2ページ目 - ゆかりの地巡りとUK盤で楽しむ気分はビートルズ|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.16 井上ジェイ

クロイドンにあった中古レコード屋BEANOS

オアシスで売られていたジョンとヨーコの『トゥ・ヴァージンズ』

竹部:それはすごくわかります。ぼくがジェイさんと初めて会ったのは『ガリバー』から10年後、2000年頃かな。初めてジェイさんの原宿のオアシス事務所に行ったとき、そこにあった大量のレコードにびっくりするんですよ。『トゥ・ヴァージンズ』のオリジナルを初めて観ました。旅行会社であり、レコード屋でもあったという。

井上:しょっちゅうイギリスに行っていたから、ビートルズのゆかりの地巡りと並行してレコード屋巡りをするようになってUK盤のレコードを集めるようになったんです。ほんとはレコード屋をやりたかったんだけど、準備もできていなかったし、資金もないので、事務所のスペースの一角でレコードを売るようになった。

竹部:全然一角とは思えなかったんですが(笑)。

井上:ぼくがレコード屋を始めたのは95年ぐらいからだったんですが、最初はジャマイカからレゲエのレコードを直輸入して売っていたんです。世間はCDが普及していたけど、レゲエはアナログが主流だから。日本にもレゲエマーケットがあって、あの頃はとにかく仕入れれば仕入れるだけ売れていた。それでぼくはロックも同じようにアナログが重要だと思っていたから、だったら古いイギリス盤のアナログが狙い目だなと思って、UK盤を扱うようになったんです。

竹部:ここもレゲエが先なんですね。

井上:最初は自分のコレクションで重複したものを渋谷の中古レコード屋に売っていたんです。LIVERPOOLっていうレコード屋にイギリス盤は全部任せていた。

竹部:LIVERPOOL! ぼくもよくそこでレコード買っていましたよ。クアトロの真向かいのビルの2階。店主が筑紫哲也みたいな顔した人で(笑)。

井上:あの店に置いてあったイギリス盤はぼくが預けたレコードですよ。

竹部:そうだったんですね。でもぼくの印象ではLIVERPOOLは輸入盤とブートのお店で、中古の存在には気が付きませんでした。ぼくはよくブートを買っていて、『ロスト・レノン・テープス』、プリンスの『ブラック・アルバム』はあそこで買いました。

井上:ぼくがLIVERPOOLに委託で卸していたのは90年前後だったかな。

竹部:なるほど。ぼくがLIVERPOOLに通っていたのは87年、88年、89年あたり。それで95年以降は自分のお店でUK盤を売るようになっていくんですね。

井上:そこで売れるのは分かったから、だったら自分で売ろうかなって。それほど大きなマーケットだとは思っていなかったんだけど、それは読み違いだった。いまになって思えば、最初から大々的にやったほうががよかったかもしれないね。

竹部:その頃からオリジナル盤を扱うレコード屋が出てきましたよね。渋谷の辺りに。当時はどういうペースで買い付けていたんですか。

井上:年に2回ぐらいは必ずイギリスに行っていました。6月は必ず「グラストンベリー」のツアーで行くでしょ。それが終わったあと、参加者を帰国させてから1週間ぐらい残るんです。それからリバプールをはじめイギリスの各地を回って写真を撮ったり、レコード買ったり。

竹部:当時はまだレコード屋がいろいろありましたよね。

井上:ありました。ロンドンのお店はそれなりの値付けをしているんだけど、郊外まで足を延ばしてみると同じものがと二束三文で売られている。そこでロンドンのお店の値付けが高いのがわかった。地方都市に行けば、レコード屋は必ず1、2軒はありました。

