ネイティブカルチャーに魅せられた男が愛する、「インディアン」の軍用バイク。

約30年前に出会ったGoro’sのゴローさんの影響でネイティブカルチャーにのめり込み、以来3 台のインディアンで走り続ける、知る人ぞ知るインディアン狂。沖さんが初めて手に入れた軍用インディアン、741スカウトへの思いを伺った。

「SAKURA工房」主宰・沖眞市さん|1949年生まれ。生前のゴローさんと親交が深く、自身も独学でシルバージュエリー製作の技術を習得。オリジナルブランドSAKURAを手掛けながら、ゴローさんの息子さんたちの作品を展示するショールームを運営。ネイティブカルチャーを意識した個性的なファッションが沖さんのトレードマークだ

H-Dのライバルとして競い合ってきた、インディアンのモーターサイクル。

シフトやスロットル操作がH-Dと左右逆だから慣れないと運転が難しい!

George HendeeとOscar Hedstrom、レーサーにしてエンジニアである二人の男の出会いから誕生した、インディアン。二人は“The World’s Finnest Motorcycle”を作り上げるという夢を実現するべく1901年にThe Hendee Manufacturing Companyを創設。そして、そこで作り挙げられた原動機付き自動二輪車がインディアンの始まりである。

インディアンは1953年の生産中止まで、レースでもストリートでもH-Dのライバルとして競い合いながら現代まで生き続ける名車を世に送り出した。質実剛健なH-Dに対し、繊細な作りこみやレースでの経験を活かしながらハイクオリティなモデルを生産し続けたのだ。

しかし、インディアンは旧車ファンの中でもH‐Dに比べマイノリティなメーカー。そんな存在感こそインディアンのアイデンティティと言えるだろう。

ガレージはまさに宝の山!

愛知県に住む沖眞市さんは約30年前に、そんなインディアンの存在感にハマった傾奇者。きっかけはGoro’sのゴローさんとの出会いだった。約30年前、ゴローさんが乗っていたインディアンに興味を持ち、初めて手に入れたのがこの741スカウトだった。当時は今のように簡単に情報が手に入る時代ではないため、名古屋の古着店に展示されていた車両を見つけ、知人を介して連絡をとり、741と知って購入に至った。

オリジナルのガーダーフォーク。悪路での走破性を意識して、741スカウト用のフォークはスポーツスカウトなどに比べやや長めに設計されているため、車高を上げるためにレーサーのカスタムにも使用された

「最初は741に拘ったわけではなく偶然。名古屋にあったインディアンが741だったというだけなんです。しかし、実はインディアンに乗る以前にウィリスM38(WWⅡ時代の軍用ジープ)に乗っていたことがあったんです。その頃から軍用車”、ということで一目惚れしました」

その後すぐに’47年式チーフと’32年式フォーを手に入れ、3台のインディアンを所有。ガレージにはエアガンや零戦のラジコンなど、741スカウトを囲うようにミリタリー物がディスプレイされている。インディアン狂でありミリタリー好き、沖さんのもとに741スカウトがやってくるのは必然だったのかもしれない。

フロントのフォークの前に取り付けられているのはマップライト。専用バイザーが備えられていて、ライトのそばでマップを照らすための装備のようだ

WWⅡのアメリカの軍用バイクといえば多くの人が連想するのはH‐DのWLAだろう。生産台数6万台以上、カナダのWLCも合わせれば8万台超。対して741スカウトは約3万台と半数以下の生産数で、インディアンの日本での立ち位置を考えればそうそう見かけることがないのも納得だろう。

エアクリーナーは水や砂などが入ってしまうことを防ぐためにボックス型になっている。内側に穴が開いていて、そこから空気を取り入れる構造になっている

741スカウトは戦後安価で流通したこともあり、アメリカではカスタムやレーサーのベースとなった例も多いが、沖さんはオリジナルに近い装備にこだわっている。

「カスタムも好きですが、オリジナルにこだわるのは何よりインディアン社への敬意です。メーカーの研究努力があって完成した車両をできるだけ当時の姿のまま楽しみたいと思っています。741は整備しても、チーフやフォーに比べると遅くて足としては使いにくいですが、インディアンの軍用車と言う意味でやはり私にとって特別な車両。一生手放すことはできないと思います」

1942 Indian 741 SCOUT

第二次世界対戦中の軍用車として生産され、アメリカ陸軍に納入された741スカウト。H-DでいうところのWLAだが、オリジナル装備を備える741 SCOUTは国内では珍しい。30.50ci(=499.8㏄)のフラットヘッドモーターを
搭載する741は戦後安価で流通したこともあり、アメリカでは741をベースとしたカスタムやレーサーが数多く作られた。

Oki’s Indian Collection!

1932 INDIAN FOUR

直列4気筒エンジンを搭載するFOURはハイグレードラインとして’27年〜’42年まで生産された。沖さんはこのマシンで旧車レースにも参戦していた。

1947 INDIAN CHIEF

プランジャーサス式のフレームを採用するチーフ。’47-‘48年式は‘40sインディアンの象徴であるディープフェンダーと、インディアンの顔のフェンダーオーナメントが揃うゴールデンイヤー。

(出典/「Lightning 2020年12月号 Vol.320」)

この記事を書いた人
Lightning 編集部
この記事を書いた人

Lightning 編集部

アメリカンカルチャーマガジン

ファッション、クルマ、遊びなど、こだわる大人たちに向けたアメリカンカルチャーマガジン。縦横無尽なアンテナでピックアップしたスタイルを、遊び心あるページでお届けする。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...

この冬買うべきは、主役になるピーコートとアウターの影の立役者インナースウェット、この2つ。

  • 2025.11.15

冬の主役と言えばヘビーアウター。クラシックなピーコートがあればそれだけで様になる。そしてどんなアウターをも引き立ててくれるインナースウェット、これは必需品。この2つさえあれば今年の冬は着回しがずっと楽しく、幅広くなるはずだ。この冬をともに過ごす相棒選びの参考になれば、これ幸い。 「Golden Be...

Pick Up おすすめ記事

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

着用者にさりげなく“スタイル”をもたらす、“機能美”が凝縮された「アイヴァン 7285」のメガネ

  • 2025.11.21

技巧的かつ理にかなった意匠には、自然とデザインとしての美しさが宿る。「アイヴァン 7285」のアイウエアは、そんな“機能美”が小さな1本に凝縮されており着用者にさりげなくも揺るぎのないスタイルをもたらす。 “着るメガネ”の真骨頂はアイヴァン 7285の機能に宿る シンプリシティのなかに宿るディテール...

スペイン発のレザーブランドが日本初上陸! 機能性、コスパ、見た目のすべてを兼ね備えた品格漂うレザーバッグに注目だ

  • 2025.11.14

2018年にスペイン南部に位置する自然豊かな都市・ムルシアにて創業した気鋭のレザーブランド「ゾイ エスパーニャ」。彼らの創る上質なレザープロダクトは、スペインらしい軽快さとファクトリーブランドらしい質実剛健を兼ね備えている。 日々の生活に寄り添う確かなる存在感 服好きがバッグに求めるものとは何か。機...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

決して真似できない新境地。18金とプラチナが交わる「合わせ金」のリング

  • 2025.11.17

本年で創業から28年を数える「市松」。創業から現在にいたるまでスタイルは変えず、一方で常に新たな手法を用いて進化を続けてきた。そしてたどり着いた新境地、「合わせ金」とは。 硬さの異なる素材を結合させるという、決して真似できない新境地 1997年の創業以来、軸となるスタイルは変えずに、様々な技術を探求...