炎天下の銀座で観た白熱の『ロックショウ』|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVOL.13

1981年の夏休み、ポール・マッカートニー&ウイングスの映画『ロックショウ』がロードショー公開された。『ロックショウ』はウイングスが76年に行った全米ツアーからシアトルのキングスドームでの公演のもようを収めたライブフィルム。調べてみたら日本での公開は8月15日だったようだ。

8月17日、銀座・テアトル東京で観た『ロックショウ』

『ロックショウ』前売りチケット、1000円!

公開前からテレビの情報番組のいくつか(『TVジョッキー』での福田一郎のコーナーなど)で映像の断片(主に「イエスタデイ」の演奏シーン)が紹介されたり、試写会に多くの有名人が来たとかいうスポーツ新聞での紹介記事もあったり、洋楽アーティストのコンサート映画のわりには、大々的に宣伝されていていたような気がする。例の来日逮捕事件からそれほど時間が経っていないというタイミング、加えてジョンの事件でビートルズに注目が集まっていたからだろうか、『ロックショウ』はそれなりの話題作であった。

私が『ロックショウ』を観たのは8月17日である。なぜ覚えているのかというと、映画館内に設置されていた日付入りの記念スタンプを押した証拠が残っているから。また帰宅後に夏の甲子園の「都城商対岡谷工」の試合をテレビで観たことも覚えている。月曜日に行くことになったのは、公開週の土日は混んでいるとの判断だったのだろうか。と、曖昧なのは『ロックショウ』鑑賞は自分が発起人ではなかったから。前売りを買ってきてくれた学校のビートルズ仲間に「一緒に行こう」と誘われたのだ。仲間とは前年7月に千代田公会堂で初めて動くビートルズを観たときのメンバー。その気遣いに感動したし、前売りに付いていた特典ポスターとバッヂを受け取ったときは心から感謝したものだ。

映画館内で押したロックショウのスタンプ

昭和の中学生は早起きである。始発で出かけ、会場一番乗りした前年同様、今回も早朝から出かけて初回を観ようということになり、葛西駅から7時台の電車に乗って銀座に向かった。真夏の暑い日差しが照り付けるなか、京橋近くのテアトル東京まで歩いていくと、映画館の前には開場を待つポールファンが見えてきた。だが、映画館自体が大きかったのでそれほど並ぶこともなく、場内に入ることができ、自分たちの席を確保。パンフレットを買ったあとは、先述のスタンプを押しまくっていた。今振り返れば、このあとすぐに閉館してしまったテアトル東京の内観を隅々まで楽しめばよかった、と思う。

ほどなく上映開始。フィルムコンサートでは何度かポールの映像を観てきたが、ロードショーでポールの映像を観るのは初めてのこと。公会堂ではなく、映画館という雰囲気に心が高鳴った。しかしながら当時はウイングスの曲は『グレイテスト』を通じてのヒット曲くらいしか知らず、この映画のサントラ的役割の3枚組ライブアルバム『ウイングス・オーバー・アメリカ』はまだ聴いたことがなかった。したがって目当てはビートルズの曲。『カンボジア難民救済コンサート』で聴いた「レット・イット・ビー」のような新鮮なアレンジのビートルズナンバーが聞けるのかも、という期待が大きかった。『ロックショウ』で演奏されたビートルズナンバーは5曲。「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」「夢の人」など、目新しいアレンジもあったが、実際にはウイングスの曲が響いた。ポップでありロックであり、ショウであるというアレンジ、演奏、演出に興奮し、ポールのルックスやしぐさ、シャウトに感動させられた。いつか、ポールのコンサートを見たいと思ったのは言うまでもない。

日本のみ特別編集の完全版で上映

前売りの特典ポスター。チラシも同じデザインだった

このとき上映された『ロックショウ』はアメリカやイギリスで上映されたものよりも30分も長い日本だけ特別編集版、いわば完全版であった。理由は前年の来日逮捕のお詫びとのことだったが、最初に完全版を見たせいか、のちにVHSやレーザーディスクで『ロックショウ』を見ても物足りずあまり感情移入できなかった。やはり『ロックショウ』は2時間20分すべてを観ることに感動があるということで、完全版のブートレグを買ってしまったこともあった。2013年にようやくオフィシャルで完全版が出たときの感動と言ったらなかった。

あまりに感動したので、もう一回観たくなり仲間に提案してみた。当時の映画館は完全入れ替え制ではなく、観ようと思えば一日中映画館内にいることができたのだ。しかし皆一様に「帰りたい。お腹すいた」との反応。ならば、「途中の『イエスタデイ』までは?」という必死の懇願が受け入れられ、次回上映の「イエスタデイ」まで観ることができた。そんなことをしたのは『ロックショウ』が初めて。という意味でも思い入れの強い映画である。

銀座山野楽器で『マッカートニー』を購入

パンフレットの中面

帰り道、皆で銀座山野楽器本店に立ち寄り、レコードを物色。私はそこで『マッカートニー』を購入した。本当は興奮の余韻の残る『ロックショウ』のサントラ的なアルバム『ウイングス・オーバー・アメリカ』が欲しかったけれども、LP3枚組5,400円の高価レコードだったため断念。いちからポールを聴いていこうということで『マッカートニー』を選んだ。が、家に帰って困惑。『ウイングス・グレイテスト』や『ウイングス・オーバー・アメリカ』を期待していたのに、ワンマンレコーディングの実験的な内容に聴きどころを探せず、また映画で歌っていた「メイビ・アイム・アメイズド」も全く違うアレンジでがっかりしてしまった。またビートルズ的要素を感じることも出来ず、購入を後悔したのだが、その感覚は1年前に『マッカートニーⅡ』を聴いたときの動揺にも似ていた。

