3ページ目 - ゆかりの地巡りとUK盤で楽しむ気分はビートルズ|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.16 井上ジェイ

井上:初版は2011年だから15年も前のことですね。だいぶ集めてきたから、一度まとめて本にしたい、プレス違いのレーベルをカラー写真で全部紹介したいと思ったんです。知り合いだった音楽評論家の保科(好宏)さんに相談したうえで、藤本(国彦)さんに会いに行った。でも、もともと藤本さんをぼくに紹介してくれたのは竹部さんですよ。

竹部:藤本さんにもそういわれたんですが、あまり記憶がなくて。

井上:ニューヨークのイージー・スターズ・オール・スターズというレゲエバンドが『サージェント・ペパーズ』をまるごとカバーしたアルバムを出したとき、ある小冊子でそれについて藤本さんとぼくが話をすると言う取材だったんです。

竹部:それも記憶になくて。すいません。ビートルズの再発盤が出たときにぼくが編集で関わっていたウェブサイトMUISCSHELFでお二人に対談してもらった記憶はあるんですが……。

井上:その前に会っているんですよ。品川か五反田だったかのカフェで。ぼくと藤本さんの対談をまとめたのが竹部さんでした。だから、藤本さんは知っていたんですね。

竹部:そうだったんですね。とにかく、それがきっかけで、『コンプリート・ガイド』が生まれた。このシリーズのこだわりは半端ないですよね。過去のアイテムだけではなくて最新リリースまで追いかけているところが素晴らしい。

井上:ただ、イギリスってもうレコードを作っていないんですよ。ドイツ、チェコ、オランダとかでプレスされていたレコードがEU盤としてイギリスでリリースされている。正確に言うと、イギリスはもうEUに入っていないんだけどね。ついでに言うと、最近はアメリカでプレスしたものをワールドワイド盤っていう言い方をしたりするんですよ。

竹部:イギリス盤独自の風合いってあるじゃないですか。

井上:それはもうないですね。絶妙な感じが。

竹部:だからぼくは最近の再発のアナログには全然興味がもてないんです。いろんなものが復刻されているけど、昔のイギリス盤にあった独特の風合いが感じられないので。

井上:そういうこともあって60年代、70年代に出たオリジナルのUK盤が本当に大事になってきている。ビートルズに関してはUK盤とUS盤も買うんです。アメリカ盤もひと通り集めたけど、とてもじゃないけど全部は集めきれないなと思って。アメリカ盤は3カ所のプレス工場で作られていて、それぞれが微妙に細かく違うんですよ。

竹部:アメリカ盤はさらに奥が深そうですね。

井上:アメリカ盤はブルース・スパイザーっていう専門家いて、その人が出した本を参考にしています。

竹部:『コンプリート・ガイド』はビートルズ、ポール、ジョージと来て、昨年末にジョンが発売された。これも労作ですね。ジョンは作品が少ないと思いつつも、再発盤の数が半端ないじゃないですか。『イマジン』なんか何回で直っているんだと言うくらいで。あと、レコード・ストア・デイにもいろいろ出ますよね。

井上:レコード・ストア・デイは忙しいときはうっかり忘れてしまうこともあって、あとから買うことも多いですよ。最近はボックスもどんどん豪華になって、高価になっているのでもう少し買う側の懐具合を気にしてもらいたいけど(笑)。

竹部:ジョンの『魂』『イマジン』『マインド・ゲームス』、そして今回の『パワー・トゥ・ザ・ピープル』は仕様が豪華、高価すぎて、もう買えないです。これだけ仕様が細かいと一冊にまとめるのも大変じゃないですか。

井上;大まかなレイアウトはぼくが作って、藤本さんとデザイナーさんに渡して、そこにジャケットを入れて、いろいろ調べながら原稿をまとめていくんです。2年前には大方できていたけど、自分一人で作るわけではないので時間がかかってしまいましたが。

竹部:時間がかかると思いますよ。

井上:完璧だなと思っても本が出た翌日には間違いに気づいたりして、完璧はないんです。

竹部:難しいですね。それにしてもこの表紙はいいですね。

井上:藤本さんがゲッティで写真を探してきてくれて、候補が何種類かあったなかから選びました。

ウェンブリー・スタジアムで聴いた「レット・イット・ビー」

『ジョン・レノンUK盤コンプリート・ガイド』増補改訂版

竹部:デザインも素晴らしい。レコード本好きにとってはたまらない一冊です。藤本さんとの共同作業といえば、冥土の土産ツアーがありますよね。好評だそうで。

井上:おかげさまで。藤本さんのキャラクターで成立しているツアーだと思いますよ。

竹部:準備やら現地での引率やら、苦労も多いと思いますが。

井上:ゆかりの地巡りは基本歩きじゃないですか。ぼくは慣れているから平気なんですけど、参加者は高齢な人が多いので、ついてくるのも大変だと思う。でも、みんながんばって歩いてる(笑)。その晩は「疲れた」って言うけど、翌日はケロッとしてまた歩く。帰国後も、「大変だった」というネガティブな感想じゃなくて「よかった、面白かった、また行きたい」っていう人が多いんです。

