ワンダーボーイ、マイケル・オーウェンの衝撃

竹部:シアター・オブ・ドリームですからね。自分も最初にオールド・トラッフォードに行ったときは感動したな。ここ10年くらいでプレミアリーグのクラブはどんどん新しいスタジアムになっているけど、オールド・トラッフォードとアンフィールドはずっとこのままでいてほしい。ところで半澤さんはいつからリバプールサポなの?
半澤:98年からなんですよ。
竹部:フランス・ワールドカップの年だ。
半澤:その通りです。あの大会のイングランド対アルゼンチン戦でマイケル・オーウェンを見てからなんです。
竹部:そうなんだ。あの試合は忘れられないよ。
半澤:最高ですよね。
竹部:最高というか……。あれでオーウェンがスターになって、ベッカムがヒールになった。ユナイテッドサポとしては複雑、いや悲しい気持ちになった試合でした。
半澤:辛い試合でしたけど。あんなドラマチックなゲームはないですよ。
竹部:生で見ていたけどね。NHKで解説が宮沢ミッシェルだった。
半澤:ぼくは中学生だったので、リアタイで見た記憶はなくて、ハイライトで見たんです。あの試合でプレミアリーグへの熱が上がりまして。
竹部:その少し前からスカパーでプレミアリーグの放送が始まるんですよ。最初の頃は試験的に現地映像と音声をそのまま放送していて、日本語の実況と解説はなかった。
半澤:そうだったんですね。
竹部:少したってから日本人の解説と実況が入るようになったんだけど、それも東本貢司さんという人が一人でやっていた。東本さん一日に何試合も掛け持ちしていて。それを見てプレミアに詳しくなっていったから、ぼくの基礎は東本さんなんですよ。98年の年末に一日丸々オーウェンの特集をやった記憶がある。あの頃のオーウェンはアイドル的人気があった。
半澤:ワンダーボーイでしたよね。
竹部:思い出しだけど、オリコンにいたときに音楽業界誌で日韓ワールドカップの特集をやったの。無理やり(笑)。そこで東本さんに話を聞いたり、当時の日本サッカー協会の会長だった岡野俊一郎さんにインタビューしたんですよ。忘れられないな。
半澤:日韓の2002年は、ぼくは予備校生だったんですけど、そこの先生がサッカー好きで、スカパーで放送したプレミアの試合のビデオを毎週ぼくに貸してくれたんです。それも大きかったです。
竹部:リバプールの試合を?
半澤:はい。高校のときからサッカーゲームではリバプールしか使っていなかったんですが、それで完全にリバプールサポになりました。
竹部:ぼくも本来であればリバプールサポになるのが妥当だったわけで。半澤さんともリバプール話で盛り上がれたはずなのに……。
半澤:ぼくはほかのクラブの試合も結構見ますよ。ユナイテッドもアーセナルも、今だとやはり三苫もいますしブライトンですかね。ライバルだから敵視するのは当然なんですが、イングランド・フットボールが好きなんです。
竹部:その気持ちはわかる。自分も最初の頃はできるだけ試合を観ていたからプレミアリーグ全体が好きだった。コベントリーシティとかリーズとかシェフィールド・ウェンズデイとかダービーカウンティとか。現地に行ったら普通にアーセナル、チェルシー、スパーズの試合を観に行っていたし。イングランド代表が好きだったんですよ。あの頃のイングランド代表はユナイテッドを中心としたプレミア・オールスターだったから。
半澤:ベッカム、オーウェン、ランパード、ジェラード……。だからぼくはプレミアリーグに嫌いなクラブはないんです。ユナイテッドがELを取れなかったとしても「ざまぁみろ」みたいな気持ちにはならないんですよ。
竹部:素晴らしい。サポーターの鏡だね。自分はもうユナイテッドしか追いかけてないけど、半澤さんの言葉を聞いて、原点を思い出した気がする。プレミア全般が好きなんだって。先程の話の続きになるけど、自分がプレミアのファンになった頃って、簡単に試合が見られなかったんですよ。今では普通に全試合見られるけど、大昔はNHKBSでたまにやるくらい。ネットがないから週末の試合結果も月曜日のスポーツ新聞に小さく載った記事を見て確認するだけ。それに一喜一憂していたの。それで、しばらくしてから外苑前にあったBESTっていうサッカーショップでわりと最新の試合映像を流してくれるってことを知って、それを見にわざわざ行っていた。小さいモニターで白っぽい画質の、いかにもイングランドって映像を。そういう苦労して観ていた時代を知っているのは大きいかな。
半澤:竹部さんがはまったきっかけはなんなんですか。