そんななかでも収穫はあった。「ジャンク」と「シンガロング・ジャンク」である。絶望はこの2曲に救われたといっていい。昨年末に見た少年ドラマシリーズ『家族天気図』の主題歌をここで初めて聴くことができたからだ。あの印象的なメロディはここに収められていたのかと初めて知った。のちに『マッカートニー』は大好きなアルバムになるのだが、初心者ファンにとってはなんともほろ苦いマッカートニーデビューとなってしまった。

『マッカートニー』収録の「恋することのもどかしさ」が邦題を変えシングルカット
この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

開襟シャツに刺繍入りジャケット……老舗デニムブランドが提案する、春夏のアメカジスタイル。

  • 2026.04.01

老舗デニムブランドであるステュディオ・ダ・ルチザンが提案する、春夏のアメカジスタイル。定番ジーンズからHBTのワークセットアップ、開襟シャツや刺繍入りジャケットまで、軽やかな素材と遊び心あふれるディテールで、春夏の装いを彩る。 [5743]ボーリングシャツ 1950年代のヴィンテージ・ボーリングシャ...

これまでで一番“アイビー”なクラークス誕生! 2026年春夏の新作にペニーローファーやボートシュー ズも登場

  • 2026.04.27

「クラークス」が2026年春夏の新作として発表した「デザートアイビーコレクション」。ブランドのアイコンである[デザートブーツ]や[ワラビー]、[デザートトレック]はアイビーらしい配色に落とし込まれ、アイビーの定番靴であるペニーローファーやボートシューズも顔ぶれに加わる。英国、アメリカ、日本。各国のカ...

これが“未来のヴィンテージ”。綿、糸、編み機……すべてに徹底的にこだわる唯一無二のカットソー

  • 2026.04.27

綿、糸、編み機……。素材から製法まで徹底的にこだわり、唯一無二のカットソーを創り続けるライディングハイ。「FUTURE VINTAGE(未来のヴィンテージ)」を目指す彼らのフィロソフィは如何にして形成されているのか。プロダクトの根幹をなす代表・薄 新大さんの“アイデアの源”に迫る。 More tha...

横浜発アメカジブランド「HEATH」による、定番アメカジのマストアイテム5選はこれだ!

  • 2026.04.03

横浜を拠点に、定番からちょっとアレンジの効いたアメカジを提案するHEATH。人気ブランドのアイテムをセレクトするだけでなく、オリジナルのモノづくりにも注力しており、そのコストパフォーマンスの高さには定評がある。今回はその中から絶対に手に入れておきたいマストアイテム5選を紹介しよう。 【横濱デニム】デ...

Pick Up おすすめ記事

大人の夏はゆるくてこなれ感があるコーデが気分。“アジ”のあるピグメントTとデニムさえあればいい

  • 2026.04.17

ハナから古着みたいに着られる、アジのある服が大好きだ。「ジムマスター」が今季推すピグメントTとデニムも、加工感が素敵。いい“アジ”を知り尽くすふたりも、どうやら気に入ったご様子です。 「MIA MIA Kuramae」ヴォーンさんは、ピグメントTにオールインワンを着崩して合わす! 色ムラによる古着ラ...

これまでで一番“アイビー”なクラークス誕生! 2026年春夏の新作にペニーローファーやボートシュー ズも登場

  • 2026.04.27

「クラークス」が2026年春夏の新作として発表した「デザートアイビーコレクション」。ブランドのアイコンである[デザートブーツ]や[ワラビー]、[デザートトレック]はアイビーらしい配色に落とし込まれ、アイビーの定番靴であるペニーローファーやボートシューズも顔ぶれに加わる。英国、アメリカ、日本。各国のカ...

これが“未来のヴィンテージ”。綿、糸、編み機……すべてに徹底的にこだわる唯一無二のカットソー

  • 2026.04.27

綿、糸、編み機……。素材から製法まで徹底的にこだわり、唯一無二のカットソーを創り続けるライディングハイ。「FUTURE VINTAGE(未来のヴィンテージ)」を目指す彼らのフィロソフィは如何にして形成されているのか。プロダクトの根幹をなす代表・薄 新大さんの“アイデアの源”に迫る。 More tha...

夏を装いが物足りない時のひと工夫。涼しげな素材と優しい配色で気軽に“レイヤード”を楽しむ

  • 2026.04.16

シャツとジーパン。それだけで成立することは分かっていながら、やっぱりちょっと物足りない、と感じたときに思い出してほしいキーワード。それは、レイヤードだ。ぜひ夏の装いのひと工夫に加えてもらいたい。 涼しげな素材×優しい配色のレイヤード 夏に着るトップスはシャツとインナーだけになりがち。だが、シャツの下...

「バンソン」のタフネスを、春夏へ。伝説の映画『EASY RIDER』とのコラボアイテムにも注目だ

  • 2026.04.02

バイカーブランドの代名詞、VANSON。今春は軽やかな布帛アイテムでイージーな装いを提案。そして伝説の映画『EASY RIDER』とのコラボレーションも登場。自由なスピリットを、そのまま服に落とし込んだラインナップを紹介する。週末のライドにも、街の散歩にも、着ることで体感できるフリーダムさを、VAN...