2ページ目 - 僕らのアメリカ物語。愛媛の老舗レコード店が紡ぐあの頃のアメリカ。

苦労もあったが、とにかく楽しかったアメリカ生活。

少しでも長くアメリカにいたかったこともあり、学生ビザを取得し、エヴァンス・アダルト・スクールに入学して英語力を身につけることにした。久信さんがレベル3で、一恵さんがレベル2のクラス。アパートが決まるまではモーテル住まい。

テレビやラジオから流れてくる音楽や映像を見ながら、ひとつ夢がかなったことに感動を覚えた。近くのハンバーガーショップでハンバーガーを買って、2人で祝杯をあげたそうだ。

エヴァンス・アダルト・スクールは、在来外国人に無料で英語を教えてくれる英語学校。久信さんクラスは日本人しかいなかったため、日本人と一緒にいることが多かった。

一方、一恵さんのクラスは日本人が少なかったため、アルメニアや中南米の女性たちと仲良くなり英語がメキメキと上達。またアパートに付いていた旧式の大型冷蔵庫とガス・オーブンが気に入り、パンやケーキを焼いて料理も楽しんだ。中古のカラーテレビを購入してからは、朝から晩まで付けっぱなしにするほど現地の番組にはまり、アメリカ生活を満喫していた。

憧れのアメリカ車も手に入れる。シボレーのヴェガという小型車で、ディズニーラインドやサンタモニカのビーチなどにもよくドライブをした。特にディズニーランドには幾度となく通い、映画館でミッキーマウスの旧いアニメを繰り返し観ていることも。カリフォリニアの日差しの中、ベンチに座ってぼーっとしているだけで幸せだったという。

最初はシビックで、次に乗ったのがシボレーだった。このクルマでレコード店に行ったり、海に行ったりといろいろなところに遊びにいったそうだ

そしてシボレーに乗って、足繁く通ったのが中古レコード店だった。ロサンジェルスはもちろん、サンフランシスコなど様々な街に行き、レコードを買い漁った。当時のレコードはとても安く、毎週30~50枚は買うほど。夜や休日には毎週のようにコンサートやフェスに出かけるようになる。リック・ダンゴ&リチャード・マニュエル、ブルース・ブラザーズ、トトなど、とにかく音楽三昧の日々。その頃のことを2人は声を揃えて言う。

「本当に毎日が楽しかった」

アメリカにいたのは2年半。レコード店を開くという夢に向かってアメリカの地で資金を稼ぎ、でも苦しさは一切なく楽しい日々。2人ならきっと実現できる。前向きに“今” を楽しんでいた

そんな生活を繰り返すうちに、数年掛けて貯めた資金が底をつき始めた。これはマズいと、アルバイト探しを開始。クルマが1台しかなかったこともあり、同じ職場で働くのがベストだった。しかし学生ビザでは拒否されたり、夏休みだけのアルバイトは必要ないといわれたりとなかなか決まらなく不安を募らせる。毎日ダウンタウンへ日本語の日刊紙「羅府新報」を買いに出かけ、採用してくれそうなお店に電話をかけていた。

そして、ようやくノース・ハリウッドにある日本料理店「レストラン日本」でのアルバイトが決まり、久信さんは厨房で、一恵さんはウェイトレスとして働くことになった。近くにユニヴァーサルやウォルト・ディズニーなどの映画スタジオがあったり、音楽関係のワーナー・ブラザースやWEAグループの本社、そして数多くのレコーディングスタジオが点在していることもあり、多くの著名人が来店。

日本食レストランで働いていた頃にお客さんとして訪れたコメディアンのチーチ&チョンのチーチと。一恵さんは当時からとても人気者

そんなお客さんの中でも、コメディアンのチーチ&チョンは、一恵さんとも仲がよく、そのやりとりは周りのお客さんを喜ばせていたほどだったという。持ち前の愛嬌と度胸で、たくさんのチップをもらえるようになり、楽しみながらも一生懸命働いた。その成果もあり、それがレコード店オープンへの資金源になったことは言うまでもない。アパートもグレードアップし、各部屋にケーブルテレビの回路が付いていて、契約すると約25局の放送が観ることができた。アメリカ生活はかなり順調だった。

「レストラン日本」というお店で、久信さんは厨房で、一恵さんはホールで働いていた。一恵さんの接客がとても人気で、お客さんからもらったチップがレコード店オープンへの資金になったそうだ。とても頼もしい!

様々な出会いを経て、念願のレコード店をオープン。

その頃一人の日本人と出会うことになる。サディスティック・ミカバンドやYMOなどのアルバムジャケットのデザインを手がけた『Work Shop MU!!』の真鍋立彦さん。現在のMORE MUSICのロゴを作ってくれた張本人だ。真鍋さんとはいまでも交流があり、様々な情報をやりとりしているという。

『Work Shop MU!!」の設立者である眞鍋立彦さんによるロゴを、常連さんがイラスト化してくれたそう。とても味があってかっこいい。額装して店内に飾ってある

渡米から2年半。学生ビザが切れると同時に、1982年にアメリカ生活を終えて帰国。松山で「レストラン日本」で蓄えたお金を元手に、夢だったレコード店オープンすべく全力を注いだ。そして翌年の1983年に、洋楽専門店「MORE MUSIC」をオープンした。

