ウエスタンブーツは 男のロマンでいっぱいだ。
「カウボーイスタイル」と聞いてどのようなアイテムを連想するだろうか。ヨークのデザインが特徴的なウエスタンシャツや、ブリム(つば)が長いウエスタンハットと並んで挙げられるのがウエスタンブーツだろう。シャフトに刻まれた独創的な装飾や見るからに硬そうな高めのヒール、鋭く尖ったトゥがその象徴だ。西部開拓時代のカウボーイは、馬に乗って様々な物資や捕らえた野牛などとともに長距離の移動をする必要があり、必然的に乗馬に適したディテールや、怪我から身を守るための道具として、このようなブーツが必要だったのだ。
ちなみに、ウエスタンブーツには、ワークブーツとドレスブーツという主にふたつのタイプが存在し、ワークブーツは先述のように機能性に秀で、ドレスブーツは、仕事を終えたカウボーイたちの休日靴やお洒落をするための靴として存在。素材にはトカゲ、ヘビ、ワニといったエキゾチックレザーが使われることも多い。つまり、ウエスタンブーツには実用性とデザイン美というふたつの側面が存在するのだ。
言ってみれば、兵士や労働者のユニフォームであったミリタリーとワーク同様、ウエスタンブーツも、愛馬に跨って荒野を駆け巡るカウボーイを支える労働靴。アメカジを愛好する我々が、ロマンを感じずにはいられない存在なのだ。
ウエスタンブーツの歴史とは? 独自の発展を遂げてきた カウボーイの必需品。

まず知っておきたいのは、ウエスタンブーツの起源。カウボーイの仕事靴として、乗馬に適したディテールを備えた“道具”が、ファッションアイテムとして認識されるようになった流れをみていこう。
ウエスタンブーツの起源は、アメリカ西部のカウボーイが使用していた乗馬靴。いわば仕事や生活のための道具=ギアである。南北戦争が終結し、ヨーロッパやアジアからの移民の増加、鉄道網の発達など、アメリカの産業が発展を遂げた19世紀半ば〜後半にかけて大量生産が始まったと言われている。
ウエスタンブーツを最初にデザインした人物や時期は明確にわかってはいないが、①アメリカ先住民のモカシン、②スペインの牧者に使用されていた伝統的なブーツ、③騎兵隊が使用していた軍事用の乗馬靴などが基本になっていると考えられる。
ディテールの特徴としては、馬が動く時に素早く鎧を探すことができる鋭いトゥ、罠にかかった際に素早く脱ぐこともできるように設計された緩めのシャフトが挙げられる。また、シャフト長い膝丈のブーツは、岩石や植物のトゲ、蛇などに対する防御のためであった。
ウエスタンブーツが大量生産されるようになった時期と同時期の1850〜’60年頃、アメリカのファッション誌では、装飾的なステッチやインレイ細工が施されたカウボーイブーツが紹介されていたという。ことファッション業界においては、一般的に1960年代後半から’70年代にかけてウエスタンスタイルが流行したといわれているが、その当時から、いわゆる“仕事靴”としてだけでなく、ファッション的な視点でも認識されていたということがうかがえる。
最後にウエスタンブーツの生産について。ウエスタンブーツメーカーとして世界的な知名度を誇る「ジャスティン」は1870年代後半、「トニーラマ」は1910年代にいずれもテキサス州で創業。メキシコで創業した「リオスオブメルセデス」も1900年代初頭にテキサスへと拠点を移していることからも、「メイド・イン・テキサス」がウエスタンブーツにおけるひとつのキーワードといえる。

某ウエスタンブーツメーカーのカタログ。現在は既製品として多くのモデルは存在するが、当時はカスタムオーダーが主流だった。写真のように選べるトゥの種類も多く、ほかにも革の種類やシャフトの装飾のデザインを選ぶことができた。もちろん、現在もメーカーやショップによってはオーダーが可能。はじめてのウエスタンブーツをオーダーで作るのも粋だ。

アメリカのウエスタンカルチャーを知ることができる写真集や雑誌からは、当時のカウボーイがどのようなプロダクトをどのように着こなしていたかを垣間見ることができる。
ウエスタンブーツの各部名称とディテール。
各部名称とディテール

ブーツの基本的なディテールに加えて、ウエスタンブーツならではのデザインも存在する。また、主に使用される素材やトゥの形状も紹介する。
トゥ

“道具”としてのウエスタンブーツの場合、本来は先が尖ったデザインが基本。これは、乗馬の際に鞍に足を入れやすくするためだ。ファッションアイテムとしての面も強くなった現在は、様々な形状のものが存在。
シャフト

ブーツのアッパーにおける筒部分を指す。クラシックなウエスタンブーツは、シャフトが長いものが多く、ふくらはぎを覆うほどの高さがあるものが存在する。これは、乗馬時に足を保護するための実用的なデザインである。
ヒール

