昭和の希少素材、サンプラチナ歴50年以上。旧きよきメガネ製造の原風景がここにある

  • 2024.03.23

分業制が主流のメガネづくりにおいて、鯖江にはその工程をほぼひとりで完結させる稀代の職人がいる。どれだけ機械化が進んでいると言っても、最後にクオリティを左右するのは「人の手」にほかならない。そこで、頑丈で経年劣化が少なかったり、独自の光沢を持っていたりと、唯一無二の魅力を持つ昭和の希少な素材「サンプラチナ」でメガネをつくる職人、坂本和彦さんの仕事を見せてもらった。

父親の代から50年以上も続けている生き字引的な職人

坂本和彦さん

メガネの素材は大まかにメタルとプラスチックに分かれるが、メタルに分類される素材に「サンプラチナ」がある。これは、昭和の時代には高級素材としてメガネ生地に使用されていたものの、80年代に登場したチタンの加工のしやすさから一気に採用されることの少なくなった素材だ。しかし、頑丈で経年劣化が少なかったり、独自の光沢を持っていたりと、サンプラチナにしかない魅力もある。

この素材を使ったメガネづくりを、父親の代から50年以上も続けている生き字引的な職人、坂本和彦さん。彼は「マル」というブランドの製造も一手に担っている。

仕事場は、鯖江にある「定次」という町に佇む、一見何の変哲もない一軒家。しかし扉を空けてみればそこには、旧きよき家内工業を体現する、メガネづくりの原風景が広がる。そのなかで、年季の入った道具を使いこなす彼の姿は、まさに「職人」以外の何者でもない。その巧技をここに記す。

いまでも使用するという何十年も前に使われていた手動のプレス機。上のハンドルを回すことで、機械上部がネジを巻くように下がり、下部に置いた金型をプレスする

ロウ付けに使う機械も旧くから同じものを使用。サンプラチナに熱を加えると、微量の有毒ガスが出るためホースで吸い取る

ノーズパッドのないブリッジだけの仕様、一山(イチヤマ)。これも坂本さんが自作した道具を使って手作業で曲げている

上の写真は先人の知恵が生んだ道具で「おしぎり」と呼ばれるもの。なんと実際の銃の銃身を使っている。坂本さんも最近はこの道具でサンプラチナを切断している

これが昭和期に主流とされていたサンプラチナ素材

「マル」のメガネを構成するサンプラチナ素材。作るメガネのパーツによって、棒状から板状まで、使う形状は様々だ。いまではこの素材を取り扱うメーカーも限られる。

「マル」ブランドのメガネは、サンプラチナという素材の良さを活かした、装飾のないシンプルなデザインが魅力。一山や縄手などのクラシックなディテールも備える。

(出典/「2nd 2024年4月号 Vol.203」)

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