Apple Watchの機能体験のために、S-WORKS AETHOSを用意してもらった
我々テック系のライターは自転車に詳しくない。逆に、自転車系のライターはApple Watchのアップデートに関する情報に接する機会がない……ということで、アップルが両者を体験できる機会を用意してくれた。貸し出されるのは、Apple Watch Ultra 2、そしてパワーメーター機能を内蔵したバイク。それも、レースなどに使われる高級自転車、Specializedの上位モデルを同社広報のサポートで試乗することができた。
筆者は、ミニベロは持っているが、ガチのロードバイクには乗ったことがない。そこで、試乗することになったバイクの写真を撮って、自転車好きの息子に送ってみた。するとすぐに「すごいね! S-WORKS AETHOSだよ!」と返事が返ってきた。
このバイクは『S-WORKS AETHOS – SRAM RED ETAP AXS』というモデルで、車両価格なんと132万円とのこと。
ちなみに『S-WORKS』というのは、Specializedのコンペティションモデル。メルセデスのAMGというか、アウディのRSや、BMWのMのようなものだろう。AETHOSというのは、コンペティションモデルであるS-WORKSが、レースのレギュレーションの最低重量を考えずに、ロードで走る楽しみだけを追求して作った超軽量モデルだとのこと。
たしかに、おどろくほど軽い。車両重量はなんと6.26kg。フレーム重量はなんと585g! MacBook Airの半分以下というか、iPhone 15 Pro Max 3台分より軽い。
メカはSRAMのRED eTAP AXSという最新鋭の電動コンポーネント(最近のロードバイクは、ハンドル部分からフライバイワイヤでモーター駆動でギアを変えるのだ)を使用。レベルは違うが筆者のミニベロもSRAMのメカだから、なんとなく親近感が湧く。
ホイールはAlpinistという、これまたSpecializedの軽量ホイールの中では最高級品。
というわけで、ロードバイク初心者にはまったく猫に小判なのだが、とにかく素晴らしい自転車を用意していただいた。走る舞台は代々木公園。
懸案のバッテリーライフも大きく伸びているし、省電力設定も可能
さて、肝心のApple Watchのお話。
Apple Watchは日常に密着したデバイスだ。1日中心拍や歩数を測ってくれるし、予定を見ることができるし、音楽を聞けるし(Apple Watchの中に音楽を保存してAirPodsなどのBluetoothヘッドフォンで聞くことができる)、取り込んだクレジットカードやSuicaでお金を払ったりすることができる。
しかし、ダイビング、登山やランニング、サイクリングになると、専門のスポーツウォッチの方が便利という意見が多かった。とりわけ、バッテリーの持ちを問題にする声も多かった。ランニングなどで、精密な位置情報を取得しながら走ると、バッテリーの持ちが短くなるのだ。サブ3(マラソンを3時間以内で走ること)で走れるランナーならいいが、5時間、6時間とかかるような市民ランナーや、そもそも100kmマラソン、トレイルランニング、長時間のサイクリングとなると従来のApple Watchではバッテリーの持ちが厳しかったのだ。
その点を打破しようとしているのが、Apple Watch Ultra 2と、watchOS 10だ。
まず、Apple Watch Ultra 2のバッテリーライフは最大36時間だ。さらに低電力モード(常時オン表示や、心拍のバックグラウンド測定など、常時計測系の機能がオフになる)にすると72時間(3日間)となる。また、ワークアウト機能を使った場合でも12時間、低電力モードとGPS/4G LTEを使ったワークアウトで最大17時間、低電力モードを使用してGPSと心拍数の測定頻度を減らした状態でGPS/4G LTEを使用した屋外ワークアウトで最大35時間持続可能だ。設定さえ工夫すれば、なんとか100kmマラソンなど24時間の計測が必要なワークアウトでも利用することができる。
watchOS 10のサイクリング機能の4大進化ポイント
それだけではない。
ワークアウトの測定機能が非常に多彩になり、スポーツをする人が欲しい機能がちゃんと搭載されているのだ。さらに、細部にわたってカスタマイズが可能になっている。実は筆者もここまで詳細にカスタマイズが可能だとは知らなかった。追加された機能をご説明しよう。
サイクリングアクセサリと接続
自転車に取り付けたセンサーと連携することで、ケイデンス(ペダルクランクの回転数)と、パワー(ペダルを踏む力)を取得できるようになった。今回の体験では、S-WORKS AETHOSに内装されたものとBluetoothで連携してデータを取得した。
どちらも自転車に乗る人にとってはとても重要な指標で、どのぐらいのケイデンスで踏み続けるかを計測したり、トレーニングにおいて一定のパワーを出し続けるように意識したりとさまざまな役に立つ。
機能的しきい値、パワーとパワーゾーン
ランニングで、心拍ゾーンを設定して走れるのと同様、パワーゾーンを設定して走ることができる。つまり、○w〜○wの範囲内で走ると設定すると、その範囲を上回ったり下回ったりすると、振動と音声で通知してくれるのだ。また、ランニングと同様に心拍ゾーンで同様の設定を行うこともできる。
iPhoneでの指標の表示
ワークアウト中は、Apple Watch Serise 9なら5段、Ultra 2なら6段で指標を表示することができるが、同時にiPhoneにも連携させて表示することもできる。まさに、iPhoneの画面がカラー、大画面のサイコンになるのだ。
今回は、Peak DesignのMobileシリーズのケースとマウントを使ってiPhoneを自転車に固定したが、装着すると、がっちりと固定されて、取り外すのはワンタッチ。普段使いのiPhoneケースとしても快適な使い心地で、非常に良かった。
スピードメーターのように使ったり、ケイデンスや、ワット数など、自分が気になる指標を大きく表示することができる。
ワークアウトアプリの指標のカスタマイズ
非常に便利だなと感じたのが、表示するワークアウトの指標を自由にカスタマイズできることだ。
どの指標を、どういう順番に表示するか? ということも自由に選べるし、複数画面を設定しておいて、フリックすると切り替えるようにすることもできる。また、特定の状況になると通知するように設定することもできる。選択できる項目は以下のように非常に多い。
指標: 現在の心拍数、平均速度、獲得標高、距離
指標2: 現在の速度、現在の高度、消費カロリー、平均心拍数
心拍数範囲: 現在の心拍数、範囲内の時間、平均心拍数
スプリット: スプリット数、スプリットペース、スプリット速度、現在の心拍数
セグメント: セグメント数、セグメント速度、セグメント距離、現在の心拍数
高度: 過去30分間の高度プロファイル、上昇した高度、現在の高度
パワー: 過去30分間のパワープロファイル、現在のパワー、サイクリングケイデンス
パワーゾーン: 現在のパワー、範囲内の時間、サイクリング平均
サイクリング: 現在の速度、平均速度、現在の心拍数
アクティビティリング: ムーブ、エクササイズ、スタンド
すごい、すごいよ! S-WORKS AETHOS! 欲しい!
