元常連たちに言われる最高のひとことがある。
「独立した姿を見せたい」。そう思っていた理解者がいなくなった。足踏みをやめる時だった。
「『1年で店を引き継ぎして、独立しよう』。父の葬儀が終わったすぐそう決めた。2019年の年末にはオーナーにも言いました」
待望の自分の看板で、グルメバーガーの店を︱︱。この頃にはもうそんな考えはなかった。グルメバーガーはいい店があちこちにでき、スキマがなかったからだ。じゃあ何を? 考えた時、コストコで180円の格安ホットドッグが人気なことをふと思い出した。ホットドッグをリッチにおいしく提供したらどうだろう?
「グルメバーガーが現れ、世の中に広まったあの頃みたいに、ホットドッグでそれをやろうと。思いいついて、決めちゃったんです」
ソーセージ作りから試行錯誤をはじめた。肉の量、種類、スパイス。どれくらい乾燥させ、燻製して、ボイルするかでも違う。バーガーを食べ歩きして研究したような、あの熱がぶり返した。
「何カ月もソーセージばかり食べてました。実は研究は続いていて、今のでバージョン40くらいです」
場所は新しいものに敏感で、しかもほどよく住宅や企業もある土地を探し、中目黒の今の場所に。店名の『スクーカム』はアワードジャケットブランドの名で見て、馴染みがあった。調べるとまさに店のイメージとフィットしていたので、冠することにした。
「ホットドッグを“最高”で“他にはない”ものにしたかったので、ちょうどいいや、とつけました」
2021年10月。こうして『スクーカム・ホットドッグ・ダイナー』はオープンした。コロナ禍ではあったが、店はすぐに人気店となった。クラウドファンディングでオープン前からコンセプトを説明。それを見て最高のホットドッグを求める人たちが多く集まってくれた。そうして飯田さんのグルメドッグに舌鼓を打つと、皆たまらずSNSなどで広めてくれたからだ。実は超人気店だった前のバーガー店から「探していたよ」と訪れる常連さんも少なくない。
「こっちも美味い」「ホットドッグのほうがいいね」。そう言われるのも最高だが、もうひとつ、彼らにかけられる、うれしい言葉があるのだという。
「『前の店だと、そんな笑ってなかったよね』とよくいじられる。心底、独立してよかったなと思いますね。だから、きっと……」
飯田さんは店の奥、やたらと存在感あるリーバイスのデニムバナーと星条旗を見ながら、ひと呼吸おいた。両方とも、父親の部屋に飾ってあったものだという。
「親父も喜んでくれているかな」
ニカッと笑いながら、言った。
【DATA】
SKOOKUM HOTDOG DINER
東京都目黒区青葉台1-17-2 青葉台117 ビル1F
TEL03-5489-3577
営業/11:30〜23:00
休み/火曜
https://skookum.base.shop
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning 2023年12月号 Vol.356」)
Text/K.Hakoda 箱田高樹(カデナクリエイト) Photo/A.Osaki 大崎晶子
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