85年末の『ベスト・ヒットUSA』で流れたポール独占インタビュー|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVol.37

年の背も押し迫った12月28日の土曜日、『ベスト・ヒット・USA』でポールのロングインタビューが放送された。普段はラジオ&レコードのヒットチャートをもとにアメリカの最新音楽情報を届けている番組だが、この日は年末特番のUKスペシャルと銘打ち、現地に飛んだ小林克也がアーティスト取材を通してイギリスの音楽シーンを伝えるというなかの目玉企画としてポールが登場した。

ロンドンMPLでのロングインタビュー

映画『スパイズ・ライク・アス』主題歌

このインタビューでは驚いたことが3つあった。まずは思いのほか尺が長かったこと。次にインタビューの場所がポールの事務所、MPL内であったこと。そして3つ目はその内容が形式的なものでなく、濃い内容であったこと。日本のメディアがここまで充実したポールのインタビューを記録したのは、後にも先にもこれしかないのではないだろうか。普段テレビは3倍で録画していたのだが、この日はいい内容なのではないかという勘が働き標準で録画したのだが、その予感は的中。以後何度見なおしたか分からない、記憶に残る放送であった。

CM明け、クリスマスの飾りつけをするロンドンの街(ソーホー・スクエア)がちらっと映り、MPLの室内にカメラが切り替わると、そこに明るい青の上下のスーツに赤く細いネクタイをまとい(水色の靴下も印象的)、きれいに整えられた白髪交じり短髪の英国紳士然としたポールの姿が映った。今まで見てきたポールとは違う印象、なんともいえぬオーラと存在感に見ている側も緊張してしまうほど。

人前では歌いたいけど、ツアーはもうやらない

アビーロード・スタジオで撮られた「スパイズ・ライク・アス」ビデオ

「今日は寒いね」と小林克也が言うと「グッド・レコーディング・ウェザーさ」と答えるポール。ホームにインタビュアーを迎えるということでリラックスモードではあるものの、いつもの茶目っ気部分は控えめで、どこか横柄、答えに棘があるのがこのインタビューの特徴。相手が日本人ということで5年前(来日逮捕)の因縁が脳裏に浮かんでいたのだろうか。冒頭部分はとく小林克也の質問に突っかかる感じの嫌味な返答が多い。そこでひるまず質問を繰り出して会話を展開させていく小林克也はさすが百戦錬磨というか、スネークマンショーというか、その度胸がすごい。時間が経つにつれポールも徐々に心を開き始め、徐々に茶目っ気を入れていき、プロモーショントークの中にもビートルズ時代の話を交えつつ、最後は「コンニチワ!オッス!!」で落ちを付けた。

20分ほどのインタビューのなかで注目だったのはコンサート活動について。「今後ツアーはやらないのか」との問いにポールは「家庭人は動き回りません。人前で歌いたいけど、大規模なツアーは考えていない。ホテルからホテルなんて独身のやることさ」。この瞬間、ポールのコンサートを見るという夢はかなわないんだと落胆。覚悟はしているものの、本人の口から発せられたことで、悲しい気持ちになった。

この日のポールはロックスターというよりもビジネスマンといういで立ちで、コンサートでロックを歌う姿はまったく想像つかなかったが、「ツアーはやらない」という現実を突きつけられ、それを受け入れるしかなかった。それもあって、89年にワールドツアーをやると知ったときは喜びよりも驚きの方が大きかった。

途中で寝てしまった映画『スパイズ・ライク・アス』

日本未発売だった「ウィ・オール・スタンド・トゥゲザー」

近況では映画『スパイズ・ライク・アス』のテーマ曲を手掛けた経緯、自身が制作を手掛けたアニメ『熊のルパート』、そして来年リリースするニューアルバム(『プレス・トゥ・プレイ』となる)をレコーディング中であることが話され、相変わらず精力的に制作活動を続けていることをアピール、それを補足する形で「スパイズ・ライク・アス」と「熊のルパート」のテーマ曲「ウィ・オール・スタンド・トゥゲザー」の映像が流れた。

この時点の最新シングルは「スパイズ・ライク・アス」。同名映画の主題歌として英米では85年11月、日本では12月にリリースされ、輸入盤に続いて国内盤を購入したのだが、これがなんとも評価に困る曲であった。せっかくの新曲だというのに何度聞いても誉めるポイントが見つからず、ポールらしさもない。それまでのポールの新曲ならレコードを買ってから何度も繰り返して聞いていたのに、この曲はまったくその気にならない。映画ありきの曲だからかと思っていたが、映画を観てもその評価は変わらなかった。

映画『スパイズ・ライク・アス』は日本では本国から遅れること5か月後の86年4月の公開で、『ブルース・ブラザーズ』のジョン・ランディス監督とダン・エイクロイドのコンビということでそれなりに話題にもなっていたので、わたしが見た公開初日に新宿の映画館は結構埋まっていた印象だったが、退屈で途中から寝てしまい、エンドロールで目が覚めたときにポールの歌声が聞こえてきたという始末だった。

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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