iPhone 16e
https://www.apple.com/jp/iphone-16e/
いわば、真っ白なヘインズのTシャツ
この新しい端末に触れて最初に感じたのは、『史上もっともシンプルで、かつ高性能なiPhone』だということだ。
表面にはホームボタンがなく、裏面のカメラもひとつ。サイドのボタンもカメラコントロールボタンがない分、上位モデルよりシンプル。
例えるなら、洗いざらしのヘインズの白いTシャツとリーバイスのデニム。シンプルだが心臓部はA18チップで最上位モデルに匹敵するパワー(後述するが、性能には若干差がある)。カメラもシングルだが、アップルならではの工夫で2つの画角を持ち、十分な性能だ。
この、シンプルなビジュアルなのに、高性能だというだけで、惚れ込んでしまう人がいるのではないかと思う。
外装だけを解析すると、iPhone 14世代のボディとディスプレイに、iPhone 15/16のメインカメラに近いカメラユニット(48メガピクセル ƒ/1.6絞り値などの性能は同じだが、光学式手ブレ補正がセンサーシフト式ではないようだ)を搭載したモデルということになる。
そのため、ディスプレイ上部のFace ID部分は、iPhone 15〜16のダイナミックアイランド方式から、ノッチ方式に逆戻りしている。ボディエッジ部分自体は、iPhone 16(左)の方が若干薄く、iPhone 16e(右)の方が少し厚く見えるが、微妙な差違で色の違いのせいかもしれないと思える程度の差だ。
ボディサイズもiPhone 14とまったく同じなので、カメラが一眼になったことと、スライド式のマナースイッチがアクションボタンになったことを除けば、iPhone 13〜14世代のケースも、ものによっては使えるかもしれない(未検証)。
そこに、A18チップ、C1モデム、USB-Cコネクター……などの最新装備を組み込んだのがiPhone 16eということになる。
つまり、『SE4』ではなく、『16e』という名の通り、SEの路線を引き継いだものではない。A18という最新チップの搭載機に、ちょっと前の世代の部品を上手に組み合わせて使い、極力安価に提供することを志した製品ということになる。
全機種Apple Intelligence対応にするための戦略機種
iPhone 16eの“e”とは何なのだろうか?
筆者が聞いた所によると、「特定の意味はありませんが、英語には“Everyday” (毎日)、“Essential”(重要、不可欠)、“Everybody”(みんな)という、“E”からイメージされるさまざまな言葉があります」とのこと。筆者の貧弱な英語力だと、“Economy”とか、“Easy”が先に出てきてしまったのだが、なるほど“Essential”と言うのはこの製品をよく表しているかもしれない。
この製品の本質は先ほど述べたように最新のA18チップが搭載されており、Apple Intelligenceに対応していることにある。これにより、現行iPhoneは(継続販売されているiPhone 15を除いて)すべてApple Intelligence対応となった。
このiPhone 16e登場の背景をちょっと整理してみると、
・ホームボタンと小さいディスプレイをそろそろ廃止したい
(SEのためだけに、小さい画面でも動くインターフェイスを考えないといけないなどの制限がある。また、ホームボタンなどの部品供給もそろそろ終了したい)
・EUでLightningコネクターが使えなくなるので、USB-C化が必要
・全モデルApple Intelligence化したい
の3点が大きなポイントとして挙げられる。
今のところ、Apple Intelligenceは一般ユーザーにとってのセールスポイントになっていないが、今後、全アップル製品で一番の『推し』になるはずだから、普及版のiPhoneにも搭載しなければならなかったのだろう。
削られた機能はあるが、多くの人にとって許容範囲内
そうはいっても、最新鋭のA18チップは高価だ。このA18チップの導入コストを確保しつつ、価格を極力抑えるために省略された機能がいくつかある。
まずは、カメラが(物理的には)シングルになっているし、カメラコントロールボタンが設けられていない(アクションボタンに設定はできる)。
A18コアは、実はiPhone 16に搭載されているものよりGPUのコア数が1個少ないが、これはさほどの差にはならないだろう。
アップル製の新しいC1モデムの搭載で、クアルコム製のモデムよりサポートする周波数が少なくなるが、これがどの程度影響するかは未知数。1.5GHz帯のサポートがなくなっているので、特定の状況で繋がりにくくなる可能性がないとはいえない。とはいえ、いわゆるプラチナバンドなどはちゃんと繋がるし、事前に世界55カ国、180以上のキャリアでテストしたとのことなので、問題なく動作はすると思う。しかし、これは混雑する状況や、地方都市、辺鄙な場所など、さまざまな状況での実際的な情報が集まらないとわからない部分ではある。