竹部:96年のユーロ。イングランド大会でイングランド対スコットランドっていうのがあったの。それをWOWOWで見たんだ。その前から少しずつイギリスのサッカーが気になっていたんだけど、この試合のガスコインが決定打だった。ガスコインの芸術的なシュートというのがあったわけだけど、あとはイングランドの選手のカッコよさ、ユニフォームのオシャレさ、芝の鮮やかさ、場内の雰囲気とか。画面上で見ているだけなのに圧倒されてしまって。あと、この大会のテーマ曲でライトニング・シーズが「3ライオンズ」って曲があって、この曲も素晴らしくて。この曲の刷り込みもかなり大きいな。ブリット・ポップの時代で、オアシスもブラーもサッカーユニを着ていたりしていて、ロックファンとプレミアファンがリンクした時代でもあったんですよ。
半澤:そうなんですね。96年だったら、Jリーグが始まって3年ですよね。
竹部:でもJには興味なかったんですよ。見てはいたけど、はまりはしなかった。そのあとにワールドカップのアメリカ大会があって、それはアイルランド代表を応援した。イングランドが出られなかったんで……。
半澤:アメリカ大会ってことは、その前の年がドーハの悲劇なわけですよね。世の中的にはあそこがひとつのピークじゃないですか。
竹部:普通にテレビで観たけど、サッカーファンじゃないから。そもそもの話をすると、自分はビートルズが好きでイギリスに興味があって、91年から頻繁に行くようになるわけだけど、そこでイギリス人って何が楽しんだろう?って考えたの。そのときにふとサッカーじゃないかって思ったのが始まり。それで、96年のユーロの後の年末に実際にプレミアを現地で見たわけですよ。ハイバリーでのアーセナル対ミドルズブラ。これがカルチャーショックで。ベンゲルが監督に就任してすぐの試合だったと思う。
半澤:そうなんですね。
竹部:サッカースタジアムの盛り上がりにロックコンサートと同じもの、いやそれ以上の感激があったんだよね。
半澤:それはわかります。
竹部:自分も最初はリバプールサポになるんだろうなと思ってはいた。ファウラーとかマクマナマンとかレドナップとか、いい選手がいたし。ところが、98/99のユナイテッドの奇跡のトレブルを観るわけです。とくにFAでのアーセナル戦とCLのファイナル、漫画みたいな試合ですよ。それに感激してユナイテッドに忠誠を誓うことになるんです。
半澤:それは仕方ないというか。そりゃそうですよね。
竹部:その頃、半澤さんはリバプールサポになっていたというのがおもしろい。02年の日韓はどうでした?
半澤:もちろん見ていました。イングランド戦は行なかったんですけど。日本対トルコを見ているんですよ。
竹部:仙台の?
半澤:そうです。当時仙台の予備校に通っていたんですが、一緒に通っていた高校の頃からの友達からスポンサー枠の招待があるから行かないかって誘われて。H組の1位とC組の2位という試合だったんですが、まさかそれが日本戦になるとは思ってもいなくて。
竹部:日本が1位通過するとはね。
半澤:トルコ戦は日本が負けた試合なんですけどね。スポンサー枠だからすごくいい席で観ました。

竹部:それは貴重な経験。日韓には自分も思い出があるな。イングランド戦が見たくて、チケットもないのに埼玉スタジアムまで行ったんですよ。会社の隣の席の人と一緒に。イングランド代表が日本で本気で試合をすることは二度とないと思ったのでどうしても観たかった。
半澤:おっしゃる通りで。スウェーデン戦ですよね。
竹部:早めに出たので、もう10時か11時ぐらいに駅に着いたと思う。改札を抜けたらイギリス人がこっち寄ってきて、いきなり「チケット持ってんのか?」って。「ないですよ」って言うと「2枚あるから」って。そこで交渉して譲ってもらったの。友達とは5万円まで出そうと言っていたのね。でも、先方は1枚8万だって。念のためにと思ってぼくは少し多めに持っていていたの。で、あとで返してもらうということで、8万円で交渉成立させて。何度も、これは本物なのかって念を押してね。あとで新聞に書いてあったのを読んだけど、試合直前はそれ以上の高額で取引されていたらしい。そうしたら、そのチケットが連番じゃないのよ。
半澤:確認せずに買ったんですか。
竹部:わかっていたんだけどね。で、おれのほうが多めに出していたから、「どちらかチケットを選んでいいですよ」って同行者に言われて、選んだチケットがスウェーデンのサポーターの真ん中だった(笑)。で、そいつはイングランドの席だったの。せっかく着ていったイングランド代表のTシャツを着替えて。でも、席は良くて、コーナーキックの横だったの。イングランドの得点はベッカムのコーナーからキャンベルのヘディングで入れたんだけど、目の前だったんだ。感動したよね。
半澤:結果ラッキーですね。ぼくもあの大会でいちばん見たかった試合はイングランド対スウェーデンでした。

関連する記事
-
- 2025.10.21
あのパタゴニアが!? と衝撃を受けた別注品。