「対象を透明なビニールに刷ることで、『透明化できないよ』ということを示したかった」|アーティスト・大岩美葉

  • 2025.09.07

ビジュアルで魅了する各界のクリエイターに迫る連載「THE VISUAL PERFORMER」。今回は主に木版作品を制作する、アーティストの大岩美葉さんが登場。年齢を重ねることで生まれる皮膚の皺と、木の成長とともに刻まれる木目を織り交ぜ、人間と自然に共通する時間の尊さと美しさを表現する大岩さん。最新の個展会場で、モデルとなる家族や木版に込めた思いについて話を聞いた。(写真:幼い頃に好きだったという祖母の手の皺や感触の記憶と、木目を重ね合わせた作品。木を燃やし、削ることで木目を際立たせ、版画に新たな時間の層を刻み込む)

大岩美葉/アーティスト|神奈川県生まれ。2015年、多摩美術大画絵画学科版画専攻入学。2018年「第43回全国大学版画展」優秀賞。2025年「第28回 岡本太郎現代芸術賞」入選、「第27回 鹿沼市立川上澄生美術館木版画大賞」入選。従来の油性木版の技法と、版木を燃やすことで木目を露出させる特殊な技法で木版画を制作。ブルーシートやビニールシートに版画を刷ることなどにより、変化し続ける時代に対して木版の存在意義を模索している

小さい頃、祖母の手の皺がすごく好きだったんです。そういう心から綺麗だって思った感覚を大切にしたいです

生老美思|木版とリトグラフの技法を組み合わせた、大学の卒業制作作品。四字熟語「生老病死」を再解釈し、祖父母をモデルに制作。生まれて老いること、美しさを思うことを、人間が必ず得る4つの喜びとして表現した。現在の木版の作風に繋がる最初期の作品

新人アーティストの登竜門とされる、「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」の会場でひときわ目を引いた、笑顔の女性の巨大なポートレート。大岩美葉さんは、版木を焼き、削ることで木目を出すという特徴的な技法でこの作品を制作した。皮膚に刻まれた皺を起点として、時間の痕跡を可視化することを目指しているという大岩さんの作品には、人間の温かさとユーモアが見え隠れする。TARO賞入選作や、個展で発表された最新作の話から、独自の技法に込められた思いを辿る。

──美術に関心を持ったきっかけを教えてください。

小さい頃から絵を描くのが好きで、ひとり遊びといえば絵を描くことでした。祖父が本当は美術をやりたかったけど親に反対されてできなかった人で、私が絵を描くことを応援してくれたんです。絵画教室にも通ってましたし、自然と美術が好きになっていきました。

──多摩美術大学の版画専攻に進学した理由は?

現役のときは予備校の先生からグラフィックデザイン科を薦められて受験したんですが、ずっと違和感があって。結局落ちて、でも多摩美に行きたかったから浪人したんですね。その途中で、私がやりたいのってグラフィックデザインじゃないなと気づき、先生に相談したら「版画科があるよ」と教えてもらったんです。小学校の授業でやった版画が楽しかった記憶があり、版画科っていい響きだなって思って翌年入学しました。

──大学ではリトグラフを専攻されていたそうですね。

2年生で専攻を選ぶんですが木版や銅版の定員がいっぱいで。木版をやりたい気持ちもあったのですが、出席率の悪かった私には、リトグラフしか空いてなかったんです。それでリトグラフか留年かの二択を迫られて。留年は嫌だったのでリトグラフを選びました。

──卒業制作の作品《生老美思》(2018)では、ご祖父母がモデルとなっており、以降の作品にも頻繁に登場しますね。

《生老美思》を彫ってる時に、祖父母の顔の皺と木版の相性が、ピーンってあったんですね。これだ!とすごくしっくりきて。そこから自然と祖父母の皮膚の皺にフォーカスするようになりました。小さい頃から、おばあちゃんの手の皺を触ってるのがすごく好きだったんです。そういう子どものいいなって思う感覚って、心から綺麗だって感じたんだと思うし、大切にしたいですね。皺は綺麗だけどグロテスクでもあって、そのまま生きた証が表れるってすごいなって思います。

──《生老美思》は、リトグラフと木版画の技法を使われているのも特徴です。

やっぱり木版をやりたいという気持ちがずっとあったので、最後の卒業制作で初めて2つの技法を混ぜた作品を作りました。「ベタ版」という線の版だけ木版で作り、色の部分はリトグラフで刷りました。この作品は各大学から推薦された学生による「大学版画展」にも推薦していただき、優秀賞をいただいて。町田市立国際版画美術館に所蔵されました。その時に、自分がやりたいことや、いいと思ったことが初めて評価に繋がった感覚があって。それまでは、何を作りたいのかがわからなくて遊びながら制作してた感覚だったんですが、卒業制作でもっと作品を作りたいっていう気持ちが明確になりました。

──「老い」をポジティブなものとして捉えているのも印象的です。

それも祖父の影響が大きいです。誕生日になると「36歳だ」とか言って、老いたという感覚が全然ない。ずっと学び続けて、筋トレもして、年齢を理由になにか辞めるということが一度もない人でした。そういう姿をずっと見てたので、老いって自分の気の持ちようだなと思うようになりました。子どもの頃は「成長」と言われるのに、どこから「老い」に変換されるんだろうとも思うし、祖父母もずっと成長を続けていたんだと思うんです。それを近くで見てきて、あ、この状態がなんかかっこいいなって思ったんです。

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