切り換え不要で、iPadと紙の両方に書けるペン
「お手元の紙に、何か書いてください」と言われて、つい自分の名前を書く。
「続いて、横にご用意しましたiPad miniにそのまま書いてください」と言われて、半信半疑でそのまま書いて驚いた。なんと水性ボールペンの状態のまま、スタイラスとして書けるのだ。これは便利。一本で、切り替え操作なしにiPadと紙の両方に使えるのだ。
紙のノートと、iPadを併用している時に、通常のペンでiPadに書こうとしたり、逆にApple Pencilで紙に書こうとしたことはないだろうか? 筆者はある(笑)
勉強で、iPadと紙のノートを利用している人や、CAさん、医療従事者の方など、忙しい仕事の現場で、iPadにも紙にも書きたい人は数多くいると思う。そうした場面でこの製品は、非常に役に立つだろう。価格は1万6500円と安くはないが、Apple Pencilが1万3800円〜2万1800円することを思えば妥当かもしれない(傾きセンサーや感圧センサーはないから、Apple Pencilとしての機能は同等ではない)。

筆者が試用していた範囲では、Apple Pencilとして使っている時にインクが出たことはなくて、タブレットの表面は汚れなかった。紙に書く際は、ジェルインクの水性ボールペンと同じ感じ。さすが、筆記具のメーカーだけあって、重心も半分より前にあり、持ちやすさを感じる。
開発に足掛け5年。70種のペン先インクの組み合わせと、400種のインク潤滑性バランスをテスト
ゼブラの新規研究開発室の田中義明さんによると、紙の場合は『ボールが回転して、インクが出る』、iPadのガラスフィルム上だと、『ボールが回らず、インクが出づらい』。

この『インクが出づらい』という特徴を追及して、70種以上のペン先と、インクの組み合わせを試し、さらに400種以上のインクの粘度のバランスを試したそうだ。水性ボールペンに深いノウハウを持つゼブラならではの取り組みだ。開発にはトータルで5年を要したという。

この研究は、本社敷地内にある研究施設『Kaku lab.(カクラボ)』で行われた。

Apple Pencilをはじめ、スタイラスは数多く世の中に存在するが、筆記具を作り続けて130年近い歴史を持つゼブラが研究開発したという価値は大きいと思う。

機能を実現するための、精巧なメカニズム
基本は水性ボールペンなので、ノック式で収納可能。ノック部はペンの尾部ではなく、クリップをノックする方式。これは本体の全長が160mmあるため。通常のペンだと145mmぐらいなので、尾部でもいいが、それより15mm長いので、尾部をノックする方式だと手が届きにくいと感じる人が多いのそう。
本体色はホワイトとブラックの2色。

ホワイトはApple Pencilに近いちょっとツルッとした超微細な梨地。それに対してブラックはもっと梨地が粗い(といっても、十分細かいが)感じで、マット感が強い。ホワイトを好む人はApple Pencilっぽいスタイリッシュさを、ブラックを好む人はもっとガジェット感がある方が良いだろうという細かい配慮だ。
ちなみに、Apple Pencilは先端に圧力センサーを持ち、さらに傾きセンサーを持つことで豊かな表現を可能としているが、スタイラスツーウェイはそれらをもたず、電圧で静電容量の変化を作って書いているだけなので、筆圧や傾き検知の機能には対応しない。しかし、逆にペアリングしなくても使えるという利便性もある。
Apple Pencilと同様に、マグネットでiPadのサイドに固定することもできる。
充電は本体側面のUSB-Cコネクターを使う。

約30分の充電で、約7時間の使用が可能とのこと。
替え芯は、クリップを一番下まで押し下げた状態で、付属のクリップでペン先を引き抜くことで交換する。普通のボールペンと異なり、内部が電子部品でいっぱいなので、この方式にしたとのこと。なお、電子部品部分の開発は、エレコムの協力を得たという。

付属するのはペン先交換用のクリップと、USB-Cケーブル。

要ガラスフィルム。対応機種も限られる
非常に興味深い商品だが、欠点がないわけではない。
それが、対応モデルの狭さと、iPadにガラス製の保護フィルムを貼る必要があるということだ。
対応モデルは以下(最新の対応機種については、ゼブラ社のサイトを確認のこと)。
●iPad(第7世代 2019年モデル、第8世代 2020年モデル、第9世代 2021年モデル、第10世代 2022年モデル、A16 2025年モデル)
●iPad mini(第5世代 2019年モデル、第6世代 2021年モデル、A17 Pro 2024モ年デル)
●iPad Pro 11インチ(第2世代 2020年モデル、第3世代 2021年モデル、第4世代 2022年モデル、M4 2024年モデル標準ガラス,M5 2025年モデル標準ガラス)
古いモデルも対応しないし、13インチモデルや、iPad Airも対応モデルに入っていない。またNano-textureガラスのモデルも非対応。
Apple Pencil(第2世代)対応モデルだからとか、Apple Pencil Pro対応モデルだから……とかは関係なく、iPad側の微妙な仕様の違いが理由だという。
ペーパーライクでないガラスフィルムが必要なのは、ガラス表面に傷をつける可能性がゼロではないのと、上述の理由で、ボールが滑って回らない必要があるから。
ボール自体が接触している際には、傷はつかないが、ペン先を寝かすなどしてボールをホールドしている部分が接触するとガラス表面に傷がつくおそれがある。だから保護ガラスは必須。そして、樹脂フィルムや、ペーパーライクのガラスフィルムではボールが回ってしまって、インクが出てしまうリスクがある
iPadの利用方法に、新たな可能性を開く
というわけで、使用できる機種が限られており、さらにガラスフィルムを貼らなければならないというのは難点ではあるが、紙とiPadにひとつのペンで、しかも切り換えなしで書くことができる……というのは、これまでにない可能性を開いたといえるだろう。
誰もに必要なわけではないが、冒頭のように医療現場や、CAさんなど、分秒を争う作業をしていて、紙とiPadの両方を使うような場面では唯一無二の選択肢になり得る。
現在のところ0.5mmの黒インクしかないとのことで、それ以外の太さや色を作ろうとすると、粘度やインクの種類などの調整を新たにしなければならないとのこと。とはいえ、この商品が売れると、他の色や太さも開発されるかもしれない。
筆者がいたような雑誌編集現場だと、赤色のペンがあると重宝されると思う。筆者も原稿に赤字を入れるのに、十年以上もゼブラのサラサを使ってきたし、iPadも使ってきた。両方に一本のペンで書き込めれば便利だったはずだ。
発売が楽しみなアイテムだといえるだろう。
(村上タクタ)