2ページ目 - 「対象を透明なビニールに刷ることで、『透明化できないよ』ということを示したかった」|アーティスト・大岩美葉

──木版作品は木目も刷られているのが特徴的ですが、この技法はどのように生まれたのですか?

木目を出したい部分をガスバーナーで燃やしてから削るという技法で、一般的に「ウッドバーニング」と呼ばれることもあります。ウッドバーニングのワークショップなどを開いている大学の友人から教わって以来実践しているんですが、なかなかコントロールが難しいんです。燃えすぎると潰れてしまったりするんですが、私はむしろそれが好きですね。美術ではよく「偶然性」という言葉も使われますが、偶然というよりも、木がこうしたかったんだろうなって、自然と一緒に作っている感覚で。作品を作るってこういうことだよなって。その感覚を大事にしています。

──ブルーシートや透明のビニールシートに刷られた作品もありますが、素材の選び方に意図はありますか?

ありますね。「見えないことにされている存在」を可視化したいと思って。ブルーシートって、日本ではたとえばホームレスの方が生活のために使っていたりして、社会が見ないふりをしてしまっているものだったりする。でもヨーロッパに行ったとき、ホームレスの方も堂々と世界遺産の前に座っていて、一緒に生きてるぞみたいな感じがした。それからスマホ社会で置き去りにされる高齢者とか、存在しているのに透明化されることへの違和感がずっとあって。だからこそ、対象を透明なビニールに刷ることで、「透明化できないよ」と示したかったんです。

──TARO賞に出品された《春の気立つを以って也》(2025)も、ご祖母を題材に透明なシートに刷った作品でしたね。

祖父が亡くなって、祖母がはじめてひとりの部屋を持つようになって。最初は寂しがるかと思ったんですが、むしろ元気になっていったんです。私もずっとおばちゃんとして見ていたけど、「祖母」や「妻」という役割から解放され、友達と長電話したり、ひとりの女性として時間を過ごしはじめた祖母の姿がとても印象的で。その姿を作品に残したいと思いました。

春の気立つを以って也|「岡本太郎現代芸術賞」入選作品。祖父を看取ったあと、自分の時間を楽しみ始めたという祖母の笑顔を木版画で表現した。鑑賞者はビニールシートの裏側にも回り込んで見ることができる

──高さが5メートル近くあるという巨大な作品でした。制作が個人の範囲を超えてプロジェクト化していってるのも面白いですね。

彫っているときは孤独だし、ひとりなんですが、刷りの作業は友達に手伝ってもらっています。家での制作中も、電話しながら作業したり、友人と話すことで考えがクリアになることも多いです。その友達がいないと作れないくらいの感覚です。作品は人との関係の中でできていく感じがありますね。

──今回の個展はどんなテーマで始まったんですか?

家という場所をテーマにしました。祖母の肌の皺と、長年住んだ家の壁や床の傷が重なるように感じる瞬間があって、人と家が一緒に時間を刻んでいくイメージで構成しました。私の展示場所はホワイトキューブではないなってずっと思っていたなかで、会場の「オープンレター」を知り、ここに住んでいる山内さんにも意見を伺いながら設営して。ギャラリーでありながら暮らしの場でもある空間を探していたので、理想的でした。

──会場全体を使った大きな作品がカーテンのように揺れて、作品のなかに入り込むような感覚です。

最初はもっと小さいつもりだったんですが、考えているうちにどんどん大きくなって、6メートルの作品になってます。祖母が寝てる姿なんですが、胎児みたいな体勢になっています。これが人間なんだっていうのを見せたくて。今までとちょっと変えて、より抽象的なものになっています。

この記事を書いた人
2nd 編集部
この記事を書いた人

2nd 編集部

休日服を楽しむためのマガジン

もっと休日服を楽しみたい! そんなコンセプトをもとに身近でリアルなオトナのファッションを提案しています。トラッド、アイビー、アメカジ、ミリタリー、古着にアウトドア、カジュアルスタイルの楽しみ方をウンチクたっぷりにお届けします。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

いつもの装いに、頼れる履き心地。この秋は、コートスニーカーとチロリアンシューズがあればいい

  • 2026.09.18

トラッドな装いになら、足元はやっぱり品よくいきたい。でも、履き心地だってこだわりたい。そんな欲張りな気分に応えてくれるのが「ロックポート」。クラシックな佇まいと快適さを両立した2足を紹介する。 品よく履けて、しっかり快適 「お洒落は我慢」とは言うけれど、格好よさも履き心地も譲れない。そんなわがままに...

