時空を超え、時代を変える矢沢永吉のR&R、150回目の武道館公演レポート

2023年12月14日、矢沢永吉が日本武道館で記念すべき150回目の公演を行った。1966年6月30日のビートルズ以降、数多くのアーティストがその舞台に立ち、語り草となる名演を行ってきたが、日本武道館に刻まれた約60年の歴史や伝説も矢沢永吉の前では霞んでしまう。まさに前人未踏。そして今後も、この数字を超えるアーティストが出てくることはないだろう。

1977年に行われた最初の日本武道館公演

矢沢永吉、武道館公演の1回目は今から46年前の1977年のことだという。77年といえば、野球界では王貞治がベーブルースのホームラン記録を抜き、芸能界ではキャンディーズが突然の解散宣言で世間を驚かせ、横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された年。雑誌『昭和40年男』的なトピックとしては、なんといってもスーパーカーブームである。昭和42年生まれの筆者はちょうど10歳、興味の主な対象は例外なくスーパーカーである、ほかには漫画『ドカベン』や『がきデカ』、テレビではピンク・レディーやジュリーに夢中であった。ロックへの目覚めはまだ。そう、翌年の矢沢永吉「時間よ止まれ」まで待たなければならない。

今振り返れば、我々世代にとって「時間よ止まれ」こそ、ロックに目覚める第一歩である。もし、あのタイミングでテレビからこの曲が流れてこなければ、矢沢永吉に気づくことはもう少し後になっていただろうし、当然のこと、ソロ以前のキャロルを知るのも遅くなっていたはずだ。昭和40年代前半に生まれた世代にとっての「時間よ止まれ」はとても重要で、この曲によって独特のロック観を植え付けられたことは間違いない。

1977年8月、最初の日本武道館公演

第一回目が77年ということを聞いて、そんなことに思いをはせながら12月14日、日本武道館で「Welcome to Rock’n’Roll」のアニバーサリー公演を体験することができた。なんという幸運。まず驚いたのはこの日の開演時間、なんと17時。平日では異例の時間設定といえるが、会場周辺は早くから黒山の人だかり(上下の白いスーツ率が高い)で、大いに盛り上がる。仕事なんかしている場合ではない。一見してファン歴半世紀という筋金入りのファンばかりのなか、圧倒されながら開場後に武道館の中に入ると、早くもアリーナとスタンドの各所から熱い永ちゃんコールが飛び交う。これほどまでにファンから熱狂的に愛されるアーティストは矢沢永吉においてほかにいない。

そして定刻17時にライブがスタート。1曲目の「さまよい」のイントロが流れ、永ちゃんがステージに登場すると、場内のボルテージが最高潮。それに応えるように、冒頭からスタンドマイクを振り回し、エンジン全開だ。張り、つや、凄みを感じさせるボーカルはとても74歳という年齢を感じさせない。ぐいぐい、観客の心の中に入っていく。曲が終わり、第一声は「たまんねえよ、たまんねえよ!150回ライブ、ようこそ皆さんいらっしゃい!」という矢沢節、会場は興奮のるつぼと化した。

©HIRO KIMURA

「Welcome to Rock’n’Roll」というツアータイトルの通り、この日のセットリストは矢沢永吉の真骨頂であるロックンロールを主としているが(演奏後にシャウトする「ロックンロール!」というフレーズが最高にかっこいい)、直線的な曲だけではなく、時折メロウなバラードやミディアムテンポのAOR風味の曲も交えて構成しているところが、矢沢永吉の魅力の奥深さ、多面的で幅広い音楽性を感じさせる。

さらに驚くのは、その曲が70年代から2000年代までの、多岐に及んでいることだ。キャリアの始まりであるキャロルから50年、90年代の曲でさえすでに30年もの年月が経っているのに、2023年のサウンドで演奏されているため、完全に時代を超えたものになっており、懐メロ感が一切ない。もちろんそれはボーカル力によるところが大きいのだが、74歳の今もなお、エネルギッシュに疾走を続けている現役のロックンローラー、矢沢永吉ここにありが、存分に伝わってきた。

昭和40年男とワーナー時代の矢沢永吉

いろいろな楽しみ方ができるセットリストの中で、筆者が惹かれたのは、80年代前半のワーナー時代の曲である。ソニーからワーナーへ移籍、そこからアメリカのワーナーと契約して世界進出を実現させるため、西海岸を意識した曲が多くなり、激しいロックンロールからメロウでアーバンなサウンドへ、そして英語歌詞が増えた流れをリアルタイムで見てきた身としては、この時期への思い入れは強く、それゆえ「ROCK ME TONIGHT」「ROCKIN‘ MY HEART」「WITHOUT YOU」を生で聞けたことに、心底感激した。「ROCKIN‘ MY HEART」のコーラス部分は、当時のパイオニアのCMとセットで思い出す。

冒頭で記したように、筆者が矢沢永吉を知ったのは78年の「時間よとまれ」で、以後、音楽的、人間的魅力に惹かれ、新曲リリース、ツアー情報、たまのテレビ出演、雑誌インタビューなどをチェックしながら、自分の成長とともにずっと矢沢永吉の動向を追ってきたわけだが、恥ずかしい話、今に至るまで一度もコンサートを見たことがなかった。ライブ映像は見ても、生で見る機会はなかった。自分なんかがファンを名乗ってもいいのか、ライブに行ってもいいのかと気おくれしたまま時間が過ぎてしまった。

そんな自分ではあるが、一度だけ矢沢永吉本人にインタビューをしたことがある。それは2006年のこと。『YOUR SONGS』をリリースした際のプロモーションで1時間ほど時間をもらい、当時勤めていた雑誌のページ用に1対1で話をすることができた。

今思えば、あれは現実だったのか、夢ではなかったのか。そのときのことを思い出すだけで身体が震えてきてしまうが、そのなかで、「自分は中学生の時(80年代前半)、不良でもなく、スポーツが得意なわけでもなく、平凡でさえない人間でしたが、矢沢さんの音楽が大好きでした」と言うと、矢沢永吉は「いいこと言ってくれるじゃない? それをいろんなところで言ってよ!」と言って、筆者のひざをポーンとたたいたのだ。続けて「自分は矢沢さんの何に惹かれたのか、というとそれは曲の良さなんです」と言うと、すごく喜んでくれて「俺は元来メロディメイカーなんだ」ということを強調していたことを思い出す。そう。矢沢永吉の音楽は単なるロックンロールではないのだ。ということを、このライブでもあらためて感じることができた。

生まれ変わっても自分は矢沢永吉をやります。

話はライブに戻って、アンコールは「止まらないHa~Ha」「トラベリン・バス」と続く。日本のロック史に残るスタンダードが披露されるタイミングで客席全体にも照明が入り、タオルが一斉宙を舞う。「ルイジアナ! テネシー!!」というシャウトで会場は最高潮に。自分の身体の中の血液温度が上昇していくのがわかる。生きていてよかった。大げさだが、そんな気持ちにもなった。

17年前、インタビューのあと、思わず握手をお願いして「これで寿命が延びた気がします」と言って矢沢さんを笑わせたが、聖地・武道館で行われる聖なる儀式を生で見て、ロックンロールの至福を全身で浴びて、また同じようなことを思った。矢沢永吉にとっては、150回もまだまだ通過点に過ぎないような気がする。ライブ中のMCの中で言った。「生まれ変わっても自分は矢沢永吉をやると思います」。矢沢永吉は永遠である。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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