編集部・パピー高野|アイビースタイルを好む若手編集者。アメカジは勉強中。人生初ハワイ出張の経験から、現在はハワイに興味津々。
アロハシャツ研究家/サンサーフ企画統括・中野喜啓さん|学生時代、ヴィンテージに魅了されアロハシャツに傾倒。ハワイへ移住し、アロハシャツの歴史を調査・研究。現在はサンサーフで貴重な名作アロハの復刻を手がける
まだまだ知らないアロハシャツの魅力を知ろう。
パピー(以下、パ) アロハの柄のバリエーションって本当にたくさんあって、アート感覚で楽しめますよね。他のアメカジ服に比べて、覚えなきゃいけないディテールも少なくて助かります……。
中野さん(以下、中) ちょっと待ってくださいパピーさん、それはいただけない発言ですよ(笑)。アロハシャツにも柄以外にみどころはたくさんありますから。
パ そうなんですか?
中 もちろん柄が最大の見どころであるのは間違いないですが、ほかにも、生地や縫製の仕方など、多様な違いがあります。ここに4着のサンサーフの新作アロハを用意しました。これを見ていくだけでも結構違いがあるんですよ。
パ なるほど…。確かにボタンは一目瞭然、いろいろ種類がありそいうですね。
中 そうですね。ココナッツボタン、シェルボタン、尿素ボタン。「この柄にはこれ!」という法則性などはないですが、和柄とバンブーはやはり相性が良かったり、逆に和柄なのにあえてココナッツが使われていたりと、知っていれば意外と面白い見どころです。
パ あと実際にアロハシャツを触ってみて気づきましたが、生地も違いますよね!
中 生地はアロハシャツのディテールを掘るうえで最重要ポイントですね。ここにある4着のアロハシャツは、すべて素材が異なっています。レーヨンフィラメント、シルク、縮緬など……。発色や肌触りといった観点において、それぞれに魅力があるんです。アートでも、キャンバスに描くか紙に描くかで印象が異なるように、アロハシャツでも、生地によって柄の雰囲気がガラッと変わって見えるんです。それも掘っていくと楽しいポイントですね。
パ 確かに。このサギが描かれたアロハの生地はどんな生地ですか? 初めて触りました。
中 これはバーククロスですね。’50年代ごろに「ハタ・ドライグッズ・ストア」という商店が初めてアロハシャツに落とし込んだとされていて、当時はカーテンやソファなどの家具に用いられることが多かった生地です。柄ももちろん魅力ではあるんですが、“「ハタ・ドライグッズ・ストア」のバーククロス”というところが最大のポイントなんです。

パ 「アロハシャツの魅力は柄だけではない」ということの象徴のようなモデルですね。
中 おっしゃる通りです。他にもこのサギのモデルだけ、他の3モデルと違って脇にスリットが入っているなど、シャツとしての作りにおいても実は差異があるんですよね。たとえば、この「笹虎」を見てください。なにか違いに気づきませんか?
パ あれ、襟にステッチが入ってますね?

中 そうなんです。襟にわざわざハンドステッチが施されています。そして袖も折り返しのダブル仕様になっています。これらのディテールは実用性の追求というよりは、他ブランドとデザインの差別化を図ったものでしょうね。「アートヴォーグ」というブランドの個体ですが、このブランドは主に大量生産でものづくりをしていたはずなので、この個体のようにテーラーメイド的な仕様のシャツは珍しいんです。でもそこがまたヴィンテージ好き、アロハシャツ好きの心をくすぐっています。
パ 奥深いですね、アロハシャツ。
中 プリントひとつとっても、オーバープリントや抜染という手法の違いがあったり、柄の構成にもホリゾンタルやオールオーバーというパターンの種類があったりと、掘るべきポイントはたくさんあります。パピーさん? ついてこれてますか(笑)
パ 今日はもうパンクしそうなので、次回以降でお願いします(笑)もう二度と「アロハは柄だけ」なんて言いません!


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サンサーフ(東洋エンタープライズ)
TEL03-3632-2321
https://www.sunsurf.jp
(出典/「Lightning 2025年7月号 Vol.375」)
Photo/N.Suzuki 鈴木規仁 Text/S.Takano 高野周平