品のいいピンクに 一目で恋に落ちた。
目が覚めるようなサーモンピンクのウエアたち。若手トラッドマンの旗手である三浦さんが偏愛しているのは、ナンタケットサウンドにちなんだ古着群だ。
「ナンタケットサウンド関連の服を初めて目にしたのは、3年半ほど前の夏のこと。僕が働いているグレースに、日本ではおよそ見かけないような色合いのショーツが入荷したんです。そのショーツ自体は店に並べる商品だったので自分のものにすることはできなかったのですが、小粋かつ素敵な色味にひと目惚れしてしまいました」
バイイングを担当したオーナーに聞いたところ、それはナンタケット島という島発祥のトラッドアイテムだった。マサチューセッツ州ケープコッド沖に佇むナンタケット島は、優雅だけれども華美ではない、趣きのある上品なリゾート地。古着好きの虫が騒いでディグってみると、ニューイングランド地方の旧きよき心象風景が体現されたような街並みで、アイビーリーガーを輩出する名家の避暑地としても知られているという。
「港町なので、ヨット文化のバックボーンもあって。そんな島ならではのアイテムが、ナンタケットレッドと呼ばれるフェードした赤色の服だったんです。潮風と紫外線とで美しく褪せたサーモンピンクの色味で、かの『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』(1980年代に「新世代のアイビーファッションのルールブック」として刊行されたベストセラー。エリートたちをカリカチュアし風刺する姿勢で編集されていたが、意に反してプレッピー・ファッションの教科書として世に広まり、邦訳もされその影響力は日本にまで波及した)でも、プレッピーが穿くべき赤のコットンパンツとして紹介されていました」
手持ちのワードローブの色と被らず、それでいて合わせやすい。「今の気分」だというニューイングランドスタイルとの相性の良さは言わずもがな。三浦さんがナンタケットレッドのアイテムに傾倒するまで時間はかからなかった。
一瞬抵抗を感じても、合わせてみたら意外なほど着やすい。
「1.シャンブレーハットは、ブランドタグの類が付いていないのですが、裏側に『ヨットクラブ』とプリントされています。詳細は不明ですが、おそらく島のクラブメンバー向けのユニフォームか何かだったのではないでしょうか。2.マークフォア&ストライクは、知る人ぞ知るアイビーブランド。ナンタケットサウンドに位置するショップではないのですが、明らかにナンタケットレッドを意識したカラーリングです。アメリカ人のナンタケット島への憧憬を感じさせてくれます」
この手のナンタケットレッドのパンツに紺ブレを羽織った、ナンタケットトウェディングと呼ばれるトラッドなフォーマルスタイルがあり、ボストンっ子にはお馴染みなのだそう。そのため、
「3.フィッシャーマンスタイルのネイビースウェットもナンタケットサウンドらしいカラーリング。19世紀までは捕鯨で栄えていた島なので、マリンアイテムも特色のひとつと言えます。4.フィッシャーマンキャップも潮の薫りのするアイテムで、ナンタケット島に店舗を構えるショップ、マレーズ(タケットレッドという色名を商標登録しているショップ、およびそのオリジナルブランド。美しく褪色する『フェード保証』を謳っている。ナンタケットスタイルのオーソドックスを追求するなら外せない存在だ)のオリジナル。エナメル素材の長めのつばが日除けになった、オイスターマンハットというスタイルです。ちなみに今一番欲しいのがこのブランドのショーツなんですよ」
ナンタケットレッドを全面に押し出すコーディネートも好みだが、5.バナナリパブリックのロングスリーブシャツや、6.アローのBDシャツのように、レイヤードしてインに利かせることのできるアイテムも所有。アクセントカラーながら悪目立ちせず、品よくまとまるので重宝している。
「ナンタケット島だけでなく、その周辺の島々や本土側の湾も含めてナンタケットサウンド。どこか同じような薫りのするアイテムが見つかります。
7.スーベニアトートは本土側のケープコッドにそびえるノスタルジックな灯台をプリントしたもの。観光地としても人気のスポットだそうで、これは1996年に内陸寄りへ灯台を移設したことにちなんだグラフィックです。僕が同じ1996年生まれという縁も感じて入手しました。
8.ブラックドッグのキャップは、ナンタケットサウンドに面しているもうひとつの島、マーサズ・ヴィニヤード島発祥のブランドです。同島にあったレストランのオリジナルアイテムが由来で、 この犬のマスコットが人気。ナンタケットレッドとのコントラストも素敵ですよね」
9.ニットはナンタケット関連では貴重な秋冬向けのアイテム。詳細は不明のノーブランド品だが、フィッシャーマンスタイルながら赤系色というのが珍しい。「旧きよきアメリカの品を感じさせてくれる島の雰囲気が唯一無二。近い将来、実際にこの足で闊歩してみたい。そのときはもちろん、ナンタケットレッドのショーツスタイルで!」
(出典/「2nd 2023年3月号 Vol.192」)
Photo/Satoshi Ohmura, Nanako Hidaka, Akane Matsumoto Text/Okamoto 546, Shinsuke Isomura
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