日本を代表するシルバースミスのひとり「LARRY SMITH」林田吉史さんにとってのアメリカとは?

日本を代表するシルバースミスのひとりであるラリースミスの林田さん。ネイティブアメリカンのナバホ族のシルバージュエリーとともに大きな影響を受けたのが、タフなアメリカンワークウエアであった。

ワークとシルバーの意外な相性に惹かれた。

日本だけにとどまらず、本場のネイティブアメリカンたちからも高く評価されている実力派シルバーブランドであるラリースミス。代表であり、シルバースミスでもある林田さんは、アパレルで勤務しながら、独学で彫金技術を学び、独立するという異色の経歴を持つ。そんな林田さんが辿り着いたのが、ネイティブアメリカンの中でもシルバージュエリーを得意とするナバホ族。今でも伝統的な手法を守り、シルバースミスのハンドメイドで手間暇を掛けてシルバージュエリーを作り出している。そんな彼らに出会う前に感銘を受けたアメリカの象徴が、ヴィンテージのワークウエアだった。

「自分は長崎で生まれ育ったのですが、叔母がアメリカに住んでいたこともあって、自然とアメリカンカルチャーに接することが多かったんです。そしてアメリカンクロージングに興味を持ち、モーターサイクルカルチャーに触れたことが、今のモノづくりの原点になっています。バイクに乗る時に実用的でスタイルにも合うのがワークウエアだったんです。そこからヴィンテージショップでいろいろとワークウエアを探っているうちに、旧きよき時代のヴィンテージへ惹かれていきました」

シルバースミスになった今でもヴィンテージのワークウエアをユニフォーム的な感覚で、着用する林田さん。ナバホ族の伝統的な手法を駆使してジュエリーを作り上げる林田さんは、銀にタガネと呼ばれる鉄製の道具で細かな柄を打ち込んでいき、薬剤を使って硫化させ、それを美しく磨くというのが基本的な工程。汚れやすく、肌に付くと危ない劇薬や溶けた銀を扱うため、タフなワークウエアはファッションの前に道具でもある。特に美しくエイジングしていくデニムとシャンブレーは、自身の仕事にもライフスタイルにも欠かせない存在だと語る。

「エイジングして美しく朽ちていくワークウエアに、自身の作ったシルバーアクセをカスタムした時に、なんとも不思議な調和を覚えました。もちろん自分の中でネイティブアメリカンジュエリーというのは大きな核ではあるのですが、日本人の自分が彼らの真似をしてもおもしろくない。だからひとつの作品を作って終わりなのではなく、愛用してくれている方たちが、カスタムして自分だけの楽しみ方ができるような余白を意識していますね。日本の文化であったり、ファッション的な視点のジュエリーのコンビネーションであったり、ネイティブアメリカンのシルバースミスがやらないことをしてこそ、作る意味があるのだと思います」

実際に店頭に足を運ぶと、多くのジュエリーが単品でディスプレイされるのではなく、コンビネーションとして提案されていることがわかる。アイコン的なモデルでも、合わせ方ひとつで個性的にもなるし、自分らしさを出せる。この感覚は大量生産のワークウエアでも使い込んだり、カスタムすることで自分だけの1点物に変わっていくような感覚に近いのかもしれない。

「自身の原点となったアメリカのワークウエアやモーターサイクルのオリジナルの良さもよくわかりますし、それをカスタムする文化も素晴らしいと思います。そういった意味でも、自由なアメリカの象徴でもあるのかなと思います。カスタムカルチャーからインスピレーションを受けることも多く、より美しいコンビネーションを実現するためにパーツを作ることもあるんです。お客様が自分の想定外のカスタムをしていると嬉しくなることありますね(笑)」

「LARRY SMITH」林田吉史|長崎県出身。上京後にアパレル関係の仕事をしながら、独学で彫金技術を学ぶ。多大な影響を受けたアメリカの先住民であるナバホ族の伝統的な手法を駆使しつつもモダンに仕上げるジュエリーは、世界中から評価されている。

50~60s WORK WEAR

自身が着込んだシャンブレーシャツは、’60年代頃のヴィンテージ。シンプルなボタンだったので、コンチョボタンに変更した。

ジャケットの腰にあるアジャスターベルトのボタンを、ラリースミスのコンチョボタンにカスタム。これだけで見栄えが異なる。

バイクに乗るので、グローブをしたままでも操作しやすいように、フロントジッパーにはレザーの引き手をカスタムしている。

取材時の林田さんの胸元には、ネイティブアメリカンの職人が手掛けたターコイズビーズのネックレスとラリースミスのアイコニックなフェザーやメタルを重ね付けしていた。この感覚が氏の真骨頂だ。

(出典/「Lightning 2025年5月号 Vol.373」)

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