アメリカ車に存在するマッスルカーって何? 大排気量こそが正義というモデルたち。

よく最新型のアメリカ車のハイパフォーマンスモデルを紹介するときに「マッスルカー」とか「現代のマッスルカー」とか表現されるけど、そもそもマッスルカーって何だ? という疑問を持つ人も少なくない。直訳すれば筋肉車。これは常軌を逸した大排気量のエンジンを積んだ力自慢の市販車のことで、それをかつてのアメリカ人は「筋肉」と形容したわけ。つまりマッスルカーとはアメリカ車のみに当てはまる自動車用語だったりする。いわばアメリカ固有種ってわけだ。では、なぜかつてそんなクルマが生まれたのか、そんなアメリカンカーカルチャーを歴代の名車から現行車まで、ちょっとだけ勉強してみる。

誰よりも高馬力で大排気量のクルマをかっ飛ばすことが自慢になった時代に生まれたモデル。

まだ今よりも娯楽が少なく、人々の関心の多くが自動車に注がれていた時代。キャデラックやリンカーンなどの高級モデルに乗る人は富裕層、ワーカーはピックアップトラックなど、所有する自動車=ステータスという図式が今よりも明確だったアメリカ。若者たちはというとより速いクルマを求めていた。

実際に毎週末にアメリカ全土で行われていたドラッグレースには多くの車種が参戦し、そこで活躍したモデルは翌週には販売台数を伸ばすという状況が1960年代のアメリカでは当たり前だった。

そうなると、若者たちはより速いクルマを求めて愛車を改造するモノも急増し、誰もがクルマにパワーを求めていた。

そんな世相にメーカーたちも黙っているわけではなく、高馬力、大排気量のエンジンを搭載したモデルを次々と発表していったのがマッスルカーの始まりだった。

小さめのボディに大きなエンジンを積むのが基本。

マッスルカーのベースとなったのは巨大なフルサイズではなく、それよりも軽量なインターミディエイトサイズやスペシャリティーカーで、小振りなボディに巨大なV8エンジンを搭載するというのがその主流。なかには買ったその場でサーキットに乗っていっても好成績を残せるほどのハイパフォーマンスなモデルまで市販されるほど、その傾向は異常なまでに盛り上がっていく。

といっても、クルマ自体は若者にも買ってもらいたいので、快適装備や先進技術は二の次で、とにかくパワーに最大のコストをかけ、その他の装備はあくまでオプション設定にすることで、価格も手ごろなモデルとしてリリースするようになったのがマッスルカーの始まりといえる。カッコ良くて、直線だけは速いというわけ。

排気量もV型8気筒エンジンの搭載は当然のことながら、排気量は5000ccから6000cc、さらには7000ccオーバーまでエスカレート。今から半世紀も前の時代に、市販車で300馬力オーバーというモデルが次々に登場したってわけだ。

そんなクルマが公道を普通に走っていたわけだから、当時のアメリカの自動車事情がいかに独自の進化をしていたのかがよくわかる。

旧いアメリカ車は真っ直ぐしか走れないという人がいるけれど、それはそんな時代のクルマのイメージがアップデートされていない人ってわけだ。

パワーウォーズの終焉は排ガス規制。

ひとつの時代を築いたマッスルカーだったけど、1970年代初頭に生まれた厳しい排ガス規制やクルマの安全基準の厳格化、それに世界を襲ったオイルショックによって一気に衰退。世の中も小排気量でコンパクトなモデルの人気が高まってくることによって大排気量、高馬力のモデルは消滅していく。

そんな時代背景で生まれたクルマたちがマッスルカーという総称で後年になって呼ばれるようになっていく。

もちろん、特別なハイパフォーマンスモデルが多いので、なかには生産台数が少ないモデルもあって、今ではアメリカ旧車の中ではとんでもないプライスで取り引きされているモデルもあるほど。

最近ではそんなかつてのマッスルカームーブメントを想起させるハイパフォーマンスモデルが登場しているアメリカ車市場。もちろん、当時とは違って環境性能も高いし、ハンドリングだって格別、馬力も500馬力や600馬力なんてエンジンも登場している。いつの時代も速いクルマに乗ってみたいという気持ちは変わらないのかもしれない。

マッスルカーの一例を一覧で。

1960年代に一世を風靡した各自動車メーカーによるパワーウォーズが生んだのがマッスルカー。当時のエンジンで300馬力、400馬力といった数値をたたき出す大排気量エンジンに、多くのクルマ好きが熱狂した。まずはそんなマッスルカーの代表車種を見てみよう。

1964年式シボレー・シェベル・マリブSS。’64年がデビューイヤーになるシェベルはシボレーを代表するインターミディエイトサイズモデル。初年度から上級グレードのシェベル・マリブにSS(スーパースポーツの略)モデルが設定され、300馬力のV8エンジンがチョイスできた。Photo by General Motors
ダッジを代表するスペシャリティカーだったチャージャーは’68年式に初めてR/T(ロード&トラックの略で公道もサーキットも走れるよという意味)モデルが登場。375馬力を発生する440ciのV8(7200cc)だけでなく、425馬力の426ciヘミV8エンジンを搭載した。Photo by Stellantis
NASCARに出走するレースカーのベース車両として生まれた1969年式ダッジ・チャージャー・デイトナはチャージャーのホットモデルだったチャージャー500をベースに、空力性能を高めるためにロングノーズ化し巨大なウイングを装着したホモロゲーションモデル。生産台数505台という稀少車だ。エンジンは7000ccオーバーのV8が2種類選べた。これで公道を走っていた人がいたっていうだけでも時代を感じる。Photo by Stellantis
スペシャリティーカーも1960年代後半から大排気量化。1970年式シボレー・カマロZ/28は5700ccV8ながら360馬力を発生するシボレーの名機LT-1エンジンを搭載。コンパクトなボディに巨大なパワーを手に入れることで当時の若者たちを熱くさせた。Photo by General Motors
マッスルカーの波はセダンピックアップにも。1970年式シボレー・エルカミーノのSSモデル(SSはスーパースポーツの頭文字)はビッグブロックの396エンジン(6500cc)を搭載し、レースでも走れるピックアップアップトラックとして販売されていた。少数ながら当時の最大排気量だった454エンジン(7400cc)を搭載したモデルも存在した。Photo by General Motors
1970年式フォード・マスタング・マッハ1には335馬力の428ciのV8(7000cc)を搭載。エンジンフードの上にはコブラジェットと呼ばれるラムエアシステム(空気を強制的にキャブレターに取り込む機構)を装備し、スタイリングも凶暴な出で立ちになっている。Photo by Ford Motor Company
ダッジを代表するポニーカーであったチャレンジャーはデビューの1970年式からホットモデルが登場。R/Tモデルには425馬力の426ciヘミV8エンジンがチョイスできた。さらに写真のようなヘミエンジンを搭載したコンバーチブルモデルとなると稀少。Photo by Stellantis
1970年式ダッジ・スーパービー。スーパービーはダッジのインターミディエイトサイズだったコロネットのハイパフォーマンスモデルとして生まれたマッスルなモデル。写真は335馬力の383マグナムV8(6300cc)エンジン搭載車。さらに上位の426ヘミエンジンや440エンジンもチョイスできた。Photo by Stellantis
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ラーメン小池
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ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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