1982年のBack to Mono|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVol.17

年が明けて82年。この年はビートルズのデビュー20周年ということで、アニバーサリー企画も含めて動きの多い一年であった。まず新年早々、21日にオリジナルアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』から『イエロー・サブマリン』までの10作品がモノラル盤で発売された。それまで日本ではビートルズのオリジナルアルバムはステレオでしかリリースされておらず(東芝がステレオ装置を世に広めたかった背景があるそう)、モノは初期の日本独自編集盤やシングル盤、EP盤に限られていた。

82年はデビュー20周年のアニバーサリーイヤー

東芝EMIの販促用小冊子。無料配布とは思えない完成度

その頃はまだビートルズはモノミックスを重視していたという事実は伝わっておらず、ビートルズはモノで聴くべきだなんていううるさ型のファンもいなかった。ファンの多くが普通にステレオミックスを受け入れ、ステレオこそがビートルズだと思っていたのだ。そういう意味でも、このタイミングでUKのモノマスタリングが日本盤としてリリースされたことは画期的だったといえる。

テイク違いやミックス違いについても、あまり取り沙汰されることはなかった。ファンなら薄々気づいていたのかもしれないが、それが共有されることは少なかった。しかし、わたしはコンプリート・ビートルズ・ファンクラブのおかげで、初心者の段階からモノとステレオの違いについてはもちろんのこと、曲によってはミックス違いがあるなどの情報を知りえていた。知識はなくとも、何度も聴いていれば同じ曲でも聞こえ方が違う曲があることは薄々感じていたので、ファンクラブの会報を読みながら、なるほどと頷いていた。

そんななかでのモノラル盤全10タイトル同時発売だったのだが、当然のこと、10枚同時に出されても中学生の分際ではすべてに手を出すことはできない。まず手始めにと、『ウィズ・ザ・ビートルズ』を石丸電気で買った。赤盤であることが新鮮だったが、友人KKくんから借りたことがあった60年代の赤盤とは発色が異なり、盤面も薄く、重量も軽い。全体に安っぽい。それでも音源はモノならではの面白さがあり、ワイドに広がるのではなくひとつの音として凝縮されたサウンドに魅力を感じたものだった。ミックス違いについては「マネー」のイントロに驚いた。ステレオ盤のイントロではピアノ音に深いエコーがかかっているのだが、モノラルではピアノは生音に近くなっている。そんなことが書かれた解説はコンプリート・ビートルズ・ファンクラブが手掛けていた。

『ウィズ・ザ・ビートルズ』モノ盤。86年にもリリースされた

その後、『プリーズ・プリーズ・ミー』『ハード・デイズ・ナイト』『ホワイト・アルバム』と購入していくものの、ほかに買いたいものがあったりして、途中で関心がなくなってしまった。この頃はまだコレクションという考えもなかった。再び買い集めようと思ったときにはもうレコード屋から商品が消えてしまい、その後しばらくして、86年に再発されたものの、それには食指が動かず、82年盤を中古屋で高額取引されているのを見たとき、あのまま買い続けていればと後悔したのだった。

52曲のプロモーションフィルムを一挙公開したイベント

コンプリート・ビートルズ・ファンクラブ主催の『ビートルズ未公開フィルム・コンサート』

モノ盤リリースの3ヵ月後、中学を卒業し高校の入学を目前に控えた最後の春休み、コンプリート・ビートルズ・ファンクラブ主催の「ビートルズ未公開フィルムコンサート」に出かけた。4月4日の日曜日、場所は四谷公会堂。ファンクラブが入手した「シー・ラブス・ユー」「アイ・フィール・ファイン」「ペーパーバック・ライター」「レイン」、ジョン「真夜中を突っ走れ」、ポール「ワインカラーの少女」「アイブ・ハド・イナフ」、ジョージ「ダーク・ホース」の未公開フィルムに既公開の44本を加えた計52曲のプロモーションフィルムを一挙に公開するというもの。今となっては特段驚く映像はないが、当時の自分にとっては未見のものばかり。デザインが秀逸の告知はがきが届いた段階から大興奮し、妄想を巡らせた。「アイ・フィール・ファイン」「ペーパーバック・ライター」「ストロベリーフィールズ」「ペニーレイン」……。その後何度も劣悪な画質のブートビデオ、ブートDVDの購入を繰り返し、最終的に高画質な正規Blu-rayで入手する映像を最初に観た日という意味でも思い出の一日といえる。

ある意味、この日の「ビートルズ未公開フィルムコンサート」は自分が80年夏から幾度となく参加してきたフィルムコンサートの集大成。52本のプロモを一気に見た達成感か。それとも疲労感か。当時の自分にはとくに自覚はなかったのだが、燃え尽き症候群なのかもしれない。コンプリート・ビートルズ・ファンクラブのイベントに参加するのはこれが最後になった。

ビートルズが起用された朝日生命のキャンペーン
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竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。