを踏襲した「ディグナ クラシック」の[ジミー]は、シンプルなデザインやクラシックな世界観から多くの人に愛される名作。その人気ゆえ、仕様やカラーのバリエーションが非常に豊富な[ジミー]の全容をいま一度おさらいする。 955E“Jimmy”とはどんなメガネ? 1950年代にアメリ...

もはや芸術品! 「Horizon Blue Jewelry」の装飾品の域を超えた美学

  • 2026.06.26

あまりに精緻で、目を見張るほどに美しいHorizon Blue Jewelry。その作品群を目の当たりにすれば、単なるアクセサリーの域を超え“芸術品”とも称される所以を容易に理解できるだろう。ここでは、アートピース級の美しさを湛えるジュエリーのなかから今後発売予定の新作も含めて紹介する。 アクセサリ...

上品に纏うちょうどいい季節。大人の夏にちょうどいい「ORGUEIL」のシャツ

  • 2026.06.30

気温の上昇とともに、装いは軽く簡素になる。だからこそ求めたいのは、肩肘張らない大人の品格だ。クラシックをモダンに再構築したORGUEILのシャツが、大人の夏にちょうどいい存在感を放ってくれるはずだ。 Shawl Collar Denim Work Shirt 1930 年代に現存したアメリカンワーク...

Pick Up おすすめ記事

上品に纏うちょうどいい季節。大人の夏にちょうどいい「ORGUEIL」のシャツ

  • 2026.06.30

気温の上昇とともに、装いは軽く簡素になる。だからこそ求めたいのは、肩肘張らない大人の品格だ。クラシックをモダンに再構築したORGUEILのシャツが、大人の夏にちょうどいい存在感を放ってくれるはずだ。 Shawl Collar Denim Work Shirt 1930 年代に現存したアメリカンワーク...

革ジャン好きなら一度は通るべき! 「No,No,Yes!」の最上級オーダー“アルチザン”とは?

  • 2026.06.01

「世界にひとつだけの革ジャンを作る」。それは、レザーラバーの憧れだ。革好き注目のブランド「No,No,Yes!」が誇るオーダーメニューの中でも最上級に位置する「アルチザン」とはいったいなんなのか? その正体に迫る。 革ジャンの伝道師・モヒカン小川が実際に“アルチザン”を体験 これは単なる革ジャンの話...

もはや芸術品! 「Horizon Blue Jewelry」の装飾品の域を超えた美学

  • 2026.06.26

あまりに精緻で、目を見張るほどに美しいHorizon Blue Jewelry。その作品群を目の当たりにすれば、単なるアクセサリーの域を超え“芸術品”とも称される所以を容易に理解できるだろう。ここでは、アートピース級の美しさを湛えるジュエリーのなかから今後発売予定の新作も含めて紹介する。 アクセサリ...

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。

働くヒトとヴァーグウォッチ。【vol.01靴磨き職人/「Chett」店主・大平雄太さん】

  • 2026.05.21

「Time is Money」=「時は金なり」。自身の仕事に誇りを持ち、日々働く人々は有限な“時間”というものを重んじ、身につけるプロダクトにも徹底的にこだわる。アンティークウォッチの旧きよきディテールを備えながら、手軽かつデイリーに使うことのできるヴァーグウォッチはそんな彼らの心強い相棒となる。 ...