Even RealitiesのウィルCEOに初の対面インタビュー
Even G1は、まだ正式には日本で発売されていない。海外ECサイトから買えるし、技適もあるので、購入の敷居はさほど高くないが、まだ日本国内で所有している人はとても少ないだろう。しかし、筆者がこのデバイスに惹かれるのは、このデバイスが大きな可能性を持っていると思うからだ。
ポストスマホは、個人と密接に繋がり通信を担うスマホの本体部分と、情報を人に伝えるディスプレイやイヤフォンの部分が分化していくと思っている。つまり本体はポケットにあり、AirPodsや、Vision Pro、iPadのような情報伝達部分は別に存在するようになると思うのだ、その時に眼鏡型デバイスは日常的に視覚的情報を伝える鍵となる。
多くの情報を伝えるなら、iPadのような大きな画面や、Vision Proのように目の前を覆うようなデバイスが快適だろう。けれども、ちょっとした情報を伝えるなら、AirPodsのような音で伝える方法や、グラス型デバイスが便利なはずだ。
実際、Even G1はその役割を果たしてくれる。しかし、まだ完成度が足りない。いろいろ知りたいことがいっぱいあるので、来日したウィル・ワンCEOに詳細をインタビューした(おそらく日本メディア初)。

レンズの中をバウンスして光が進む
まず、Even G1はどういう仕組みで動作しているのかを教えていただきたい。
「このレンズの横のテンプルの根元にマイクロプロジェクターが入っています。マイクロストラクチャーが中にあって、レンズの中をジグザグにバウンスして投影部分に反射される仕組みになっているのです。プロジェクター部分は非常に精密な仕組みです」

私は目がいいから補正レンズなしを買ったが、近視の人はその厚いレンズの中を光がバウンスするのか?
「私の使っているG1は処方されたレンズが付いています。現在でも処方箋を送ってもらえば中国の工場でレンズ部分を製作して組み付けます。元からあるEven G1のレンズの内側から近視用のレンズを張り合わせる構造です」
Meta Ray-Banのようにスピーカーがあると便利だと思うのだが、スピーカーを付けようとは思わなかったのか?
「スピーカーは耳の近くに付ける必要があります。耳の近くに付けるということはテンプル部分を厚くする必要があります。すると、現状のような細くしなやかなテンプルのもたらす装着感を得ることができません。Meta Ray-Banは一日中着けるものではない発想かもしれませんが、Even G1は普通の眼鏡のように一日中装着できる軽さ、装着感を実現しています。私は毎日装着して欲しいのです」
これが進化すれば、グラス型デバイスだけですべてが解決する
なぜ、ここ、つまり目の前の少し上に文字を表示しようと思ったのか? Meta Ray-Ban Displayのように横に表示する方法もあったと思うが。
「正面と少し下は、物を見るのに使います。例えば歩くために道を見る時、物を手に取って見る時、視界の少し下の部分を使う。だから少し上の部分に表示すると見やすいのです。Meta Ray-Ban Displayは視界の右端に表示されます。これは通知ウインドウのようなものです。片目表示なので、立体的にも見えません。つまり視界に混じって見えてしまうのです。対してEven G1は2m先(調整可能)の空間に文字が浮かんで見えます。背景と混じることなく、文字がすっきり浮かんで見えて区別しやすくなっています」
プロンプトや翻訳を表示して使うのはとても便利だが、歩きながらナビゲーションを見るのは難しい。人間の視界は脳が高度な手ブレ補正をかけているが、このEven G1に浮かぶ文字は揺れてしまう。だから歩きながらナビゲーションを使うと、思っているよりはるかに見にくい。
「そのあたりは今後のテーマだと思っています。楽しみにしていただきたい。私たちは、スマートグラスのカテゴリーに集中しています。このカテゴリーには非常に大きな可能性があると思っています。今のEven G1のファンクションだけでなく、これが進歩すればグラス型デバイスだけですべてが解決するほどの可能性を秘めています。だから、私たちは日常的に快適に使ってもらえるスマートグラスの可能性に賭けています」
アップルは2029年にスマートグラスを出してくる。Even Realitiesはそれまでに成長する
私もスマートグラスに大きな可能性があると思っている。しかし、このカテゴリーには強大なライバルがいる。このことをどう思っているか?