高さのあるヒールもウエスタンブーツの特徴。実際のカウボーイが履くブーツにおいては、乗馬時に足が鞍から滑り落ちないように、少し傾斜している。
引き上げループ

シャフトの上部(履き口)に配置されるループ。ウエスタンブーツはシャフトが長いものが多く、履きにくいのが難点だ。このループは履く時にブーツを引き上げるためのもので、これがあるだけで一気に履きやすくなる。
装飾

ウエスタンブーツを象徴するディテールがシャフトと甲部分に施された装飾。刺繍やレリーフ、カラフルなステッチなど、様々な種類が存在する。このデザインに合わせてコーディネイトを組むのも◎。
トゥの形状
ポインテッドトゥ

最もウエスタンブーツらしいトゥの形状。先端がやや尖った形状となっており、スタイリッシュな印象。これは乗馬の際に鞍に足を入れやすくするための機能的なディテールだ。
スクエアトゥ

文字通り、トゥの四角い形状のものを指す。イタリアのドレス靴などに多く見られるが、ウエスタンブーツにおいても近年はアメリカ本国で人気のデザインなのだとか。
ラウンドトゥ

ロデオ競技の際に使用されるウエスタンブーツの一種であるローパーブーツに多く見られる。丸みのあるトゥが特徴で、ポインテッドトゥやスクエアトゥに比べてよりシンプル。
主な革素材
牛

カーフやキップなど、牛の性別や生まれてからの期間によってさらに細分化されるが、総じて耐久性に優れる。一方で水分には弱い。
馬

牛革に比べて繊維の密度や強度は低いが、薄くて軽く、柔軟性も高いため足に馴染むまでにそこまで時間を要さない。手触りも滑らか。
山羊

非常に柔らかくしなやかでありながら、抜群の耐久性を誇る。他の革に比べて緻密で強い繊維を持ち、外的要因に強く傷が付きにくい。
エキゾチック

ドレス用のウエスタンブーツには、写真のオーストリッチ(ダチョウ)やクロコダイルなどのエキゾチックレザーが多く使用される。
トニーラマだけじゃない! ウエスタンブーツの代表的なブランド
JUSTIN(ジャスティン)
1879年に創業した、アメリカが誇る老舗。1980年代以降からは〈ノコナブーツ〉、〈トニーラマ〉などを吸収合併し、現在は最大手のウエスタンブーツブランドへと成長。
TONY LAMA(トニーラマ)
1911年にイタリア移民のトニー・ラマがテキサス州で創業。ウエスタンブーツの代名詞ともいえるブランドで、ファッショニスタの間でも人気を博し、日本での知名度も高い。
BLACK JACK(ブラックジャック)
老舗ブーツメーカーで研鑽を詰んだ熟練の職人たちが1996年に創業。比較的新しいブーツメーカーでありながらもクオリティの高いモノ作りで、一躍トップブランドに。
RIOS OF MERCEDES(リオスオブメルセデス)
1853年にリオス家がメキシコで創業し、1900年代初頭に現在の拠点であるテキサス州メルセデスに移住し、工場を建設。カウボーイブーツブランドとして不動の地位を築く。
ANDERSON BEAN(アンダーソンビーン)
1980年代後半にスタート。高級ウエスタンブーツメーカー〈リオスオブメルセデス〉のセカンドブランドの立ち位置に当たる。同じくアメリカ・テキサス州で製造されている。
LUCCHESE(ルケーシー)
1883年にイタリア移民としてアメリカの地を踏んだサム・ルケーシがテキサスにて創業。スタイリッシュなルックスが特徴で、大統領やハリウッドスターにも愛用されてきた。
王道でいく? スタイリッシュにいく? ウエスタンブーツのおすすめコーデ。
ブーツ自体に存在感があるため、コーディネイトに取り入れるのが難しく感じられるウエスタンブーツ。そこで、青山の名店「Bailey Stockman」が提案するふたつのスタイリングを見せてもらった。
ウエスタンシャツ×ジーンズで作る王道のカジュアルウエスタン。

ウエスタンシャツとジーンズという王道の組み合わせ。ポケットのデザインやヨークなど、まさに“ウエスタン”なシャツは、アメリカ企画の「ラングラー」。ジーンズはブーツカットでももちろん良いが、ストレートでもなんら問題はない。映画『タクシードライバー』のロバート・デニーロもストレートのデニムにウエスタンブーツを合わせていた。トップスとパンツが落ち着いたカラーであるため、ブーツはブラウンがベターだ。
王道のデニムセットアップがいつもよりスタイリッシュに。

デニムのセットアップにブーツは、アメリカンカジュアルの王道中の王道。なかでも足元にエンジニアブーツを合わせるのが一般的だろう。そこで、足元をウエスタンブーツに変えるだけで一気に新鮮なスタイリングへと変貌する。特に、ポインテッドトゥを選ぶことで、やや野暮ったく感じられるワークスタイルがスタイリッシュに仕上がる。デニムジャケットの中にはチェックのウエスタンシャツを着用している。
【問い合わせ】
Bailey Stockman
TEL03-3408-4763
(出典/「Lightning 2025年10月号 Vol.378」)
Text/K.Minami 南樹広 Photo/M.Tanaka 田中誠