愛媛新聞社の向かい側にあるレンガ調の赤と白のビルMORE MUSIC

しかし経営が厳しい日が続き、1日にレコードが2~3枚しか売れないこともあった。それでもやりたかったレコード店。「ともだちくらぶ」という会員制をスタートし、会誌「ともだちくらぶ通信」を月に一度発行することになってからは、固定客も増え始め、経営状態も安定させることができた。

当初は洋楽専門店としてオープンしたが、現在は様々なジャンル、そして年代に対応できるようラインナップを増やし、地元の高校生や全国の音楽ファンが訪れる名店となった。久信さんは言う。

段ボール箱にぎっしりと入ったレコードは、手書きのジャンルタイトルできれいに整理整頓されている。お目当てのレコードがここなら見つかるかも

「あの2年半は私たちにとってなくてはならなかった日々でした。アメリカ生活があったから今がある。50年まではやろうと思っています」

遠くからでもわかるよう、大きなロゴが出迎えてくれる

【DATA】
MORE MUSIC
愛媛県松山市大手町1-9-10
TEL089-932-3344
営業/11:00~19:00
https://moremusic.co.jp

(出典/「Lightning2023年5月号 Vol.349」)

この記事を書いた人
めぐミルク
この記事を書いた人

めぐミルク

手仕事大好きDIY女子

文房具、デザイン、ニッポンカルチャーなどのジャンルレスな雑誌編集を経てLightningへ。共通しているのはとにかくプロダクツが好きだということ。取材に行くたび、旅行するたびに欲しいものは即決で買ってしまうという散財グセがある。Lightningでは飲食、ハウジング、インテリアなどを担当。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

究極のクラシックを背負う。英国発バッグブランド「Billingham」のカメラバッグ『System-1』

  • 2026.09.24

英国生まれのバッグブランド「ビリンガム」。そして同ブランドを代表するモデル[システム-1]。"用の美"を極めたその実用性とルックスは昔も今も、服好きの心を捉えて離さない。 “機能美”を極めたクラシックバッグの筆頭 創業は1973年。写真を撮るのが大好きだったという創業者のために妻がカメラバッグを手作...

Why Banana Republic? 2nd編集部イチ押し「バナナ・リパブリック」アイテムと、ブランドの魅力を徹底解説

  • 2026.09.16

1978年にアメリカ・カリフォルニア州で創業したバナナ・リパブリック。クラシックとモダンが共存する唯一無二のスタイルや歴史を紐解くことで、我々が彼らのプロダクトを手に取るべき“理由”が見えてくる。(記事をご覧いただいた方への特典を最後に紹介しています) [caption id="attachment...

日本の技で蘇る、旧きよきアメリカンベーシック。100年前の起毛機を使った「DISCUS」のスウェット

  • 2026.09.18

「ディスカス アスレチック」の「MADE IN JAPAN」プロジェクト。和歌山で受け継がれる約100年前の起毛機とそれを支える職人の技。そのこだわりから生み出されるスウェットの魅力を追った。 スウェットの裏側に宿る百年起毛 1973年、アメリカで誕生した「ディスカスアスレチック」。その歴史を日本の...

名作[ハリケーントップ]誕生から40周年! 「CHUMS」の「ハローウェア」が再登場

  • 2026.09.23

「チャムス」の名作[ハリケーントップ]の誕生から40年を迎える今年、「ハローウェア」が再登場する。そのコレクションを紹介する前に、まずはブランドが歩んできた歴史を紐解いていこう。これまでの歩みを知れば、「ハローウェア」をもっと楽しめるはずだ。 ハロー、懐かしくて新しいチャムス サングラスを川に落とさ...

Pick Up おすすめ記事

労働者やアウトドアマンに愛された実用服。「ウエアハウス」のフランネルシャツ

  • 2026.10.02

ミクロレベルまで研究し、古着と見間違うほどのプロダクツを現代に蘇らせるウエアハウス。当時の生産技術や時代背景までも丁寧に掘り下げられて完成した服は、限りなくヴィンテージに近い存在だ。そんな彼らが生み出す服こそ、オーセンティックと呼ぶにふさわしい。 糸そのものから再現し旧式の織り機を用いて製作 フラン...

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

今季ワードローブに加えたいアイテムを厳選紹介! 「EIGHT-G」で秋支度。

  • 2026.10.04

秋の装いが楽しくなる季節。ミリタリーやワークといったアメリカ由来の実用服をベースに、素材やディテールへこだわりを詰め込んだエイトジーの新作から今季のワードローブに加えたいアイテムをピックアップ。 (右)ジャケット110,000円(TMJ2615)、シャツ23,100円(8LS-81)、ジーンズ24,...

トラッドの相棒にドゥニームのジーンズを! ウエアハウスが1988年のクラボウデニムを再現

  • 2026.09.17

1980〜90年代に日本のセルビッジジーンズの先駆けとして一世を風靡したデニムブランド「ドゥニーム」。同ブランドの創業当時のレシピをもとに、再始動を手掛けたのが「ウエアハウス」だ。彼らの徹底的な研究・解析によって生み出された至極の1本は、まさにオーセンティックそのもの。そして、本当の意味での“良い色...

時間を重ねて、ヴィンテージになる。「RAGGY CLOTHING」の何年先も、格好いいと思える服

  • 2026.10.02

時代が変わっても、色褪せない格好よさがある。「ラギークロージング」が大切にするのは、流行に左右されない普遍的さ。アメリカンカジュアルの王道を、いまの時代に自然に着られる1着へと仕立てる。 旧きよき服を現代の日常に アメリカンカジュアルの王道を見つめながら、現代の日常に馴染む服を作る「ラギークロージン...