竹部:覚えている町とかお店とかありますか。

井上:ロンドン郊外のクロイドンという街。ビクトリアから30分ぐらい電車で行ったあたり。駅降りてから歩いて15分ぐらいのところにあった……。

竹部:行きましたよ、クロイドン。BEANOSですよね。

井上:そうだ。建物1軒まるごと中古レコード屋の。そこに行くようになってからは、事前に欲しいものリストを作っていくんです。でも、行くたびにリスト以外の新しいものが並んでいるわけですよ。シングルのプロモ盤とか。高い値付けだけど、それでも世間で売られている値段よりは安いかった。まるごと買っちゃったりしていました。予算に限りがあるのに、無理しちゃって(笑)。

竹部:BEANOSは2度ほど行ったんですが、ビートルズはあまり見かけなかった気がするんですよ。

井上:上の階にヴィンテージだけのフロアがあるんです。1階と2階は普通の中古盤が売っているんだけど、3階か4階まで上がってくとびっくりするほどのヴィンテージ盤がある。店員に「これを探している」って言うと、裏のほうから出してくれて。

竹部:そうだったんですね。気が付かなかった……。

井上:あとはブライトンかな。あそこはレコード屋がいっぱいあってね。

竹部:ぼくもブライトンは何度も行きましたよ。それも雑誌『ガリバー』のロンドン特集に載っていた小西康陽さんの旅行記でブライトンが紹介されていたのがきっかけでしたよ。それは91年の号でした。ひとつレコード屋を見つけては「この近辺にほかにレコード屋はありますか?」って聞いて合計10軒くらいは行ったと思います。さすが、ファットボーイ・スリムが出たところだなと。

井上:ほかに、サウザンプトン、サウスエンド、コルチェスター、ノーザンプトン。あとマンチェスターもレコード屋が多いんですよ。

竹部:そうでしたね。

井上:あとは、リバプール行く前に、よくバーミンガムに寄っていたんですよ。バーミンガムはレゲエに関係のある街だから。UB40やスティール・パルスとかの出身地だし。ジャマイカが独立したとき、多くのジャマイカ人がイギリスに移住したんだけど、ロンドンはもちろん、ブリストルやリバプール、バーミンガムにも移り住んだ。そこにはコミュニティがあって、バーミンガムにはハンズワースっていうところがあるんです。スティール・パルスに『ハンズワース・レボリューション』っていうアルバムがあって、ハンズワースがバーミンガムの街の名前だと知ったときに、これは1回見てみようと。ジャマイカ人だらけの不思議な世界で、教会ではゴスペルをやっているんですよ。あとバーミンガムといえば、エレクトリック・ライト・オーケストラだよね。それとマンチェスターに10CCの出身地のストックポートもある。音楽で知った情報をもとに現地を訪れて、レコード屋を巡るというのがいつものパターンでした。

竹部:筋金入りですね。クロイドンで思い出したんですが、『RECORD COLLECTOR』に載っていたお店に行きたくて、住所通り探したんだけど探せなかったので、公衆電話から電話をかけたんですよ。そうしたら「うちはメールオーダーオンリーだから」って。確かに広告を見るとそう書いてあったんだけど「日本から来ました」と言ったら、「じゃあ倉庫見せてあげるよ」って言われて、行きましたよ。親切な店主で。

井上:そういうことはよくありますよ。電話して説明すると、「家までくれば」と言われて、駅まで車で迎えに来てくれた。「勝手に見ていいよ」とか言われて。しかも格安なんですよ。そうやって回っている間にレコード屋の知り合いができた。その人たちにリストを渡しておくと、リーズナブルな値段で探しておいてくれたりして。

