アップルCMに登場する、フォーミュラカーを開発する学生たち
アップルのCMで、『学生にMac|EVフォーミュラカーを開発する』というのを見たことがあるだろうか? そこで紹介されているのが、東京大学のEV開発サークル『UTFF——東京大学フォーミュラファクトリー』だ。
部員は総勢36人で、2023年からEVクラスに出場を始めた。 5人の部員の方々にお話を聞く機会を得たので、ご紹介しよう。
取材にご協力して下さったのは左から、教養学部理科一類二年平田泰之さん、教養学部理科一類一年の小野甲太郎さん、電気系工学専攻博士課程一年の加藤准也さん、教養学部4年の遠藤知さん、教養学部理科一類二年の本澤悠介さん。
『学生フォーミュラ日本大会』とは?
まず、『学生がEVのフォーミュラカーを作る』というのがどういうことかをご説明しよう。
まず、フォーミュラカーというのはオープンコクピット、オープンホイールの競技用車のことを指す。みなさんご存知、F1のようなスタイルの競技車両だ。ホイールや運転者が露出することで、空気抵抗などは大きくなるが、シンプルな車体構成で製作することができる。F1の場合ドライバーが見えることによるエンターテイメント性や、ホイールが露出することで、空力的な性能を抑制できるなどもあるが、学生競技の場合、シンプルな構成で作れるというところがまず重要だろう。
学生競技として、米国にFormula SAEという大会がありそのためのレギュレーションがある。日本もそれに準じたルールで行われる『学生フォーミュラ日本大会』というものがあり、今回学生フォーミュラ日本大会のEVクラスにUTFFは挑戦した。
まずは、マシンを開発、製作することこそがチャレンジ
『挑戦した』といっても、F1のようにハイスピードなバトルが繰り広げられるワケではない。
主な課題は、『学生がゼロから車両を製作する』ということにある。『ゼロから製作する』というのは我々が想像するより、ずっと大変だ。
シャシーを設計して作らねばならないし、モーター、制御回路なども自作だ。
ドライバーも学生だから、何より安全性がしっかりしていなければならない。衝突安全性も確保されねばならないし、80kWもの出力を使うので、まかり間違うと感電死のリスクもある。
それを回避するための安全回路の設計も自分たちでやらなければならない。
勉強のために試作したカート用の小型モーターは自分たちが求める仕様の3相交流のモーターを手巻きして作った。巻き線の太さ、巻く回数で性能や特性はまったく変わる。交流モーターは複雑な巻き方をするので、手で巻くのはとても大変だ。
一番大切な万が一の安全性を保障するための回路も自分たちで設計した。KiCadで基板を描き、それを基板業者に発注し、仕上がってきた基板に部品を実装する。
また、他の大学がEVフォーミュラにチャレンジしやすいように、UTFFとしては、このあたりの基本的な情報を公開していく方針で、他の大学の参加者に対してKiCADに関する講習会も行っているのだという。
ゆるゆると走っただけで大歓声! からのスタート
安全性が確保されなければならないから、車両検査も非常に厳しい。書類審査があり、安全装置がちゃんと設計されてるかなども検査される。また、実際にゆっくりと走らせて、ブレーキなどが動作するかどうかも確認される。
ゆるゆるとクルマを走らせて、ブレーキをかけて規定の位置に止まった時には歓声が上がった。
資金の必要な競技だから、スポンサーも獲得しなければならない。
出資をしてくれる企業や、車両製作のための部品を提供してくれる企業、活動自体をサポートしてくれる企業に、競技の概要とその意義を説明し、協力を要請したりしなければならない。
こうした、実際に車両製作のために行うことすべてに学びがある。図面の上だけの設計だけでなく、人の命を乗せて走る車両を、資金を集めてゼロから設計して作るという経験は他では得難いものだ。また、サポートする企業にとっても、そういうことにチャレンジできる有能な人材と知り合えるというのも意義のあることだろう。
初チャレンジでクラス3位獲得! しかし、課題も
学生フォーミュラ大会では、EV化が推奨されていることもあり、2023年度は3割のチームがEVクラスにエントリーした。EVクラスの強豪は一昨年(2022年)も優勝している名古屋大学。土地柄自動車産業が盛んということもあり、競技に対して積極的だし、各社のサポートを得やすいということもあるのだろう。総合優勝こそできなかったが、EVクラスの優勝は名古屋大学となった。
東京大学のUTFFは、数多く発生するトラブルをクリアしながらなんとか出場。なんとドライバーも、東大生でありながらホンダレーシングスクールに通ってるという逸材を得て快走。EVクラスの総合結果として3位を獲得した。
競技にはさまざまなサブカテゴリーがあるのだが、『効率』カテゴリーでは1位を獲得。ベスト車検賞も2位。日本自動車工業会会長賞も受賞した。
EV転向初年度ながら、全種目完走を達成。まずは車検対応をしっかりして、EV車検を一発で通過、翌年に繋がる大会にするために、性能よりも確実に走らせることを優先するという方針が功を奏したといえるだろう。
反面、制御に不安な側面もあり、確実に完走するために出力を控えめにしたという点が残念ではあったという。今年はマシンのフルポテンシャルを発揮できるようにして、上位入賞も狙える体制にしていきたいというが、そうなるといよいよ完走を逃すようなトラブルも発生しかねないわけで、より難しいチャレンジとなってくることだろう。2024年度のUTFFの成績がどうなるのか、楽しみにしつつ応援したい。
UNIXマシンとして便利だからMacを使う
冒頭の話ではあるが、このチャレンジにはそれぞれ個人所有のMacBookシリーズが活躍している。
ちょっと古い話だが、東京大学が2004年にECCS 2004でMacを大量購入しnetbootで集中コントロールしつつMac OS/Windows/UNIXを使えるようにしたというニュースをご記憶の方もいらっしゃると思う。以来、東大は世間でいう『ユーザーフレンドリー』『スタイリッシュ』という側面とは違う文脈からMacを使い続けているし、一般学生もMacを買う場合が多いという。
その理由を聞いてみたが、やはり基本的には、東大生にとってはUNIXマシンとして扱える、どのOSも走らせられるというのが一番大きなポイントだということだ。
また、今やmacOS上で動かないアプリは少ないし、専門的なアプリでも増えている。逆にmacOSでしか動かないというアプリも少なくない。
さらに、処理能力が高い、発熱が少なく重い処理を行える、学校へ持って行って授業から部活まで使い続けられるバッテリーライフの長さなどがメリットとして挙げられた。ちなみに、5人中4人がMシリーズチップを搭載したMacBookシリーズの端末を使っていた。
また、普段使ってるiPhoneとの親和性もメリットのようで、「iPhoneで撮った写真や動画をAirDropで受け渡しできるのも便利」とのことだった。
実際のEVフォーミュラーカーの設計においては、KiCADを使いEVフォーミュラーカーの電源となるバッテリー回路図をデザイン、 AutodeskFusionを使い、EVフォーミュラーカーのハードウェアのデザインを作成、MATLABでコードを書き、試走のデータ分析に活用したという。
現在、2024年9月の学生フォーミュラ日本大会に向けて、マシンをアップデート中。5月頃から8月に向けて試走と改良を行うそうだ。
UTFFの今年の活躍に期待したい。
(村上タクタ)
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