
ヘア×古着×アンティーク。日立にお洒落な人を増やしたかった
『じいちゃんの生まれ変わり』
中川雄貴さんはそう言われながら育ったという。44年前に生まれたその日が、1週間前に亡くなった祖父の誕生日だったからだ。
「祖父は熊本城の瓦を作る職人だったんです。生まれ変わりとされる俺も土つながりで小学生の間、陶芸をやらされて。ただ好きだったんですよね。何もないところから美しさが生まれるのはたまらない。ものづくりの情熱みたいなのはこの時に芽生えた気がします」
情熱は今も続く。ただし、つくっている“もの”は、店だ。
茨城県日立市の海岸沿いにある『オットアンティークス』というヴィンテージ家具や雑貨を扱う店。そこに併設する『ゼロハチ』という名の古着店。さらにその2階のオーシャンビューを眺めつつヘアカットできる『ゼロイチ』という美容室。中川さんはこれら複数の店のオーナーであるからだ。
「もともと日立の町におしゃれな人を増やしたいと思い、美容室から始めました。気がついたらその延長でいろいろやりたくなって今に至った」と中川さんは言う。
「日立の町の商店街の、閉じまくったシャッターを空けていきたいと半ば本気で思ってやっています。俺の姿を見て『自分も好きなことで何かやってみたい』と若いコがチャレンジしたくなってほしい。そんな思いがあるんです」
上手い美容師を目指しつつバル併設の店を作った
6歳の陶芸から始まったものづくりへの興味は中学で服に移る。
週末になると地元・日立から水戸まで行き、古着のシャツやカットソーを購入。それぞれを解体して祖母のミシンで、袖や襟を付け替えるカスタマイズに没頭した。
「作るのが好きだったし、服でも何でも誰かと同じがイヤで」
一時は服づくりを仕事に、とも考えた。しかし選んだのは美容師だった。流行に左右され、企業規模で差もつきやすいアパレル業より、職人的にオーダーメイドでカッコよさを提供する美容師のほうが、性に合う気がしたからだ。
「そして日本一上手い美容師になろうと決めたんです。知名度とかじゃなく技術で勝負したかった」
実際なかなかの勝率で勝ち上がる。日立の美容室に勤めながら、仕事を終えると深夜、早朝まで練習した。天性の器用さと努力の才能は中川さんを技術コンテストで好成績を残した。キャリア3年めの快挙だった。
だから25歳で早くも独立。最初の美容室を日立に起ち上げた。店名は『OttO(オット)』。イタリア語で「8」の意だ。
「末広がりで、縁起がいいから」
ウデの立つ美容師がつくった縁起のいい『オット』は、すぐさま大人気店に。中川さん一人に300人を超える顧客がつき、5年後には2号店もつくった。2階をカフェ&バルにする、周囲にはないスタイルにした。今度目指したものづくりは、「おしゃれな空間」をトータルでつくることだった。
「おしゃれな髪型にしたら、そのままおしゃれな場所に身を置きたくなるじゃないですか。けれど、当時のこの辺りはそうした場が少なかった。なら作ってしまえと」
読みが当たる。
美容室の客が帰りに一杯楽しみ、カフェの客が美容室の常連になった。“かけ算”の相乗効果。もっとも、上り坂あれば、下り坂があるものだ。
スタッフがゼロになり、渡米したことが転機に。
『辞めさせてください』
2店舗の店長2人が同時に辞めてしまった。スタッフが彼らに続き、13人全員が次々に『オット』を離れていった。
「終わったと思った」と振り返る。
「当時の俺は店長2人ばかりに目が向いて他のスタッフに気が回っていなかった。そりゃあ店長がいなくなれば、ついていきますよ」
結局、2店舗ともに突然、休業。中川さんはそのまま、アメリカへ飛んだ。まったく違う店づくりをしようと決めたからだった。
「もう一人でできる仕事をしようと、古着やヴィンテージ雑貨のバイヤーへの転身を考えたんです。中学の頃から好きで、得意だったものがそれだったので」
ただその時、LAのヴィンテージショップで出会いがある。50年代のホーロー看板、ヴィンテージのライトスタンド。中川さん好みのものばかり手に取る人がいたので声をかけると現地でバイヤーをしている日本人だった。『茨城から来た? 取引先がいないから仕入れ手伝うよ』。むしろ仕入れは彼に任せ、日立に古着や雑貨の店を作ろうと決めた。潮目が変わり「縁起のよさ」が戻るのを感じた。
帰国後はなおさらだった。
「誰もいなくなったはずの美容室に、何人か『働かせてほしい』という人が現れてくれたんですよ」
反転攻勢。店を再開させた。そのままじゃない。スタッフの技術もやりたいことも聞き入れるマネジメントに。そして日立の繁華街の広い元オフィスに移転。美容室と共に古着とアンティークを置く店を併設させて開いた。「誰かと同じ」が嫌いな中川さんらしい、他にはないスタイルだった。
「またかけ算です。髪型をキメたらカッコいい服を着てカッコいい部屋に住みたいよねと。あとは若いお客さんの夢を聞くとぼんやりとしか答えられないコが多かった。もっと選択肢があるよ、と見せたくて。結果、日立がかっこよくなればいいじゃないですか」
『オットアンティークス』はこうして生まれた。美容室の店名はこの時、『ゼロイチ』に変えた。
「何もないゼロからまた一歩踏み出して、1番を目指したくて」
ものづくり好きだった少年は、いまカッコいい町と人をつくる。
熱は、むしろ高まるばかりだ。
雑貨も家具も古着もヘアも。“かけ算”でキマります
HAIR SALON『01 PARK』

2Fは元々の本業ともいえる美容室『01 PARK』。全席オーシャンビューで、日立の海を眺めながらヘアカットしてもらえる。「従業員も絶景に癒されながら仕事ができる。それこそが自慢」
VINTAGE CLOTHING STORE『08』

1階のプールバーのようなスペースは1990年代を中心とした良質ウエアを集めた古着店。「ヴィンテージだけでなく中高生でも気軽にエントリーしてもらえるような古着も揃えています」
ANTIQUE SHOP『OttO ANTIQUES』

1階の奥の広々としたスペースが『OttO ANTIQUES』。アメリカものを中心に、自宅やガレージ、店舗などを、ヴィンテージ感たっぷりに仕上げられる雑貨、小物、家具などが並ぶ。

元工場を購入。アンティークショップ、美容室、そして古着店の3業態を同時に展開する場にした。「カッコいいヘアスタイルに合う古着と、それに合う部屋づくりができるモノが買える」
【DATA】
OttO ANTIQUES
茨城県日立市東成沢町1-6-14
Tel.0294-51-3636
平日10時〜19時、土日祝12時〜19時 火曜休
http://ottoantiques.jp
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