あとは、MagSafeがない(非接触充電はある)、近い距離でAirTagの場所を特定するためのUWBがないなどの微妙な差違がある。これらはA18を積みつつコストを下げるために仕方なかったのだろう。
実際のところ、筆者などはMagSafeがないと不便だとは思うが、別途MagSafe充電器を買わなければならないので、従来SEシリーズを使っていたような一般層の方は、我々が危惧するほどMagSafeを使っていないのかもしれないし、AirTagも持っていないのかもしれない。
計測してみると、性能は抑制されている模様
Geekbench 6とGeekbench AIで、ベンチマークテストをしてみよう。
数値だけを見てみると、同じ数値を示すはずのiPhone 16とのCPUベンチにも若干差があるように見える。その上、マルチコアの数値はiPhone 16eの方が速い。このあたりは測定誤差なのか? GPUのスコアは、iPhone 16eの方がGPUコアが少ない分大差がつくはずなのだが、それほど大きな差はついていない。
ちなみに、CPUのクロック数は4.04GHzでiPhone 16 Proと同じ、メモリーも8GBがおごられており、性能に差が出るはずはないのだが……。
さらに、Geekbench AIの数値には大きな差が出ている。
ちなみに、Single Precision(単精度)というのは、 機械学習モデルのトレーニングなど、Half Precision (半精度)とは、 ニューラルネットワークの推論などで、精度を犠牲にしても処理速度を向上させたい場合に有効なスペック。Quantized(量子化)は、 スマートフォンなどエッジデバイスのリソースが限られた環境で、リアルタイム推論が必要な場合に有効な数値なので、Apple Intelligenceでは重要な指標になると思われる数値。
同じ16コアだから性能に差はないはずなのだが……少なくともベンチマークで差は出ている。iPhone 16に搭載されているA18と、iPhone 16eに搭載されているA18では、GPUのコア数以外にも差があるのか、省電力性能を向上させるために、抑制されている部分があるのか? このあたりは今後明らかになっていく部分だろう。iPhone 15と比べると、単精度ではiPhone 15の方が勝っているが、量子化ではiPhone 16eの方がはるかに性能が高い。Apple Intelligenceの運用において重要な量子化の性能を重視して、iPhone 16eがチューニングされているのではないかと推測する。
いずれにしても、すべての性能において6万2800円のiPhone SE3と比べると圧倒的差があることは知っておきたい。世代の違いとはこういうことで、いくらホームボタンがある方が良くても、今SE3を買うという選択は推奨できない。
お勧めはiPhone 16だが、キャリアの格安プランで買うならiPhone 16eも『アリ』
iPhone 16eは、Apple Intelligenceを動作させるために、A18をiPhone 14のボディに積んで、他の部分をできる限りコストダウンした製品……ということに間違いはないが、実際に手に取ってみると、必要な機能だけに絞ったシンプルで美しい製品であることが分かる。
スマホにカメラなどの機能はそれほど求めない……という向きにとっては、シンプルで美しい、かつリーズナブルなiPhone 16eは良い選択肢になるだろう。
日本での価格は128GBモデルでも9万9800円とあまり安価ではないが、ドコモで660円、auで47円、ソフトバンクで24円(いずれも、 MNPのみだったり、1〜2年後に返却が必要だったり、特定の通信プランに入らねばならないなどの制限あり)という破格に安いプランが用意されているので、そういうプランに入れば、安価でiPhone 16eを購入できる手立てが用意されたのは朗報だ。
ThunderVoltをお読みになるようなガジェット好きの方は、iPhone 16や16 Proをお求めになるとは思うが、お子さんや親御さんなどに勧めるなら、iPhone 16eは何の遜色もない素晴らしいモデルだと思う。もうホームボタンを持つSEが出ることはないと思うし、価格的にも現状から下がる可能性は低いので、安価なiPhoneが欲しいなら16eという選択もいいだろう。
(村上タクタ)
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