世界で唯一のブルハイド専門工房で訊いた! 希少なブルハイドの魅力は荒々しい表情と頑丈さ

ブルハイドの表情は豪快そのもの。独特の荒々しいシボと隠せないほどのキズもこの革の個性である。そこに目を付けたのが職人ブランド「KIGO」。世界で唯一のブルハイド専門工房である。多くのメーカーが目を背けてきたブルハイドに光を当て、世にも珍しく、そして美しい、ブルハイドのプロダクツを送り出す職人工房をフィーチャーする。

ブルハイドってどんな革?

希少かつ取り扱いの難しいブルハイドだが、仕上がった革の美しさは絶品。他の革にはない強烈なシボのインパクトは、多くの革好きを魅了する。KIGOで使うブルハイドは100%ベジタブル鞣しが基本。使い込むほどに光沢を増す。最近、新たな混合鞣し革も開発し、新作に挑んでいる

ブルハイドとは生後3年以上の去勢されていない雄牛の革を指す。そもそも皮革製品に使用される原皮は、食用肉の副産物で、これを鞣したものが革となる。

通常、食用の牛肉は雌牛、もしくは去勢牛で、去勢されない雄牛は大型で、気性も荒いことが多く、繁殖用(いわゆる種牛)として飼育されるのみ。多くの場合、去勢処置が施されているのが現実だ。

つまり、ブルハイドの流通量は極めて少ない。ブルハイドの原皮はとても厚いので、牛革の中でも圧倒的に耐久性が高い。また、シボが深く、大きいのも特徴だ。

しかし、希少の荒い雄牛であるがゆえ、キズが多いのも否めない。一般的な用途は和装履物の底や工業製品の革製パッキンなどで、耐久性を求める「部品」に使われている。

そもそも日本国内にはブルハイド専門タンナーは2社しかなかったが、近年、その内の1社が廃業となり、1社しか存在していない。その1社の生産するブルハイドをほぼ独占的に使っているのがここで紹介するKIGOである。

こちらはKIGOのレザーストック。ブルハイドの染色についても研究を重ねているので、多彩なバリエーションがストックされている。肉厚なため、ブルハイドの頑丈さを損ねない程度に革をすく、精密な加工を施さねばならない
成牛の雄牛からもたらされるブルハイドは厚くて大きい。半裁されたものでもその大きさは畳で一畳ほどにもなるので、その重さもかなりのもの。タンナーでは、水分を含んだ状態での運搬も多く、取り扱いは困難を極めるのだ

次世代に引き継がれるような商品を!

「KIGO」内山高之さん|「自分の欲しいカバンが売っていない」という理由で、大学時代に自分のカバンを作るところからすべてがスタート。有名なカバン職人に師事し、その後独立。デザインから、裁断、縫製、さらに修理まですべて一人で行っている

「ブルハイドに出会った時、どうして誰もこの革を使わないのか、正直なところ大きな疑問が湧きました」

そう語るのはKIGOを立ち上げた内山高之さん。元々、カバンメーカーで腕を磨き、独立を果たした生粋のカバン職人である。

「ブルハイドに惚れ込んで、今ではタンナーさんにオリジナルのレシピで鞣してもらっています。表情、質感、それに香りまで、徹底的に理想を追求しています。肉厚なブルハイドは、カバンを作るには非常に扱いにくい革ですが、他にはない魅力が詰まっています。

これほど耐久性の高い革はありません。キズは隠すのではなく、デザインとしてどう活かすかを考えて使うのもブルハイドならではなんです。キズは隠すものではなく個性です。だから、どの部分にキズをレイアウトするか、お客様と相談しながらカバンを作ることも多いんです」

工房に行けば、直接オーダーできるのがKIGO。実際に裁断前の革を見ながらデザインを決めることも可能だという。

「お客様のオーダーには可能な限り応えます。せっかく長く使える丈夫なブルハイドのカバンですから、長く愛用していただいて、ブルハイドの経年変化も楽しんでもらいたいんです。そこまで考えて革も鞣してもらっています」

表面が均一でないブルハイドは新品の時もそれぞれに個性は強いが、やはり使い込んでこそ、その魅力が一層引き出されるのは間違いない。修理やカスタムを受ける体制も万全。次世代にも引き継がれていく商品を提供するのがKIGOの手仕事なのだ。