竹部:それはうれしいですね。でもイギリスに行くと本当に歩きますよね。

井上:まわりからするとぼく歩き方は普通じゃないみたい(笑)。

竹部:健康な証拠ですよ。でも、ジェイさんは何度も言っている場所だから新鮮味はないわけですよね。

井上:それはないですけどね。仕事だし、まぁ気分転換にはなるので、それはそれでいいんですよ。あと、初めて行く人が感動している姿を見ると、自分が初めて来たときの感動を思い出したり。その感動がずっと続いているわけですからね。

竹部:自分も初めてイギリスに行ったときの感動は忘れないです。そういえば、ジェイさんは85年にウェンブリー・スタジアムで『ライブエイド』を見ているんですよね。ポールの「レット・イット・ビー」を聞いているんですよね。

井上:とにかく生でポールが見たかったんですよ。クイーンやボウイとかいろいろ出たけど、ぼくの目当てはポールだけ。そのために朝一からウェンブリーに行って、並んでスタジアムに入ったらすでに超満員で。オープニングのステータス・クォーから見て、バンドが入れ替わるごとにちょっとずつ前進して、最終的にはアリーナのPAのあたりまで行って、そこでポールを見たんです。それ以上前は行けなかったけど、初めて生のポールを見たときは感動しましたよ。

竹部:それはすごい話です。ぼくはテレビで観ていました。

『ライブエイド』でのポール。井上ジェイさん撮影

井上:そのあと、ポールが来日しましたよね。90年? 何月でしたっけ。

竹部:3月です。

井上:そのときは、オリコンからの撮影依頼で記者会見に行きました。

竹部:MZA有明ですよね。

井上:あれも感激でしたよ。ポールをすぐ近くで観られた。あのときは今まででいちばん近かった。

竹部:そのときぼくは会場前までクルマで行ったんですよ。居ても立っても居られずに……。まだメディア関係者ではなく、一般人だったので入れなかった。

井上:音漏れとか聞こえなかった?

竹部:会場に着いたら出待ちのファンの人が「ポールもう中に入ってしまったよ。もう少し早く来れば見られたのに」って言われて、あきらめて帰ってしまったんです。待っていればよかったのかもしれないですね。

井上:「マッチボックス」まで歌ってくれてね。そのあと、イギリスでまたポールを見ているんですよ。「ネブワース」というフェスで。このときはチケットを入手してひとりで見に行きました。いろいろなアーティストが出たなかで、ポールはトリを務めたピンク・フロイドのひとつ前。なぜかというと、ピンク・フロイドはレーザー光線を使ったり、照明に凝るステージだから暗くならないとできない。ロンドンの夏は明るいからね。でもあのときの「ネブワース」は本当に素晴らしくかった。風が吹いて、雲が流れて、すごくいい景色の中でポールが出てきたんですよ。

竹部:あのときのポール、ジョンのメドレーをやったんですよね。「ヘルプ!」「ストロベリー・フィールズ」「ギブ・ピース・ア・チャンス」。

井上:忘れちゃいました。やったような気がする(笑)。曲目とか全く覚えてない。ただあの景色だけがすごく印象に残っているな。ピンク・フロイドまで見たかったけど、全部見ると帰れなくなっちゃうから、ポールが終わったら帰ってしまったんだけど。

自分のビートルズ人生に影響を受けた『気分はビートルズ』

2004年の「グラストンベリー」でのポール 竹部撮影

竹部:そして2004年の「グラストンベリー」。ジェイさん、あのときはオフィシャルで写真を撮っていますよね。

井上:取材規制があって、カメラマンの数が限定されていたんです。有力紙や地元のカメラマンが優先ですし。これは無理かなと思ったんだけど、報道担当者に交渉して「日本でいちばん売れている音楽雑誌の取材だ」ってハッタリをかましたら入れてくれた(笑)。曲は始まっていたけど、最前列で撮ることができた。あのときのポール、髪が短くてあまりカッコよくないんだけどね(笑)。ぼくが今まで見たポールのコンサートでいちばん感動したのはあれなんですよ。

