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綱島のYTCは日本企業とアップルの絆。ティム・クックCEOが国内サプライヤー4社のプレゼンを受ける

  • 2025.10.03

横浜の綱島にあるApple YTC(横浜テクニカルセンター)で、アップルのティム・クックCEOが、国内サプライヤー4社のプレゼンテーションを受けた。今回プレゼンテーションされたパーツは、いずれも最新型iPhone 17 Proのカメラ周りで使われているパーツで、どのひとつが欠けても、iPhone 17 Proのカメラ性能を実現できない大切なパーツであることがよく分かった。

アップルCEOティム・クック、日本の拠点であるApple YTC(横浜テクニカルセンター)を訪問

アップルCEOティム・クック、日本の拠点であるApple YTC(横浜テクニカルセンター)を訪問

2025年09月26日

綱島にあるアップルの施設が何をやっているのかようやく分かった

iPhoneの製造といえば中国やインドのFoxconnなどで組み立てられていることが有名。また、心臓部であるA19 ProなどApple Siliconは台湾のTSMCで作られている。通常、アップルは部品供給メーカーを開示しないことが多いが、2022年に発表されたレポートによると、1000社近い日本のサプライヤーから部品を購入しているようだ。

Apple、日本のサプライヤーへの投資を加速:2018年以降1,000億ドル以上を支出
https://www.apple.com/jp/newsroom/2022/12/apple-accelerates-investment-with-suppliers-in-japan/

部品というと、我々は比較的大きな目に見えるサイズのものをイメージするが、iPhoneをはじめ、iPad、Mac、そしてApple WatchやAirPodsは、ほとんど目に見えるか見えないかぐらいの細かい部品が何千、何万と集まって構成されている。そして、その中には、日本メーカーでないと作れない部品も数多い。

その部品を、米国カリフォルニアに本拠を置くアップルに対して、提案、テスト、協業して開発するための窓口として機能しているのが、このApple YTCだということだ。

2017年に稼働を開始したこの施設には約6000平方メートルのラボスペースがある。今回、我々が取材した部屋の下には、ホコリを完全に排除したクリーンルームがあり、サプライヤー各社から提供されたパーツのテストなどを行っているという。

この施設が主に取り扱っているのはカメラ、レンズの技術を主とした光学技術。カメラのみならず、光学全般の研究を行っているというから、Face IDや、AirPods Pro 3に装備された赤外線心拍センサーのような部品も扱っているのかもしれない。

この施設で働くスタッフは『数百人』とのことだが、従来であればカリフォルニアの本社に行って、テストや打ち合わせをしなければならなかったところが、Apple YTCで、しかも日本語で行えるのだから、日本の工学系サプライヤーにとっても利便性の向上は計り知れない。

ちなみに、この施設の誘致に関しては、故安倍晋三元首相が尽力したと言われており、この施設のおかげでアップル製品への日本製部品の供給比率は大きく上がってるというから、故安倍元首相の日本経済への貢献は非常に大きいと言えるだろう(たとえ、100円の部品でも、年間約2億台生産されるというiPhoneに採用されれば200億円の売上になる!)。

通常の開発の流れは、米国の本社からの要望に従って開発するわけだけれども、逆に日本で面白い技術があったら、Apple YTCで研究開発をして、うまくいったら米国のチームに提案して商品として開発するということも行われているらしい。単なる出先機関ではなく、自発的に開発を行っているとのこと。製造開発に使う機材の会社や、素材の会社などとも日本語で深く話し合った上で米国本社に提案できるので、このApple YTCがなかったらアップルとは接点がなかったような会社の技術も取り上げていけているという。アップルに採用されると、当然他のすべての企業が注目するので、日本の技術を海外に広げていく場所としても機能している。

磁性体ひと筋90年のTDKが、iPhone 17 Proの素早いAFを実現している

今回、ここでクックCEOにプレゼンした企業は4社。いずれも、iPhone 17シリーズのカメラモジュールに深く関わる企業だ。

最初にプレゼンしたTDKからは、代表取締役社長執行役員CEOの齋藤昇氏と、取締役執行役員CTO 橋山秀一氏ほかの方々がクックCEOに向けてプレゼンテーションした。

TDKはこの12月でなんと創業90年を迎える歴史ある会社。創業社長の齋藤憲三氏(同姓だが現社長との血縁関係はない)が、東京工業大学(現東京科学大学)の博士が発明したソフトフェライトの製品化を目的として立ち上げた会社だ。ちなみに、創業時の社名は東京電気化学工業。

創業期には通信に使われたフェライトコア磁石や、いわゆる黒電話に使われていた受話器のスピーカーや、呼び出しベル用の電磁石のコア材もTDKの磁石だった。それに、もちろん、我々の青春を支えたカセットテープなど磁気記憶媒体の多くがTDK製だった。創業時からTDKは一貫して磁性体を活かした製品を作り続けているのだ。

初代のiPodにもTDKの部品は使われており、アップルとの付き合いはその時代にまで遡る。写真はその話を自社に保存されていたiPodを示しながら、クックCEOに話す齋藤社長。