KIGOの定番商品の一つ、ハーフフラップブリーフケース。ビジネスシーンでの活用をイメージしたシンプルで飽きのこないデザイン。6万1600円
ヴィンテージミリタリーの持つ機能美を踏襲したホーボーバックパック。高さは43センチと日常的に使いやすいサイズにアレンジ。7万9200円
新作のハーフフラップショルダー。新たにベジタブルタンニンとクロムの混合鞣しによって、これまでの100%ベジタブル鞣しより、光沢感と柔らかさを増したブルハイドを使っている。4万9500円

同じものは2つと存在しないONE of a kindシリーズ。アメリカから仕入れた手織りのサドルブランケットをブルハイドと組み合わせる。1枚のブランケットは1つの商品にしか使わないので唯一無二
長く使うにはシンプルで飽きのこないデザインも重要。シンプルがゆえに、よりブルハイドのシボやキズのレイアウトの妙を実感できるトート。こちらも混合鞣し革を使用する。6万1600円
バッグ以外の小物類も充実する。ウォレットやカードケース、コインケースなどバリエーションが豊富でブルハイド沼にどんどんハマっていく者は多い。変わり種ではブルハイド製将棋盤と駒のセットも!

【DATA】
KIGO STORE
大阪府東大阪市若江南町1-4-9
TEL06-7171-8411
https://www.kingyoseihou.com/

※情報は取材当時のものです。

(出典/「Lightning 2024年5月号 Vol.361」)

この記事を書いた人
松島親方
この記事を書いた人

松島親方

買い物番長

『Lightning』,『2nd』,『CLUTCH Magazine』男性スタイル&カルチャー誌の統括編集長。ロンドンのセレクトショップ「CLUTCH CAFE」のプロデューサーも務める。 物欲を満たすためには海をも越え、全地球規模で買い物を楽しんでいる。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...

スペイン発のレザーブランドが日本初上陸! 機能性、コスパ、見た目のすべてを兼ね備えた品格漂うレザーバッグに注目だ

  • 2025.11.14

2018年にスペイン南部に位置する自然豊かな都市・ムルシアにて創業した気鋭のレザーブランド「ゾイ エスパーニャ」。彼らの創る上質なレザープロダクトは、スペインらしい軽快さとファクトリーブランドらしい質実剛健を兼ね備えている。 日々の生活に寄り添う確かなる存在感 服好きがバッグに求めるものとは何か。機...

この冬買うべきは、主役になるピーコートとアウターの影の立役者インナースウェット、この2つ。

  • 2025.11.15

冬の主役と言えばヘビーアウター。クラシックなピーコートがあればそれだけで様になる。そしてどんなアウターをも引き立ててくれるインナースウェット、これは必需品。この2つさえあれば今年の冬は着回しがずっと楽しく、幅広くなるはずだ。この冬をともに過ごす相棒選びの参考になれば、これ幸い。 「Golden Be...

「アイヴァン」からニューヨークに実在する通りの名前を冠した新作アイウエアコレクション登場

  • 2025.11.21

ニューヨークに実在する通りの名前を冠した「アイヴァン」の新作コレクション。クラシックな要素をサンプリングしながらも現代の空気感を絶妙に捉え服と同等か、それ以上にスタイルを左右する究極のファッショナブルアイウエア。 Allen 2023年、NYに誕生した「ビースティ・ボーイズ・スクエア」。その付近で出...

Pick Up おすすめ記事

「アイヴァン」からニューヨークに実在する通りの名前を冠した新作アイウエアコレクション登場

  • 2025.11.21

ニューヨークに実在する通りの名前を冠した「アイヴァン」の新作コレクション。クラシックな要素をサンプリングしながらも現代の空気感を絶妙に捉え服と同等か、それ以上にスタイルを左右する究極のファッショナブルアイウエア。 Allen 2023年、NYに誕生した「ビースティ・ボーイズ・スクエア」。その付近で出...

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

決して真似できない新境地。18金とプラチナが交わる「合わせ金」のリング

  • 2025.11.17

本年で創業から28年を数える「市松」。創業から現在にいたるまでスタイルは変えず、一方で常に新たな手法を用いて進化を続けてきた。そしてたどり着いた新境地、「合わせ金」とは。 硬さの異なる素材を結合させるという、決して真似できない新境地 1997年の創業以来、軸となるスタイルは変えずに、様々な技術を探求...

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...