名作[ハリケーントップ]誕生から40周年! 「CHUMS」の「ハローウェア」が再登場

  • 2026.09.23

「チャムス」の名作[ハリケーントップ]の誕生から40年を迎える今年、「ハローウェア」が再登場する。そのコレクションを紹介する前に、まずはブランドが歩んできた歴史を紐解いていこう。これまでの歩みを知れば、「ハローウェア」をもっと楽しめるはずだ。 ハロー、懐かしくて新しいチャムス サングラスを川に落とさ...

Why Banana Republic? 2nd編集部イチ押し「バナナ・リパブリック」アイテムと、ブランドの魅力を徹底解説

  • 2026.09.16

1978年にアメリカ・カリフォルニア州で創業したバナナ・リパブリック。クラシックとモダンが共存する唯一無二のスタイルや歴史を紐解くことで、我々が彼らのプロダクトを手に取るべき“理由”が見えてくる。(記事をご覧いただいた方への特典を最後に紹介しています) [caption id="attachment...

労働者やアウトドアマンに愛された実用服。「ウエアハウス」のフランネルシャツ

  • 2026.10.02

ミクロレベルまで研究し、古着と見間違うほどのプロダクツを現代に蘇らせるウエアハウス。当時の生産技術や時代背景までも丁寧に掘り下げられて完成した服は、限りなくヴィンテージに近い存在だ。そんな彼らが生み出す服こそ、オーセンティックと呼ぶにふさわしい。 糸そのものから再現し旧式の織り機を用いて製作 フラン...

ガレージ、インテリア、リフォームまで! 趣味人のための、物件案内。

  • 2020.01.20

好きなものと暮らす、理想の城を手に入れよう。 家は、ただ暮らすためだけの場所じゃない。 どこに住むか、どんな空間にするか、そこで何を楽しむか。 ガレージハウスやアメリカンハウス、趣味部屋、インテリア、リノベーションまで、 「Lightning」ならではの視点で趣味人の理想の住まいを紹介する。

#PR

Pick Up おすすめ記事

ニューヨーク・ブルックリン発! 作業服由来のデイリーウエアはこう着こなす。

  • 2026.09.16

創業1904年、高層ビルの建設が相次ぐ当時のニューヨークでリアルワーカーに向けて、作業服を提供していた「ブルックリンオーバーオール」。そんな確固たる出自に由来する男服は、カジュアルウエアとして現代にDNAを継ぐ。 旧きよきデザインと生地づくりで飽きのこない王道のワークスタイル 40年代の個体をベース...

ガレージ、インテリア、リフォームまで! 趣味人のための、物件案内。

  • 2020.01.20

好きなものと暮らす、理想の城を手に入れよう。 家は、ただ暮らすためだけの場所じゃない。 どこに住むか、どんな空間にするか、そこで何を楽しむか。 ガレージハウスやアメリカンハウス、趣味部屋、インテリア、リノベーションまで、 「Lightning」ならではの視点で趣味人の理想の住まいを紹介する。

#PR

本格派でコスパも優れる「Amber Threads」のライトアウターで秋を始めよう!

  • 2026.10.05

古着店「DOSTYLE」を運営する「ドラマ」が手がける気鋭のアメカジブランド「Amber Threads」。“トレンドとヴィンテージを融合したアメカジスタイル”を掲げる同ブランドはバリエーション豊かなライトアウターを展開する。ヴィンテージをベースとした本格派でありながらコストパフォーマンスにも優れる...

究極のクラシックを背負う。英国発バッグブランド「Billingham」のカメラバッグ『System-1』

  • 2026.09.24

英国生まれのバッグブランド「ビリンガム」。そして同ブランドを代表するモデル[システム-1]。"用の美"を極めたその実用性とルックスは昔も今も、服好きの心を捉えて離さない。 “機能美”を極めたクラシックバッグの筆頭 創業は1973年。写真を撮るのが大好きだったという創業者のために妻がカメラバッグを手作...

無垢の金属、輝く伝統。純金や純プラチナを使った「市松」の究極の逸品

  • 2026.09.25

純金や純プラチナなど、純度100%の軟らかい金属をアクセサリーにするためには非常に高い技術が必要だ。それを可能にするのが「市松」。約30年にわたって培った“叩く”技術が可能にする唯一無二のリングの輝きに迫る。 熟練の技なくしては完成しない究極の逸品 原材料高騰の影響もあって、希少性が高まっている純金...