広く深く知る田中氏だから辿り着けたアーカイブ。
東京五輪の開閉会式とパラリンピックの開会式で音楽監督を務めるなど、名実ともに日本を代表する音楽家である田中氏。ヴィンテージ愛好家としても有名であり、多くのジャンルに精通する。そんな田中氏が一生持っておきたいアイテムとして紹介してくれた私物は、戦前のものから2010年代のデザイナーズまで、国や年代に関係なく、自身の確かな目で選ばれた傑作が揃う。
「ひとつのジャンルや国、時代を掘るのではなく、自身の好みに合いそうなものを多角的に突き詰めていく方が性に合いますね。もちろんアメリカの王道ヴィンテージも大好きだし、アノニマスなデザインが多いフレンチも魅力的に写ります。古着だけでなく、現行品をチェックして、自分の琴線に触れるものを素直に選んでいます」
そう語るが、田中氏の私物たちには不思議な統一感がある。そこにあるのはセンスとストーリー性。どのアイテムにも深いストーリーがあり、強い個性があった。
「FANTASTIC PLASTIC MACHINE」田中知之さんの愛用品。
1.LEATHER JACKET/Saint Laurent
鬼才デザイナーであるエディ・スリマンが、Saint Laurentのクリエイティブディレクターを務めた時代のアーカイブ。「これはパリにDJで訪れた際に、現地のショップで一目惚れしてしまったもの。好きな方が見れば、一目でわかるのですが、アメリカのライダース黎明期に生まれたPETER’Sのアビエイタースタイルをモチーフにしています。そこにエディらしいエッセンスが織り込まれた名品」
2.COAT/POLO Ralph Lauren
一見、HUDSON’S BAYなどのブランケットジャケットに見えるが、実はRalph Laurenというのがおもしろい。「これは5年ほど前にヴィンテージイベントで出逢ったもの。’90年代なので旧いものではないが、HUDSON’S BAYをモチーフにしたブランケット、ネイティブアメリカンを彷彿させるビーズワーク、そして丁寧なメイドインイタリーというミックス感覚が、自分の琴線に触れました」
3.HAT/KIJIMA TAKAYUKI
田中氏のアイコンにもなっているギャリソンキャップは、日本を代表するハットメーカーであるKIJIMA TAKAYUKIのもの。「ここのギャリソンキャップは、複数持っていて、自分には欠かすことができない存在。左のペーパーはインラインでリリースされたもので、右のメルトン素材はショップの別注。このアイテムを作る際にお声掛け頂き、特別に作ってもらったスペシャルオーダー」
4.EYEWEAR/GERNOT LINDNER
Lunorの創業者であるゲルノット・リンドナーが立ち上げたブランド。眼鏡を製造する上で不可欠となる十分な剛性とバネ性を持たせることが困難だったスターリングシルバー925をあえて使っている。「公私ともにお世話になっているグローブスペックスで入手。スターリングシルバーを使っているというのが一番のおもしろさですね。フランスの象徴的なクラウンパントを選びました」
5.PEN/Tiffany
Tiffanyのストリーメリカシリーズより発売されていたボールペン。重厚感を感じるメタリックなモチーフが特徴で、ドイツの時計デザイナーであるヨルグ・イゼックが担当した。「ボールペンとしては非常に高価なものですが、気兼ねなく使える存在ということで挙げました。スターリングシルバーなのですが、どこかステンレスのようなマットな質感も気に入っています」
最近買ったもの、ハマっているもの
フレンチ好きの田中氏が、近年掘り出しているのが、ヨーロッパのハンティングベスト。プルオーバーに限定して探しており、ともに1920~30年代のスペシャルな代物である。
(出典/「CLUTCH2022年8月号 Vol.86」)
Photo by Kazuya Hayashi 林和也 Text by Shuhei Sato 佐藤周平
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