昨年10周年を迎えた主力ブランドの設立秘話
今や主力ブランドのひとつとなった「スタンダードサプライ」は当初、先行し「アーツアンドクラフツ」の1ラインとして展開されたという。
「いわゆる60/40クロスを用い、バックパックをはじめとした数モデルを展開しましたが、個人的にはどこか違和感を感じていました。それまでのラギッドな印象と異なり、どこかカラフルでポップな印象を受けていましたし、当初はラインごと中断するつもりでいたのです。ただ、営業の担当からストップがかかり、それならばひとつのブランドとして独立させようと『スタンダードサプライ』を新設することにしました。
長年バッグに携わるなかで、ちょうど自分のデザインにいろいろな側面があることに気づき始めた頃でした。個人的な趣味でもあるアメリカンヘリテージをルーツとした武骨で男臭いデザインは当然ながら、フリーランスや別注デザインなどを手掛けるうち、そういった趣味的な視点だけではなく、よりコンフォータブルな機能や素材使いといったユーザーフレンドリーな視点にも魅力を感じ、近年はそれらをブランドやラインによって使い分けるようにしています」。
そんな藤本さんの広い視野こそが、各ブランドの魅力に繋がっていると本江さんも続ける。
「いわゆる売上至上主義ではなく、自身が本当に良い、あるいは使い手がもっと自由になれる発想がデザインの起点になっている。そういった職人気質なアイデアと妥協のないつくりが、人を惹きつけていると思うな」。
使い続けてもらう。それがデザイナー冥利
そんな「スタンダードサプライ」からは、今春よりランドセルがリリースされ話題を集めた。そこにはカジュアルバッグブランドが手掛けるランドセルという意外性だけにとどまることのない藤本さんならではの思いが込められている。
「ひとつのバッグを長く使い続けていただくことは、もちろんなによりのデザイナー冥利です。事務所のある二子玉川の河原で子どもたちとゴミ拾いをしていた時の話です。彼らが最初に手にするバッグであり、ひとつのものを大切に使い続けるという感覚を若年層にまで伝え残していきたいと考えた結果、ランドセルを作りたいという結論に着地しました。
とはいえ、ランドセルには他のバッグとは異なる独自の生産背景があるので、まずはそんな背景をゼロから見つけていくところからスタート。子育て世代のスタッフからフィードバックを集めたところ、ぼくらの頃とは違って、今日の小学生はタブレットやPCが標準装備となっていることを知り、よりバッグ自体の軽さが必要不可欠だと思ったので、アップデートを重ねていきました。
以降、最近はシニア向けの買い物用カートなどにも興味を持つように。ファッションに旺盛な世代だけでなく、老若男女すべてに長く使い続けられる最適解を届けたい。より多くの人がそれぞれのシーンにおいて快適に使えるバッグを今後はさらに拡充していきたいですね」。
バッグのみならず興味のあるものはすべて蒐集
アメリカ製時代の「ローリングス」のグラブたち。かの長嶋茂雄氏も愛用したことで知られるXPG3も所有。
往年のヴィンテージフレームパックをはじめ、世界中のありとあらゆるバッグをコレクション。なかでもヴィンテージのボート・アンド・トート、さらにかご編みのアラガッシュ・パック・バスケットなど「エル・エル・ビーン」のそれらは、特にフェイバリットだと語ってくれた。
「ラップス」、「アーツ&クラフツ」など名だたるバッグブランドのデザインを手がける
伝統的な職人業を現代的なプロダクツに落とし込み、独立とほぼ同時に設立した初のオリジナルブランド「アーツアンドクラフツ」。定番のベーシックトートは設立当初からのスタンダードモデル。
ストリート全盛の1997年、藤本さんらがデザインし、西海岸のオレンジカウンティのファクトリーが生産を手掛け、MADE IN U.S.A.にてスタートしたユニセックスバッグブランド「ラップス」。ブランド休止となる2000年代初頭頃まで多くのショップで展開され、当時、恵比寿に位置した旗艦店は本江さんらによって運営されていた。
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