さて、実際にApple Watch Ultra 2をして自転車に乗ってみよう……。なのだが、残念ながら技術説明を聞いているうちに冬の早い日暮れがやってきてしまって、2周、4kmぐらいしか走れなかった。残念。132万円のバイクを満喫したかったのだが……。
初めて乗った高価なロードバイク、S-WORKS AETHOSは、軽く、非常に剛性感が高かった。コースの途中、育った木の根に持ち上げられて道が激しくデコボコしていた所があったのだが、少々タイヤを取られても、バイクの進む方向性はまったく乱れなかった。剛性のある高級なバイクとはこういうものなのかと驚いた。
もちろん、フラットな路面でも、ペダルを踏んだ分、まったく力が漏れることなく推進力に加わる感じがした。さらに、少し踏むと、その慣性力でずっと進み続けるので、追加でペダルを踏まなくても平地だったらずっと進んでいるような気がした。SRAMのメカだからか、フリーハブのラチェット音が大きく、ずっと『ジーッ』という音がハブから聞こえていた。
実際、ほとんど漕がなくても進むし、代々木公園の自転車コースとはいえ、歩いて横断する人もたくさんいるので、あまりスピードを出すわけにもいかなかったので、つまりは一生懸命ペダルを踏む機会はなかった。こんな性能のいいバイクで、力いっぱいペダルを踏んだら、どんなに気持ちいいだろうと思った。
ロードバイクユーザーも満足できるApple Watchの機能(のはず)
Apple Watch Ultra 2とiPhone、そしてS-WORKS AETHOSの連動は快調で、走り出したら自動的にワークアウトの計測を開始してくれる。
ペダルを踏んだ回数はケイデンスとしてカウントされ、踏んだ力はパワーとしてW数で表示される。
自転車を必死で漕いでいると、なるほどハンドルから手を離してApple Watchを見るのは難しい。しかしiPhoneをハンドルマウントにしていると、まるでクルマでメーターを見るように容易に数値を見るとができる。スピードや、心拍、ラップタイムなどを表示しておくのも便利だ。
前述のように速度は出せなかったので、パワーゾーンや心拍ゾーンは、『トレーニング』というほどの領域には到達できなかったが、パワーゾーンを表示して、通知を設定して走ると、パワーゾーンを移行したときに音声で通知してくれる。たとえば『200Wを維持した状態で○分走る』というようなトレーニングに最適だ。また、トレーニングを続けることで、発生するパワーが向上するのも見ることができるだろう。
S-WORKS AETHOSに大満足。watchOS 10の機能アップ度合いにも感心した
実際のところ筆者が一番感動したのは高級なロードバイクの走行フィーリングで、これほど走るのが気持ちいいなら、ロードバイクを買ってもイイかも……と思ったが、さすがに132万円は買えない。もっと安いバイクでもそれなりのフィーリングを得られるのかは試してみたいところだ。
ロードバイクに乗ってる人にとって、現在のApple Watch Ultra 2の機能はどのぐらい満足なのかは知りたいところだが、ロードバイク乗りである息子にこの機能を見せると「おお! サイコン要らなくなるかもね!」と言っていた。
とはいえ、常に自転車に装備したままのサイコンの方が便利という側面もあるだろうし、1日中ロングツーリングに出掛けた場合に、Apple Watch Ultra 2のバッテリーの持ちがどのぐらいなのか? みたいなところは興味ある。このあたりは自転車専門誌の人にぜひ試してみて欲しいなぁ……というところ。
逆に、日常的にApple Watchを使っている人にとって、この自転車との連携機能はありがたいに違いない。
サイクリングアクセサリーとBluetoothで接続できるようになったことや、多くの指標を表示できて、さらにカスタマイズが可能であること、そして、iPhoneを自転車にマウントしてApple Watchの表示データをiPhoneに表示できること……などについてはぜひ知っていただきたいと思う。
(村上タクタ)
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