3ページ目 - 平成生まれのビートルズ愛【ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.9 中村こより】

自分を持ち続けられたのはビートルズのおかげ

映画『レット・イット・ビー』ポストカード

竹部;それで今はどんな感じなんですか。ビートルズ活動といいますか。

中村:この間ディズニープラスで『レット・イット・ビー』と『ゲット・バック』を立て続けに観ました。『レット・イット・ビー』は今まで断片には見たことがあったんですが、今回初めて通して観ました。だから、どのシーンがどっちにあったのか、わからなくなっちゃっているんですけど(笑)。

竹部:どうでした?

中村:辛いシーンもあったんですけど、何時間もかけてセッションを見た後のルーフトップの映像は、今までとは違うものに見えるというか。めちゃめちゃかっこよかったです。

竹部:ルーフトップ・セッションって、本当に4人とも気合が入っているっていうか。演奏が上手いよね。ジョンは歌詞を間違えているけど、ジョージのギターとか、完璧だよね。

中村:セッションでは結構ふざけていたり、直前までやるかやらないか迷っていたりしたのに、いざ本気を出すとこうなるのか!と驚きました。

竹部:『ゲット・バック』を見て思うのは、あの顛末を映像で残していたってのがすごいよね。そもそも撮影しようとした発想が。その結果、膨大な時間の映像が綺麗な画質で残ったという。

中村:ほんとに綺麗でした。

竹部:問題なく、卒なくレコーディングしているだけだったら、ドラマ性は生まれにくいし、ドキュメントとしての面白味は薄くなってしまうんだけど、毎日あれだけ事件があって、いろいろなドラマが生まれていくのがビートルズの凄いところで。ドキュメントなんだけどフィクションのようにも見えてくる。

中村:ルーフトップ・セッションでは、ギターを弾く際の手がかじかんでしまうくらいの寒さも伝わってきて……。そういう状況で4人が演奏している臨場感にびっくりしました。あと、「ゲット・バック」が出来上がっていく過程とか。こういう始まりからあの曲が作られていくんだ、みたいな。すごい映像でした。

竹部:“人間・ビートルズ”も伝わってくるじゃないですか。

中村:人間関係のいざこざ的な部分は、しんどかったですけど。

竹部:ジョージが一度抜けるシーンはドキドキしましたよね。ミーティングしてもなかなか復帰しないところとか。本来見せなくていい、見せたくない部分が見られる興味深さと同時に辛さもありますよね。あと、生活臭が出てるとこもいいんですよね。4人のファッションもそうだけど、スタジオにある食べ物、飲み物とか。ワインやウイスキーはどこのメーカーだろうと思って、調べまてしまいました。あとはマグカップ。昔、僕がロンドンのコンランショップで買ったものと同じようなデザインのものが出てきて、あれはコンランなのかなって思ったり。

中村:ピアノやアンプの上にいくつもマグカップがありましたね。トーストは足元に置いていたので、蹴っ飛ばさないか見ていて勝手にヒヤヒヤしました。

竹部:あと、ジョンは風呂入っていないのかなって思うくらい髪がべたついていたり。

中村;それは思いました。

竹部:洋服がかぶっていたりするところも面白いですよね。みんな緑色の服を着ている日があったり。

中村:ありました。あと、ちょっと長めの半袖で、ぴちっとしたTシャツみたいなシャツは当時流行っていたんですかね。ジョンもポールもジョージも着ていますよね。

竹部:そうそう。ジョージがマルに「靴、買ってきて」というシーンとか、なんかいいよね。

中村:ジョージは何を着てもかっこいいですよね。いちばんおしゃれです。

映画『レット・イット・ビー』ポストカード

竹部:『レット・イット・ビー』のほうはいかがでした。

中村:さんざん暗い、暗いって前評判を聞かされていたので、覚悟していたんですが、そこまで絶望的ではないかなっていう。

竹部:『ゲット・バック』とは全然印象が違いますよね。切り取り方の問題なのか。でも今となっては『ゲット・バック』を見ないと『レット・イット・ビー』は理解できない。そういう関係性になってしまいました。

中村:私は両方あわせて観ましたが、当時『レット・イット・ビー』を観て悲しい印象がある人には特に『ゲット・バック』も観ることをおすすめしたいです。

竹部:僕が最初に『レット・イット・ビー』を観たのは81年の年末で。ビデオが家に導入されて、初めて録画したのが『レット・イット・ビー』だったから、何度も何度も観て。親にいつも「また観てるのか」って嫌味を言われて。動くビートルズを自分の都合で見ていたと言う意味で『レット・イット・ビー』にはすごく思い入れがあるんですよ。でも、そうさせてしまう、ビートルズの魅力ってなんだと思いますか。

中村:なんでしょうね。不思議です。私も何回も何回も繰り返して聴いていたわけですし。

竹部:でもそれって、ビートルズを聞いた全員がそうなるわけじゃないじゃないですか。

中村:あたるみたいなもんなんですかね。確実に世代関係なくグサッと来る人がいるっていうのは感じます。

竹部:僕もリアルタイムじゃないし。そういう意味で言うと、時空って不思議だなって思いますよね。今という視点から見たら未来も過去も同じなんじゃないかなみたいな。でも、ビートルズにはまる人の傾向ってあるのかな。

中村:確かになにかあるんでしょうね。

竹部:自分はどうでしょうか。

中村:自分の好きなものを信じるみたいな気持ちは強いですね。子どものときに、周りに誰も自分のことをわかってくれる人がいなかった環境で、ずっと自分を持ち続けられたのはビートルズのおかげかもしれないです。

竹部:元来頑固なのかな。

中村:頑固だと思いますね(笑)。反骨心やらなんやらがあると思います。

竹部:そうでないと、フリーで編集の仕事をやろうとは思わないですよ。ビートルズファンは頑固なのかもね。

中村:それは思いますね。いろいろファンの人と話しているとそんな感じの人が多かったです。本当に好きなものは譲らないって気持ち。ライブハウスにビートルズを聞きにきている人には、会社では割と上のポジションの、職場では怖い上司なんだろうなっていう雰囲気の年配の人が多くて、きっと仕事のストレスをそこで発散しているという感じがあるんですよ。

竹部:なるほど。でもこよりさんは若いファンだから年季の入ったビートルズファンからうんちくを聞かされることも多いでしょ。今日みたいに(笑)。

中村:私はわりとやり返してしまうんですよ(笑)。前に行ったお店で、あるお客さんが『アビーロード』のメドレーの順序を入れ替えたバージョンを流し始めたんですよ。私を試したらしいのですが、それがすぐわかったので、その答えを当ててしまったらすごいしょんぼりしてしまって……。

竹部:さすがにそれはわかるでしょ(笑)。

中村:それもわからないくらいの初心者だと思われていたんですよ。なんで、そこは結構私も言ってしまった。

竹部:強い! でもこの対談を読んだら、こよりさんがいかに本気かがよくわかるので、おやじのうんちくは少なるかもしれないですね。

中村:でも、ビートルズのすごいところは、それなりに詳しくてもまだまだ上には上がいるところ……。上級者のみなさまはお手柔らかにお願いします(笑)。

竹部:今日はどうもありがとうございました。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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