このiPodは本当に新品同様にピカピカで、クックCEOもちょっと欲しそうだった(笑)

プレゼンテーションは4社ともすべて英語で行われたが、特に齋藤社長の英語はノリノリで、最初のTDKのことを説明するプロモーションムービーでは踊り出すほどだった。プレゼンテーションも非常に上手で説得力があり、クックCEOも笑顔でうなずいていた。日本の社長がこんなにノリノリでプレゼンしているのは、筆者も初めて見たかもしれない(笑)。このパッションがTDKを支えてきたんだなぁと感動した。おそらく、その場にいた人、全員がそう感じたと思う。

iPhone 17シリーズのカメラに使われているのは、TMRセンサー(トンネル磁気抵抗センサー)という磁石を利用したセンサー。

実物を見せていただいたのだが、サイズはゴマ粒の数分の一というようなもの。小さなワイングラスの中に「5000個入っています」というサイズ感だ。

このセンサーがiPhoneのカメラのズームの位置検出を支えているのだそうだ。薄さ数ミリというiPhoneの中でのカメラのズームであるから、そこで正確な合焦をするには数μmの位置合わせが必要。その精度を支えているのがTDKのTMRセンサーなのだ。

筆者はじめ、多くのレビュアーがiPhone 17シリーズのカメラのオートフォーカスの速さに驚いているが、その速さを支えている部品のひとつが、TDKの作るゴマの数分の一のサイズのTMRセンサーだというわけだ。

TDKの部品が他社製品で代替されないのは、同社が創業以来90年に渡って磁性体にこだわっているからで、材料工学のノウハウ、垂直統合の生産体制、知財、長年の経験値があり、他社では実現不可能な小型、高性能で、高周波でも極めて損失が少ないパーツが作れるからなのだそうだ。

iPhoneカメラならではの自然な色合いを実現している有機と無機両方を扱うAGC

続いてプレゼンテーションをしたのはAGC。

同社からは代表取締役 兼 社長執行役員の平井良典氏、代表取締役 兼 専務執行役員の倉田英之氏、専務執行役員 電子カンパニー プレジデントの鈴木伸幸氏がいらっしゃった。

AGCの旧社名『旭硝子株式会社』が示すように、同社はガラスメーカー。ガラスメーカーとしては世界最大規模の企業で、建築材料、自動車向けガラス、電子部品……と、あらゆるガラス関連製品を扱っている。また、現在ではガラス関連素材だけでなく、化学品事業や、バイオ医薬原薬、診断薬素材なども作る総合素材企業となっている。

今回はiPhone 17シリーズのカメラ部分の話ということで、AGCが作っているIRカットフィルター(以下IRCF)について説明された。

AGCのIRCFは、iPhone 17シリーズのすべての製品の、フロント側の18MPセンターフレームカメラを含む、すべてのカメラモジュールに使われている。

通常、スマホのカメラのセンサーは、すべての光に反応する。つまり、赤外線にも反応して映像を作ってしまう。太陽光などが強く、赤外線が多く含まれていると激しく赤飛びしているような映像になってしまうのだ。それを防ぐのがIRCFというわけである。

iPhoneならではの、美しいバランスの取れた自然な色合いの写真を実現するために、AGCのIRCFは大きな役割を果たしている。赤外線と言われる領域(通常700nm以下の波長)の光をスパッと遮断し、可視光域の光に完全に影響を与えない……という、非常に特殊な性能を必要とするのだ(赤外線カットフィルターと言われるが、400nm以上の紫外線もカットされている)。

AGCはガラスという『無機』素材の世界トップ企業でありながら、化学品薬品、バイオ医薬なども扱っており『有機』の技術も併せ持っている。その技術が、赤外線をスパッと除外しながら、可視光に影響を与えずにバランス良く透過するという性能に活きている。これこそが、iPhoneの写真/動画の自然な美しさを大きく支えている技術なのである。

また、スマホのカメラモジュールは非常に『薄さ』を要求される世界。センサー、レンズ、ズーム機構などが1/1000mm単位のスペースを奪い合うことで、スマホ本体の最凸部の厚さが決定している。赤外線をカットしつつ、極限の薄さ、かつ割れないこと……も要求されるという、過酷な要求に応えているのもまたAGCの技術なのである。

絶縁体であるセラミックの内部に立体的回路を組み込んだ、京セラのカメラ基板

iPhoneのカメラを実現するのに、京セラのセラミックもまた欠かせない役割を果たしてる。

話をされたのは、代表取締役社長兼執行役員社長の谷本秀夫氏、取締役兼執行役員常務の嘉野浩市氏、取締役兼執行役員常務の山田通憲氏。

京セラといえば、独自技術を持つ京都の企業……ということで知られているが、そもそもなぜ、京セラの部品が世界中で重用されるかご存じだろうか?

