CMと室蘭工業大学SARDについてはこちらの記事をご確認のこと。
高校生の時から、MacBook AirでCADを使っていた
最初にSARDの仲間と登壇してから「本日の主役」ということで、原航陽さんが100人以上の人が注目するステージに残る。
原さんは幼少期から、ペットボトルロケットを飛ばしたり、3Dプリンターでペットボトルロケットの部品を作ったりと宇宙・ロケット大好きな少年だった。自分で、ペットボトルロケットを多段式にしたり、いろいろと取り組んでいたのだそうだ。高校時代には、体育祭や卒業式などの記念すべき行事で、ロケットを打ち上げる活動もしていたとのこと。
ご覧のように高校生の時から、MacBook Airを使っていて、CADを使いペットボトルロケットの部品を作っていたりしたのだそうだ。
室蘭工業大学SARDに入ってからは、ハイブリッドロケットに取り組み、仲間と一緒に設計、実験、打ち上げなどの工程に携わっている。この活動が、アップルに注目されCMに登場したというわけ。
舞台に持って上がったのはハイブリッドロケットの1/2スケールの模型。実物と同じように、リモートで機首部分が開き、パラシュートを展開することができるようになっており、その機構を非常に饒舌に壇上で説明してくれた。
宇宙飛行士 野口聡一さん登場! 「Apple Storeで話すのは2度目」
そこに、宇宙飛行士の野口聡一さん登場。
ご存知じのようにこれまでたった14人しかいない宇宙に行った日本人のひとり。中でも野口さんは3度、計344.4日も宇宙に滞在している。しかも、「2つの船外活動における最も長いインターバル」と、「3つの異なる着陸方法での帰還(スペースシャトルで滑走路、ソユーズの着陸船で草原、クルードラゴンの着陸船で海上)」というふたつのギネス記録を持つ、レジェンド中のレジェンドだ。
宇宙好きにとっての「生きるレジェンド」登場に、ここまでご自身の『ロケット愛』を饒舌に語っていた原さんも、急に無口に。野口さんを見る目は、究極の『憧れの目』。司会のストアスタッフにも「原さん、急に背筋がピンと伸びましたね」と言われる始末(笑)
幼い頃から憧れ続けた人を目の前にすると、人はこんな風に緊張するんだと、(オジサンである筆者からすると)見ていて羨ましいような気がした。その興奮こそが、成長のエネルギーになるのだろう。
野口さんは、2013年にもアップル銀座で、お話をされたことがあるとのことで、「銀座はたしか、ビルの中のお店でしたよね。ここは解放感があっていいですね」と、大きなガラスの壁の外から野口さんが話していることに気付いて、驚いている人に向かって手を振ったりされていた。
シャノン・ウォーカー宇宙飛行士のおかげで、ISSでApple Watchが使える
今、どんなアップル製品を使っているのかという質問には、
「今、携帯電話と時計を……あ、もうJAXAの職員じゃないから、商品名を隠さなくてもいいのか。iPhoneと、Apple Watchを使っています。Apple Watchを最初に宇宙に持って行ったのは僕たちなんですよ」と話された。
なるほど、準公的機関であるJAXA職員だった時には、個別の商品について語りにくかったらしい。
ISSに日常使っている製品を持って行くのが難しいのは『(その製品を)ISSに持っていっていい』という認証を取る必要があるからとのこと。
充電ケーブル1本に至るまで、「火災を起こす危険はないか?」「他の機器に影響を与える心配はないか?」ということを調査して証明する大量のドキュメントを作成しなければいけないのだそうだ。
「僕もアップルファンですが、特に一緒に飛んだ女性の宇宙飛行士シャノン・ウォーカーさんが、熱心なアップルファンで『どうしてもApple Watchを宇宙に持って行きたい』って言って、頑張って認証を通したんです。たしか、Series 3から4になる頃だったと思います」
ISSなど宇宙空間では、iPadが非常によく使われているのだそうだ。iPadに手順書を入れて見ていたりするのだそう。だから、iPadと、iPad mini、Apple Watchは宇宙に持って行けるのだそうだ。