竹部:同じく。ぼくもあの「グラストンベリー」にいたんですよ。ロンドンからレンタカー借りて、5時間ぐらいかけて行ったんです。当時、ぼくが務めていたオリコンにロンドン支社があって、そこのスタッフにプレス申請してもらったんですよ。そうしたら通って、その人間と2人で行きました。初日がオアシス、2日目がポール、3日目がモリッシーで、全部観たかったけど、ポールだけに集中したくて、2日目の朝に向かったんですね。それが誤算で、2日目からの参加だと駐車場も遠いし、テントを張るスペースもなくて……。そうこうするうちに雨が降ってきてしまって、テントをあきらめて車中一泊することに。昼の3時くらいにピラミッドステージに着いて、そこからライブが終わるたびに前方移動して、ポールが出るころにはかなり前の方まで行けて、ベストな位置で観ることができた。

井上:現地のファンはみんな歌うんですよね。ライブが終わっても「ヘイ・ジュード」の大合唱が終わらない。

竹部:そうでした。野外の花火も迫力があって凄かったですね。ドームのような室内だと花火が見られないじゃないですか。ライブ終わったのは夜中の12時くらいで、そこから駐車場まで戻るんだけど、真っ暗だし、雨が降ってるしで、全然自分らのクルマが探せないんですよ。いま考えてもよく戻れたなと。翌日は晴天で。またクルマを走らせてロンドンまで戻って来たんですけど、途中でストーンヘンジを見つけて、これまた感動でした。やはりイギリスで観るポールは違いますよね。

井上:日本のドームで見るものとは全く別物ですよ。やっぱり、ポールはイギリスで見なければ本当の良さはわからないと僕は思います。

竹部:わかります。

井上:ポールは2022年にも「グラストンベリー」に出ているんだけど、それはコロナ禍だったので観られなくて、それが残念で。

竹部:とはいえ、ジェイさんは40年近くグラストンベリーに行っているわけですよね。

井上:ポール以外では、ストーンズ、ロッド・スチュアート、ニール・ヤング、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、ボウイを観ています。「グラストンベリー」はベテランががんばっていますよ。ほかにも、もちろん、オアシス、ブラー、レディオヘッドも観てますよ。

竹部:では最後に、今後のジェイさんのビートルズライフはいかがですか。

井上:これ竹部さんに相談しようと思っていたんですけど、『ビートルズ・ストーリー』で連載していた「カメラマンとビートルズ」を1冊にしたいと思っているんですよ。

竹部:『ビートルズ・ストーリー』で連載やってもらっていましたね。あれはおもしろかった。あの視点では誰も語っていないし、ジェイさんが本にするべきだと思います。ビートルズはいろいろな才能あるカメラマンの被写体になっているから、それは解説のしがいがありますよね。日本にも浅井慎平さん、長谷部宏さんがいますしね。

井上:ぼくは浅井慎平さんの『気分はビートルズ』が大好きなんですよ。あれが出たのはぼくがまだ大学生の頃だったけど、すごく影響を受けているんです。全体はトロピカルな感じなんだけど、途中に浅井さんが撮ったビートルズの写真が挟み込まれる。あれがいいんだよね。

竹部:南国とビートルズって、ジェイさんの原点とも言えますね。『気分はビートルズ』を若いファンに伝えたい。

井上:昔からビートルズを知っているファンは高齢化して、みんなオーバー70なんですよね。ぼくも71だし、それ以下の人は後追いの人たちなので、もう少ししたらちょっとずつ忘れられていくのかなと思ってしまう。ビートルズの4人の名前を言える若い人なんて少数派でしょ。ぼくらみたいなファンが伝えることをやめたときに完全に歴史になっちゃうのかなって思う。

竹部:だから伝えていかないと。でもビートルズは、毎年コンスタントに新しいアイテムがリリースされていますし、映画も公開されたり、動画配信があったりしますからね。

井上:そこがビートルズのすごいところだと思うけど。

竹部:そのたびにジェイさん、レコードを買っているわけですよね。

井上:買ってしまうけどね。でももう十分知っちゃったという気持ちはあって、今後は静かに過ごしたいと思うけどね。

竹部:マニアックなビートルズゆかりの地ガイド、カメラマンで語るビートルズ本を作りましょうよ。それにビートルズのレコードは出つづけるわけだから『コンプリート・ガイド』も改訂版が必要になってきますよ。

井上:そうですね。『コンプリート・ガイド』の改訂版も作らなければならないのかな。

竹部:そうですよ。今日はありがとうございました。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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