竹部:街のレコード屋以外にもレコードフェアがあるじゃないですか。

雑誌『RECORD COLLECTOR』でレコードフェアのスケジュールを確認

井上:それもいろいろ行きました。ロンドン市内も地方も、レコードフェアがあると知れば探していきましたね。

竹部:雑誌『RECORD COLLECTOR』を見て。

井上:ロンドンに着いたら、まず『TIME OUT』と『RECORD COLLECTOR』を手に入れてレコードフェアのスケジュールをチェックする。

竹部:基本ですよね。同じことをやっていました。ジェイさんとは買う量が全然違うでしょうが。

井上:ぼくは商売としてやっていたから。ある程度お金も用意していたし。

竹部:一度の渡英で何枚ぐらい買っていたんですか。

井上:行くたびに増えて、毎回平均して100枚以上は買っていたかな。シングルはカバンに入れて持ち帰りましたけど、LPは船便で。DHLとかフェデックスとかあるけど、いろいろ調べているうちに、郵便が安いってことが分かった。ロイヤルポストですね。

竹部:それすべてひとりで行っていたんですか。

井上:もちろん。泊っているホテルで段ボールにレコードを詰めて荷造りして、郵便局に持ち込むんです。

竹部:仕事とはいえ、好きじゃないとできないですよね。

井上:それが楽しい。あるとき、「グラストンベリー」の参加者から「イギリスのレコード屋を案内してください」って言われて、一緒に回ったことが1、2回あったかな。その人は中古レコード屋の人だたったんだけど、彼らが借りたレンタカーで、ぼくが道案内して連れていってあげたことがある。

2011年から刊行が始まった『UK盤コンプリート・ガイド』

『オールディーズ』UKオリジナル盤

竹部:イギリスの中古レコード屋巡りに関する話は尽きないですね。ジェイさんがUKオリジナルに惹かれるようになったのはいつからなんですか。

井上:ぼくが初めてUK盤を買ったのは85年。「グラストンベリー」が終わったあとに、ロンドンのカーナビー・ストリートを歩いていたら、ブティックみたいなお店に『オールディーズ』のレコードが立てかけられていたんです。『オールディーズ』自体は別に珍しくもなんともないんだけど、ジャケットからレコードを出してみたら、今まで見てきたレコードとレーベルが全然違うことに気づいた。イエローパーロフォン盤だったんだけど、5£だったかな。当時1£250円の時代ですよ。それを買ってからイギリス盤を集めてやろうと思った。

竹部:それは早いですね。

井上:もっと早い人はいたと思いますよ。

竹部:年代によるプレス違いとかはどのように情報を入手されていたんですか。

井上:最初はイエローパーロフォンならなんでも買ってやろうって感じ。それから少し経って、年代によってレーベルが違うことがわかりだしたのね。参考になったのは東京ビートルズファンクラブの会報。そこにレーベル研究の連載があって、それを読んで同じイエローパーロフォンでもいろんな種類があるんだっていうのを知った。それ以降は海外の雑誌とか研究本とか、いろいろな文献を頼ってUK盤の違いを調べるようになったんです。

竹部:東京ビートルズファンクラブの会報の創刊は91年じゃなかったかな。ぼくも買っていましたよ。確かにレーベル別の連載がありました。それでさらにレコード収集がおもしろくなっていくと。

井上:最初は細かいところまで気づかないですよ。東京ビートルズファンクラブの会報もモノクロだったし。でもとにかく買う(笑)。ゴールデンパーロフォンの存在を知ったのは、BEANOSに通うようになってからですよ。お店の人が「オリジナルはこれだよ」と言って見せてくれたんです。で、ゴールデンパーロフォンは『プリーズ・プリーズ・ミー』しかないっていうことも知った。頻繁に通っていると、イギリスのレコード屋の店員っていい人が多いから、なんでも教えてくれるんです。

竹部:確かに。当時ぼくがよく行っていたのは、トテナムコートロードの駅の近く、ヴァージン・メガストアの裏側にあったレコード屋街。あそこはほんとによく行きましたね。店員も親切だったし。そういうジェイさんが足で稼いだ成果が、こういう本に結実していくわけですよね。『ビートルズUK盤コンプリート・ガイド』は相当な大著でした。

『ビートルズUK盤コンプリート・ガイド』増補改訂版
この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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