「充電場所もあって、認証されたLightningなどの充電ケーブルも設置されています。忙しい時には、充電ケーブルを挿して、そのまま放っておきます。重力がないので、木の葉っぱのように何台ものiPadが充電場所の周りに空中を漂っています」とのこと。ぜひ見てみたい光景だ。
iPadはISSの中で非常によく使われているデバイスなのだそうだが、重力がないので画面のローテーションが上手く動作しない。だから画面の回転はロックして使うのだそうだ。当たり前のことかもしれないが、宇宙に滞在した経験がある人でないと気付かない貴重な話だ。

「個人のiPhoneは残念ながら持って行けません。ISSにはセルラーの電波が届かないから、電話を持って行く意味がないんですね。街中でみなさんがiPhoneを使えるのは、ビルの上に下向きにアンテナが据え付けられてるからですね。宇宙にはそれがありません。写真を撮ったりするのに使えなくはないのですが、今のところ認証がおりているのはiPadとiPad miniだけですね」
iPhoneは電波の都合で国ごとに型式が違ったりするので、認証を取るのが面倒という事情もあるとのこと。
最近は、宇宙飛行士の精神安定のために極力地上と同じ生活を送れるようにということで、ISSが確保している通信回線の一部を使って、Netflixと見たり、専用のシステムを使って家族や知人とテレビ電話をしたりすることもできるそうだ。
また、野口さんがキューポラから地上の写真を撮ったり、船内の活動を記録するために使ったカメラはニコンの一眼レフ(当時)。こちらも、認証の事情で、宇宙に持っていくカメラは伝統的にニコンが使われているのだそうだ。
宇宙開発における日本のプレゼンスは、実はとても高い
次に、宇宙開発における日本のプレゼンスについての話があった。
「JAXAが国際的な調整、交渉において、非常に長い時間をかけて信頼を高めてきたので、国際的な信頼度、プレゼンスは非常に高いです。僕は、JAXA辞めてから外でJAXAの悪口を言うのが好きですが(笑)この件に関してはJAXAが国際的なプレゼンスをずっと高めてきていると思います。また、日本は宇宙の軍事利用というのにも一度も取り組んでいないですよね。そういう意味でも、多国間の調整などにおいて、日本が果たす役割は非常に重いと思います」
また、質問があった「閉鎖空間でのチームワーク」については、
「ISSや宇宙船っていうは閉鎖空間っていうのがすごくフィーチャーされがちだけど、それぞれ孤独な作業も多いからむしろコミュニケーション取れるのが嬉しいっていう部分もありますよね。宇宙飛行士というのは同じ目標に向かって作業をしているから、そもそもベクトルがあっている。これが一般企業だと、ベクトルを揃えるところが大変なのですが」
「もちろん、こだわりのズレみたいなのはあるので、それはどこかで一度強く主張してぶつかりあって解消した方がいいと思いますね。やっぱり日本人って、他人と喧嘩するのも嫌いだけど、それ以上にチームの中でいざこざが表面化するのを嫌がりますよね。だから折り合わない部分があって、それを抑えてしまうとずっとストレスが残ってしまうので、良いチームになるためには一度、お前のやり方は違う、俺の方がいいというのをちゃんと出した上で、話し合った方があとでチームとしてまとまりますよね」
と、お話しされた。長い訓練期間を経て、長期間宇宙に滞在された方ならではの話だといえるだろう。
そして会場に来ている若い人たちへのメッセージとして、
「今、人類はISSから、もっと離れた外の宇宙に出ようとしています。月になるか、火星になるかわかりませんけれど。学生のみなさんの、創意、イノベーションで新しい宇宙への道を開いて欲しいと思います」と語られた。
会場には、宇宙開発に憧れるお子さんも多く、普段のアップルストアとは少し違う雰囲気。多くの人が、野口さんの語る貴重な宇宙の話に心をときめかせた30分だった。
(村上タクタ)
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