2ページ目 - アメトラをつくった巨人たち。「ハンドルーム」代表・藤澤緑朗さんの激動の業界遍歴を紹介しよう

セレクトショップ黄金期のただ中で

先述した重松さんらが新設した「ユナイテッドアローズ」では、当時パリに拠点を置いていたセレクトショップ「マリナ・ド・ブルボン」の日本上陸プロジェクトに参画。

「原宿には旗艦店も構え、パリの本店同様に服だけでなくライフスタイル提案まで含んだ革新的な店舗を計画しました。『リモージュ』の食器や雑貨等々、上質な輸入商品を中心とした独自のセレクトや提案は、とても新鮮で、瞬く間に注目の店舗となりました。栗野さん(ユナイテッドアローズ)たちと一緒に日本企画のオリジナル商品も考え、素材も縫製も妥協しない服を展開していきました」。

1990年代、セレクトショップが全国的に台頭していく流れのなか、藤澤さんもその中心に身を置いた。「マリナ・ド・ブルボン」は、セレクトショップという体裁ではありながら、その域を超えて「オリジナル商品を数多く展開する」スタイルのパイオニアであったと言えよう。

一方、1996年には“もし今でも「VAN」があったなら”という裏テーマを掲げたオリジナルブランド「タブロイドニュース」を設立。ワークやミリタリーをベースに時代のトレンドを適度に取り入れたアイテムは、ユナイテッドアローズをはじめ全国の有力ショップに受け入れられた。「“進化するデイリーウエア”をつくりたい、その思いが強かった」。

直営店を構え、設立10年を経て年商5億を超える規模へと成長するが、次第に違和感が芽生えたという。

「これが本当に自分たちがやりたかったことなのだろうか、そう思う瞬間が増えていきました。人も増え、数字に追われるなかで、やりたいことを見失っていったんです」。

90年代、個性派セレクトショップの台頭

すべて「マリナ・ド・ブルボン」製。写真右は、60年代の「ペンドルトン」のジャケットをベースに、生地を別注して製作。当時の通称は「ローファージャケット」。写真左上は、タスマニアウールを使ったイタリア製「カルピーニ」の生地、牛革グローブ紐、水牛のトグルと上質な素材を採用。写真左下は、製作を本格的なオーダーシャツを手がけていた工場に依頼したプリントシャツ。

「オールデン」がラコタを代理店に、日本に初上陸した第1回目の展示会の写真。中央には現・血脇孝昌会長と現・血脇弾社長。「マリナ・ド・ブルボン」名義でダブルネームを製作した実績もある

ハンドルーム誕生と“普段着の贅沢”

そんな思いのもと、2006年に「タブロイドニュース」を離れ、再びエブリマンとして新たな道を再開。

「再始動にあたって挨拶を、とTUBEの齋藤さんの元を訪ねてみたら、『ちょうどユナイテッドアローズの新規事業を立案しているので、一緒にやらないか』とお声がけいただき、その流れで『ビューティ&ユース』商品部の非常勤アドバイザーを一年半ほど勤めさせていただきました。売り場を基本にした商品開発や分析とシステムは、今まで経験のないことの連続。自身の新ブランドを立ち上げることも考えてはいましたが、一旦見送り、勉強も兼ねてコンサルタントに徹することにしました。

また、その後にはアウトドア輸入代理店の「A&F」のコンサルトをしていた方から商品開発アドバイザーの仲介をしていただき、『ペンドルトン』や『カブー』など、ライセンスメイクの商品開発をお手伝いさせていただいた時期もありました。『エーボンハウス』時代の先輩から、『マンシングウエア』のメンズデザインを任されたり、とにかくたくさんの経験を積ませていただきましたね」。

そうして、数多くのコンサルタントやODM事業を手がけながら、次第に自身のブランド構想が膨らんでいった。

「他社の依頼でパターンをひいていると、どうしても『自分ならこうするのに』『自分なら〇〇さんに頼むのに』という思いが湧いてくる。生地も縫製仕様もパターンも、勝手にアイデアが出てくるんです。それが大体2014年ぐらいのことでしたね」。

そして2016年春夏、「ハンドルーム」を正式にリリース。セルビッジデニムやスーピマオックスのBDシャツは、発売以来9年間、同じ生地と同じ工場で作り続ける徹底ぶりだ。

「トレンドに左右されない、でも決して古びない。そういう服を提案したいんです」

「エブリマン」設立から35周年を迎えながらも、新たな展望を今なお模索し続けている。

「ファッションは変わり続けるもの。でも、僕らがやりたいのは日々をともにする服。派手さはなくても、袖を通したときの心地よさや誠実さを感じてもらえれば嬉しいですね」。

混沌のなかで原点に立ち返るべく立ち上げたブランド

「タブロイドニュース」より、ハンティングジャケットは、40年代製の個体を参考にピボットスリーブやゲームポケットを取り入れつつ、日常着として作られたブランドらしい1着。デニムジャケットもヴィンテージのクオリティで、モダンかつスタイリッシュな仕上がりを心がけていたそう。

「ハンドルーム」が目指すは上質なデイリーウエア

「ハンドルーム」が目指すは「上質なデイリーウエア」。なかでも約10年続く定番は、BDシャツとデニムパンツ。BDシャツはスーピマ綿を使って福島県で製作。見事なステッチワークが光るデニムパンツは広島のスペシャリストと開発し、岡山の縫製工場で仕上げている。BDシャツ2万2000円、中に着たTシャツ1万2100円、パンツ3万1900円(バウ インクTEL070-9199-0913)

上で紹介しているデニムパンツと同商品で、藤澤さんが実際に穿き込んだもの。50年代製ヴィンテージデニムの色落ちや風合いを再現している。作りの良さが伝わるあまりにも美しい佇まい。

本江MEMO

「ぼくは1988年、藤澤先輩は1990年、ほぼ同じ時期に独立してからも、当時と変わらず、いろいろとお付き合いをさせていただいています。震災やらコロナやら数々の想定外の事態を乗り越えて、気がつくと「あと3年くらいで引退するから」と、すでに準備を始めていると聞きました。ぼくは粛々と恵比寿でチノパン屋をできるだけ続けるつもりですが、藤澤先輩には80年代に起こったニュートラの復権をお願いしたい。あの時代の、あの空気感を踏まえたうえでの新しいトラッド、真の“ニュートラ”を!」

当時、「エーボンハウス」のレディス版「TASTE」を筆頭に、トラッド系各社がシャキッとしたニュートラッドを展開していました。これだけ本誌で啓蒙しているのに、ウチへ来る2ndくんカップルはな~んかチグハグに見えてしまう。

(出典/「2nd 2025年12月号 Vol.215」)

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