ちなみに、冒頭の写真は筆者の今日のヘルスケアのデータの一部。画面に表示ているのはApple Watchが蓄積するデータの一部だし、さらにそれぞれの数値をタップすると、週次、月次、年次での変動を見ることができる。たとえば、今月の歩幅の平均は60.1cmだが、2020年9月の平均の歩幅は60.2cmだった。変化の傾向を見るのも大切なことなのだそうだ。
『フィットネス』と『ヘルスケア』にフォーカス
2015年に最初のApple Watchが発売された時、おそらくアップル自身もこのデバイスがどのような意味を持つのか理解していなかったのだと思う。最初の発表会には、世界中のファッション誌の編集者が呼ばれ、200万円もする18金のボディを持つEditionが用意されたりもした。
Apple Watchにはファッション的要素もあるし、ギークな通信デバイスとしての価値もある。しかし、近年アップルがフォーカスしているのは、『フィットネス』と『ヘルスケア』についてだ。そして、今日、アップルはApple Watchをはじめとしたアップルデバイスを使って、自身の健康を管理するのに役立つ方法の概要を報告する、新しいレポートを発表した。
6月7日のWWDCで発表されたwatchOS 9とiOS 16では、さらに『フィットネス』と『ヘルスケア』にフォーカスする姿勢が明確になったので、あらためてその詳細な目的が再定義された恰好だ。
Health Report July 2022(英文)
https://www.apple.com/newsroom/pdfs/Health-Report-July-2022.pdf
Apple Watchは、健康を増進し、病気を予防するためのさまざまな情報を提供してくれるのだ。
自分で身体を管理し、健康に配慮した生活を送るための情報提供
このレポートの前半のセクションでは、科学的根拠に基づいた洞察を提供し、Apple WatchとiPhoneを使ったパーソナルヘルスとフィットネスに対するアップルの取り組みを解説している。後半では、これらの機能を使って研究や医療をサポートするアップルの医学界との取り組みについて報告している。
アップルのCOOであるジェフ・ウイリアムズは「もはや自分自身の健康管理というクルマの助手席に座っている時代ではない。有意義で実用的な情報を得て、しっかり健康管理の運転席に座って欲しい」と述べている。
あらためて整理すると、アップルは以下の4つのテーマを中心に、Apple Watchの機能を提供している。
●ユーザーが自分の健康データを1カ所に安全に保存できる場所の提供
●インテリジェントに健康を見守る機能の提供
●ユーザーが自分の健康や体調を改善し、その成果を向上できるような機能の提供
●サードパーティの革新的なアプリ開発をサポートする開発者向け機能の提供
秋にローンチされるiOS 16とwatchOS 9のリリースで、Apple WatchとiPhoneは、心臓の健康、睡眠、身体機能、女性の健康など、17の分野に焦点を当てて新たな機能を搭載する。
また、Apple WatchとiPhoneの従来から搭載されている機能により、大きく自分の人生が助けられたと感じた人のレポートも掲載されている。重篤な心臓病が見つかった人、倒れて救急医療を受けた人、毎日のアクティビティで健康が劇的に改善した人など、体験に基づいたレポートは興味深い。
現在、Apple WatchとiPhoneは、それらで計測されたデータに加え、連携する体重計や、AirPods Proなどのデバイスや、サードパーティのアプリなどから取り込んだ150種類以上のデータをひとつのビューに取り組んでいる。分野によっては歩みが遅いように見えるが、データそれぞれが医学的に正しく、医療レベルの正確性を必要とするものか? そうでないのか? その数値はどのように格納すればいいのかを医療者と慎重に検討しているからだと思う。
筆者のヘルスケアアプリには、Apple Watchを使い始めた2015年から蓄積されているデータもある。これら長いスパンで計測されたデータからは、たとえば「今のところ歩幅は変わっていない」「2019年から在宅勤務が増えたが、それを意識しているので1日の歩数はさほど変わっていない」などを俯瞰して見ることができる。
常時取得できるデータが、医学を大きく進歩させる
医学界との協働については、以下の4点が重視されているという。
●研究者による新たな科学的発見を可能にするツールの構築
●有意義なデータによる医師と患者の関係強化のサポート
●保健機関との協働による健康的なライフスタイルの促進
●公衆衛生や政府の取り組みのサポート
Apple WatchやiPhoneで使うヘルスケアには、ReserchKitという仕組みがあり、医師や研究者は、これを使って個人情報の安全を保たれた状態で、ユーザーの許可を取って研究に協力してもらうことができる。従来、ユーザーの24時間すべてのデータを、大規模に取得することは不可能だったから、これにより大きく研究が進んだ分野もある。
アップルはResearchアプリケーションを通じてハーバード大学T.H.Chan公衆衛生大学院および国立衛生研究所(NIEHS)、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院およびアメリカ心臓協会、ミシガン大学および世界保健機関(WHO)と提携し、3つの研究調査、Apple Women’s Health Study、Apple Heart and Movement Study、Apple Hearing Studyに参加する機会を全米のユーザーに提供している。
レポートではこれらの研究の初期の成果を紹介しているほか、University Health Networkと共同で行われているHeart Failure Studyや、UCLAと共同で行われているDigital Mental Health Studyなど、アップルがサポートした研究について紹介している。
こんなに健康について深く考えたデバイスは他にない
もちろん、アップルはプライバシーについては厳重な管理を行っている。Touch ID、Face IDによってiPhoneがロックされている場合、ヘルスケアアプリ内の健康とフィットネスに関するすべてのデータ(メディカルIDをのぞく)は暗号化され、iCloudに同期されるデータも送信中も暗号化された状態で扱われている。ユーザーが明示的に許可しない限りヘルスケアアプリのデータがアップルを含めた第3者に共有されることはない。
他にも歩数や、日常のアクティビティを計測してくれるウェアラブルデバイスは数あるが、人生を通じて、どの指標が、どのようなカタチで計測され、蓄積されるべきかを考え尽くし、それをセキュアなカタチで保管し、いつでもスマートウォッチとスマホで参照できるようにしているメーカーは他にないと思う。冒頭に書いたように、私のヘルスケアに関する基本的なデータは2015年から蓄積されており、その後も年を追うごとに扱えるデータが増えている。
できることなら、日々蓄積されているこの数値をもっと参照してくれる医療機関が増えればいいにと思う。今のところ医療機関で、「Apple Watchの○○の数値はどうなってますか?」と聞かれることはない。せっかくデータが蓄積されているのだから、それを活用する「Apple Watch外来」のような医療機関があったら、行ってみたいと思うのだが、どうだろう?
(村上タクタ)
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