インディアンジュエリーとは? 歴代の巨匠作家とその本物の作品で歴史を振り返る。

昨今、インディアンジュエリーがブームとなっている。ひとえにインディアンジュエリーと言っても、千差万別。ヴィンテージにこだわる人もいれば、アーティストやターコイズに夢中になる人もいる。ひとつ言えることは、その歴史を知れば、インディアンジュエリーはもっとおもしろくなる!

【1880年代~】ナバホ族のブラックスミス(鍛冶職人)からシルバースミス(銀細工職人)へ。シルバーとターコイズが巡り合う。

インディアンジュエリーの始まりにおいては、様々な諸説が存在する。今回の企画では、1880年代にナバホ族のシルバースミス(銀細工職人)がシルバーに出合い、1900年代初頭にターコイズを組み合わせたという説を基に展開していく。

ナバホ族は、16世紀末から17世紀に掛けて、スペイン軍との交易を経て、鉄や銀に関する技術を学び、移動手段の馬や羊毛で織るラグのノウハウなどを手に入れた。ゴールドラッシュに湧く西部開拓時代にはアメリカ軍とナバホ族が激突。悲劇として今も語り継がれるロングウォークを経て、1868年に現在のリザベーション(インディアン居留区)へ移り住んだ。

ここで銀の技術を上達させ、馬蹄などの鉄製品を作っていた一部のブラックスミス(鍛冶職人)が、シルバースミスへと変わっていく。当初は銀貨を叩いたボタンやスプーン、弓の弦から手首を守るボウガードなどの日用品が中心。そして1880年代にスレンダー・メーカー・オブ・シルバーとアツィディ・ジョンというナバホ族の職人がインディアンジュエリーを作り始めた。

スプーンなどの実用品が中心だった。

こちらはナバホ族の作ったスプーンにフォーカスした洋書。このようにシルバー製のスプーンには、ジュエリー同様のスタンプワークなどが施されている。銀細工の技術は、生活に必要な日用品を作るのに欠かせなかった。

そして自身を鼓舞する装飾品へ変わっていく。

1880年代に生まれたターコイズとシルバージュエリーを組み合わせた造形は、しばらくの間ナバホ族の専売特許だった。旧くから神の贈り物だと崇められていたターコイズの付いたジュエリーは儀式でも使われた。

【豆知識】当初はタガネではなく釘などで柄を形成した。

黎明期は、釘などでパターンを刻むエングレービングという手法が使われた。後にスタンプワークへ発展していく。これは現代のトップアーティストであるマッキー・プラテロのバングルで氏が得意とする。

▼実際のナバホ族のインディアンジュエリーはこちらの記事で紹介しているので合わせて読んでみてほしい。

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2023年02月17日

【1920年代~】鉄道が通ったことで居留区が観光地となった。コマーシャルジュエリーが台頭。

1869年に初となる大陸横断鉄道が開通し、その後インフラが進んでいく。ネイティブアメリカンたちの居留区にも鉄道が通り、物流と旅客で経済が発展。白人が経営するトレーディングポストと呼ばれる交易所ができたのも、この頃から。そこへインディアンジュエリーやラグなどを持ち込み、現金や日用品と交換するようになる。

そしてリザベーション(インディアン居留区)が観光地になると睨んで、いち早く仕掛けたのが、英国からの移民であったフレッド・ハービー氏。西海岸とシカゴを結ぶサンタフェ鉄道の食堂車を皮切りに、次々とホテルやレストランをオープン。簡素に作った大量生産のインディアンジュエリーなどをスーベニアとして販売するなど、後に『フレッド・ハービースタイル』と呼ばれるコマーシャルジュエリーを作り上げた。

特に1920年代から’40年代頃まで盛り上がり、多くの観光客が購入。それまで部族内の装飾品だったインディアンジュエリーを大衆化させた功績は非常に大きい。

コマーシャルジュエリーはフレッド・ハービーが草分け。

『チーフ号』などの豪華旅客列車を擁したサンタフェ鉄道とともに、リザベーションを観光地として活性させたフレッド・ハービー社。インディアンジュエリーをお土産として最初に展開した。

こちらはフレッド・ハービー社がお土産として売っていたポストカード。インディアンジュエリー以外にも、ネイティブアメリカンたちの工芸品を多く取り扱っていた

こちらはフレッド・ハービースタイルと呼ばれるコマーシャルジュエリーに特化した近年の写真集。アメリカにも多くのコレクターがおり、ここ数年でその価値が高まっている

こちらはニューヨークにあったアローノベルティという会社のカタログ。フレッド・ハービー社の成功を見て、様々な会社がインディアンジュエリーをお土産として扱った

お土産品のためわかりやすいモチーフが中心だった。

東海岸から来る旅行客にとって、大自然の中にあるインディアンカントリーの風景やそこで暮らす人々の生活様式は実に新鮮だった。ネイティブアメリカン独自の文化を象徴するわかりやすいモチーフを使ったインディアンジュエリーは、観光客にとって格好の土産品となった。

(右上)スワスティカは、LOVEなどの4つのLを組み合わせたネイティブアメリカンたちのシンボル。 だが、第二次世界大戦時を機に使われなくなった (右下)スネークはチャレンジを意味する。稲妻と組み合わせることも多い (左上)アローは1本だとプロテクション。こちらのようにクロスすると友好を意味する (左下)サンダーバードは、昔から崇められ、幸福を運んでくると言われる伝説の鳥

かなり珍しいフレッド・ハー ビー社のタグが付いたチマヨ織りのジャケット。特に生産を担当した会社は明記されていないが、ニューメキシコ州のチマヨ村製と思われる

革をエングレービングした椅子のトップ。裏にはフレッド・ハービー社の刻印と父親に送った手描きのメッセージが書いてある
センターにターコイズが入り、両サイドにスワスティカというグッドデザイン。(ラリースミス TEL03-5794-3755)
ナバホの伝統的なスタンプワークが施された太めのバングル。手作業と機械でのプレスが混ざる。(ラリースミス)

【豆知識】インディアンメイドと呼ばれているハンドメイドの逸品。

当時のヴィンテージ=フレッド・ハービースタイルではない。この手のアクセは大量生産を目的としていたため、機械でのプレスも多い。ヴィンテージの中にも、当時のシルバースミスがすべて手作業で作ったアーカイブももちろんある。参考商品(ラリースミス)

立体的に見えるように裏から打ち出すなど、 随所に細かな技術が活きている。スタンプも機械でなく、手作業で行っている
この記事を書いた人
サカサモト
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サカサモト

アメカジ系動画ディレクター

Lightning、2nd、CLUTCH Magazineの公式YouTubeチャンネル「CLUTCHMAN TV」のディレクター。元Lightning副編集長ということもあり、クルマ、バイク、ミリタリーなど幅広い分野に精通。現在はもっぱら動画作成機材に夢中。ニックネームは、スキンヘッドにヒゲ面をいう「逆さ絵」のような顔に由来する。
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