「最大のコンペティターはMetaとアップルです。まず最初のライバルはMetaで、次がアップルだと思います。Metaとアップルに勝ち抜くためには製品の定義が明確である必要があります。Metaとアップルは非常に大きな会社なので、我々は自分たちの製品をいかに定義して、我々の方が優れているかということを証明する必要があります。だから、私たちはMeta Ray-Banとは違う方法を選びました。カメラやスピーカーは持っていませんが、ディスプレイにフォーカスしています。このやり方で正しかったということが分かるまで3年かかると思います。2〜3年の間にチームをものすごい勢いで拡大しようという計画です」
しかし、Metaやアップルはそれ以上に大きいのではないか?
「私はアップルで働いていたし、アップルの背景を知っているので、どのような方向性でアップルが研究開発を進めるか、想像がつきます。アップルは2029年ごろを目指してスマートグラスを開発してくると思います。Vision Proとはまた別の方向性のスマートグラスです。だから、我々は3年以内に急速に成長する必要があります。今、我々は200人のエンジニアを抱えていて、猛烈なスピードで開発しています。アップルがスマートグラスを出してくるまでに、我々はフルカラーのディスプレイとか、もっと大きく表示されるとか、もっと見やすくなるとか、もっとかけ心地が良いとか、そういうさまざまなことを実現する必要があります」
この仕組みでカラー表示することも可能か?
「今すぐには無理ですが、2〜3年のうちにはフルカラー化をする必要があります。Meta Ray-Ban Displayが使っているのはLCOSプロジェクターですが、我々が使っているのはマイクロLEDプロジェクターです。単色表示の現在ではは、マイクロLEDのEven G1の方が高コントラストでメカニズムもコンパクトです。カラー化は今後の課題ですが、実現は可能です」
日本展開は、来年、次期モデルで(?)
ウィルさん自身のことを少しうかがいたい? 中国のご出身でアメリカで働いたのか?
「中国の大学(上海交通大学)を出て、交換留学でアメリカに行きました。その3年後にアメリカに行って、修士号を取得してアメリカで働いて……トータルで8年ぐらいアメリカにいました。アメリカはもともとすごく新しいものを作ろうという機運に満ちていましたが、今はそれが減速しています。中国では、新しいものを作って成功するより、他の人を追いかけて成功した方が簡単だという人が多い。私は両方を組み合わせたい。アメリカの良かったところと、今の中国のいいところを組み合わせて、一生懸命働いて、新しいものを生み出したい。アメリカにはMetaやアップルがあって、それを乗り越えて成功するのは難しくなってますよね。でも、Metaやアップルが巨額の資金をAIに投入していたのに、それを乗り越えてOpenAIのような会社が現れるからアメリカは面白いと思います」
今後、日本での展開はどうなるのか?
「Even G1は、我々にとってテストマーケティングのような製品でした。まだ、広告宣伝や販売にあまり多くの努力をしていません、我々が正しい方向に進んでいるのかどうかを確認したかったのです。いわば、初代のApple Watchのようなものです。対して、次のモデルは、その成果を取り込み、完成度を高めたApple Watch Series 3のような製品です。これは絶対に成功するから、ここでマーケティングを広げようと思っています。日本は我々にとって2番目に大きな市場になると思っています。来年は日本でのマーケットの拡大や、プロモーションを含めて展開しようと思っています。楽しみにしていてください」
とても楽しみだ。
Even G1はすでに技適も取得しているし、日本語化も(完全ではないが)行われている。
ただし、筆者がレビュー記事に書いたように、スマホとの連携含め、完成度はまだ100%ではない。しかし、次期モデルが、初代Apple WatchがSeries 3に進化したように、完成度を高めるのなら、それは非常に楽しみな製品になるだろう。
ウィルさんの言うように、アップルが2029年まで製品を出さず、Ray-Ban Metaが日本での製品展開に積極的にならないなら、日本のスマートグラスは来年(2026年)に、Even Realitiesの次期モデル(Even G2?)によって幕を開けることになりそうだ。
(村上タクタ)
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