セラミックというのはその名の通りルーツは『焼き物』。工業材料としての『ファインセラミック』は酸化物(アルミナ、ジルコニアなど)、炭化物(SiC)、窒化物(Si₃N₄)などを超高温で焼き固めて作る『無機非金属材料』の総称。つまり、フラットに言えば、金属以外の素材を焼き固めた高精度、高純度の結晶製品ということになる。

セラミックは、固く、軽く、耐熱性が高く、耐食性に優れ、そして絶縁性を持つ。とりわけ、この絶縁性が大きな意味を持つのである。

京セラの事業は、1959年、ブラウン管テレビの絶縁部品『U字ケルシマ』から始まった。その後、集積回路用多層パッケージ、太陽光発電技術など、常にセラミックを活かした最先端技術を開発してきた。

クックCEOが見ているのは、布を重ねたようなセラミックの素材。これが、iPhoneのカメラのマウント基板になるのだ。

この素材はセラミックの原材料になるものを鋳造して作られ、それを切り分けてシート状にしている。このシートに小さな穴を開けて加工し、それを十数枚重ねる。この穴を導電性材料で埋めることでここが電気回路になり、こうすることでZ方向の配線が可能なる。この行程を11回繰り返して内部に立体的な電子回路を持った基板が出来上がるいうわけだ。最後に、釜で焼結させて、切り分けると、カメラユニットをマウントする基板になる。焼結される時に15%ほど収縮するのだが、その収縮サイズを読み切って生産する。焼結した状態ではセラミックなので、通電性がなく、非常に強固。これが京セラしかできないセラミック基板の技術なのだ。

素材となる布のシートには後々回路になる超微細な穴が開いている、それを見ているクックCEO。

京セラは積層セラミックコンデンサーや、水晶デバイスも開発しており、現場にはそのパーツも展示されていた。おちょこのような小さなケースに、それぞれ1000個ずつ入っているという小さな部品だ。しかし、これもまたiPhoneのような精密な電子機器を作る際には欠かせない部品なのだ。こういう小さな部品も含めて、iPhoneには多くの日本製部品が使われていることに驚いた。

1983年から、アップルとコラボするソニーのセンサー技術

最後のプレゼンテーションはソニーセミコンダクタソリューションズ。

お話されたのは、ソニーグループ株式会社代表執行役社長CEOの十時 裕樹氏、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社代表取締役社長CEOの指田 慎二氏、同執行役員CTO兼研究開発センター長の大池祐輔氏。

ご存じの通り、現在のiPhoneにおいてはソニーセミコンダクタソリューションズのCMOSセンサーが欠かせないものになっている。3年前の訪問時に、クックCEOが熊本の工場を訪問したことも記憶に新しい。

現在のiPhone 17でも、それぞれのモデルに使われるアウト側のフュージョンセンサー、イン側の18MPセンターフレームカメラなどは、すべてソニーセミコンダクタソリューションズのCMOSセンサーが使われている。

現場には実物のセンサーが展示されていたが、iPhone 17 Proで使われる48MP Fusionメインセンサーはかなりの大きさだった。また、18MPセンターフレームカメラのセンサーは一部で八角形だという噂が出ていたが、実物は少し横長の4:3サイズの長方形だった。おそらくセンサーに付けられるカバーなどによって八角形に見えていたのだろう。

ソニーとアップルの関係性は1983年からなので40年以上になる。最初はフロッピードライブから始まったのだそうだ。そして、すでに100億個以上のカメラセンサーを出荷しているという。

アップルも日本も満足せず、1+1を3にする姿勢を持ち続けるのが共通点

「日本は国として、カメラの専門技術が集積された地域です。歴史的にもそうですし、現在も世界最先端のカメラの技術を持っています。私たちは、パートナーと一緒に、この能力とエコシステムを持つ地域にR&Dを設置する必要を感じました」とクックCEOは、綱島にApple YTCが設立された理由を語った。

「今回、お会いしたパートナーの方々もそうですが、まさにそうした方々とのコラボレーションが、素晴らしい作品作りに繋がるのではないかと思いました。そして、実際に非常に上手くいっています。この技術なくして、iPhone 17 Pro、iPhone 17 Pro Max、iPhone Air、iPhone 17に搭載されたようなカメラシステムを完成することは不可能でした。今、スマホの使い方が大きく変わってきていますが、これを可能としたのは、ここに集まってくださったパートナーの皆さんとの協業があったからだと思っています」

「日本のみなさんと一緒にお仕事をするのは素晴らしいことです。精密で、誠実で、高いクオリティ、そして、みなさんが心を込めて作られていることがあります。『1+1を2ではなくて3』にしようとすることが、私たちアップルと日本のみなさんの共通点だと思います。日本の方々もアップルもデザインを重視しているというのも大切なポイントです。アップルは満足しませんし、日本の方々も満足せず、妥協しません。次は何ができるだろう? もっとできるはずだ、という姿勢があります。そんな二者が協力することで、さらに素晴らしいものが生まれると考えています」とクックCEOは語った。

前ジョブズCEOが日本好きであることは広く知られているが、クックCEOもまた、日本のことを深く理解し、アップルと強く結びついた場所だと理解してくれていると感じた。

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