トラッドの定義そのものを拡張する選び抜かれた黒単色|INDIVIDUALIZED SHIRTS/BD SHIRT

アメリカントラッドの文脈において「黒」は長らく異端視されてきた。ドレスならネイビーやチャコール、シャツなら白やサックスが定番であり、黒は敬遠されがちだったのである。そんな固定観念に挑むのが1961年創業のカスタムシャツメーカー「インディビジュアライズドシャツ」の本作だ。
創業以来、一貫して米国内生産を守り、「ブルックスブラザーズ」の顧客層向けにカスタムシャツを供給してきたという確かな実績のもと、コントラクションヨークや細巻き縫いなど高度なステッチワークを今日まで継承している。その中でも黒単色の本作は極めて稀少で、伝統的なマナーから逸脱しながらも、あえて日常に馴染みにくい色を選ぶことでトラッドの枠を拡張している。素材は滑らかなコットンポプリンで、フラットな表情にモード的な鋭さと均整を兼ね備える。価格は3万9600円(ユーソニアングッズストア TEL03‒5410‒1776)
本来なら異端に映るその選択も、デイリーユースなら最適解|SIERRA DESIGNS/ORIGINAL MOUNTAIN PARKA

いわゆるロクヨンクロスの元祖にして、時代を超え愛されるマウンテンパーカの誕生は1968年のこと。オンオフを自在に行き来できるユーティリティアウターとしてデビューし、60年が経った今日でも名品のひとつに数えられている。シェルは天然繊維と化学繊維の掛け合わせて織られた伝統のロクヨンクロス。コットン由来の優しい肌触りと、ナイロン由来の撥水性を兼ね揃えた革新的な試みは、その後もブラッシュアップされ続け、本作ではインビスタ社製コーデュラナイロンを縦糸に採用することで、従来品と比べ、より引張強度に優れた設えとなっている。
雨や風の侵入を防ぐ各所の巻縫いやクラシックな4ポケット、3枚剥ぎの立体フード、ラグランスリーブ由来の優れた運動性など、基本的なファンクションはもちろん健在ながら、あえての“黒”チョイスで空気が一変する。視認性を高めるために色鮮やかに進化していったアウトドアの文脈では異端に映るその選択も、都市ではシャープな印象を加え、カジュアルからビジネスシーンまで守備範囲も広がることだろう。4万9500円(アリガインターナショナル TEL03‒6659‒4126)
日常と非日常を自在に行き来する名門ならではの新提案|L.L.Bean/Bean Boots 6.5″ Chelsea & BOAT AND TOTE

「エル・エル・ビーン」といえば、生成りの[ボート・アンド・トート]やブラウン×タンの[ビーン・ブーツ]を思い浮かべる人も多いだろう。1912年、創業者レオン・レオンウッド・ビーンの個人経営から始まり、アウトドアの楽しさや過酷さを支えるギアを作り続けてきた同ブランド。そんな長い歴史と哲学を継承しながらも、あえて定番を黒で染めた2アイテムが登場した。
武骨さやクラシックさを象徴する従来の定番カラーに対して都会的な洗練を強調し、デイリーユースから本格的なフィールドまで無理なく馴染みつつ落ち着いた印象さえ漂わせ、アウトドア由来のファンクションに意外性ある黒を纏わせることで日常と非日常を自在に行き来する新たなスタイルを静かに提案する存在となっている。トートバッグ1万1000円、ブーツ3万9600円(エル・エル・ビーンカスタマーサービスセンター TEL0422‒79‒9131)
道具としてのアウターから、都市のファッションピースへ|MACKINTOSH/HUMBIE

1823年に世界初の防水布「マッキントッシュクロス」を生み出したスコットランドの化学者チャールズ・マッキントッシュの革新から200年を経て、彼の名を冠したブランドは英国を代表するアウターブランドとして君臨。もともとレディースコートとして誕生し入荷前に予約完売を繰り返すほどの熱狂的人気を獲得した本モデルは、やがてメンズがサイズアップして着こなす文化が広まり2023年には正式にメンズモデルとしてラインナップした新たな名作。
ステンカラーを基調にした膝上丈のショートコートはオーバーサイズのドロップショルダーとワイドシルエットでモダンなムードを醸し出す。さらに“黒”を選ぶことでショート丈の軽やかさが功を奏し、スーツにもデニムにも映える万能性を備えた。道具としてのアウターから都市のファッションピースへと進化を鮮やかに体現する存在となっている。15万9500円(マッキントッシュ 六本木ヒルズ店 TEL03‒5843‒1580)
ヴィンテージに存在しない、黒×黒という選択|Rocky Mountain Featherbed/CHRISTY VEST

カウボーイステイツとも呼ばれるアメリカ・ワイオミング州で、60年代後半に誕生。アウトドアに必要不可欠な機能性と、同地に根付いたカウボーイカルチャー由来の装飾性を融合させたブランドだ。アイコニックなウエスタンヨークを最大の特徴とし、一時は姿を消したが、世界中から集めた膨大なアーカイブを徹底解析することで見事に復活を遂げた。
ダウンウエアに求められる通気性と耐久性を兼ね備えた70デニールのオリジナルナイロンタフタや、ダブルニードルで留められたスナップボタンなど、すべてを忠実に再現。中でも、接ぎ目のない一枚革のレザーヨークを備えた本作は、創業者のパートナーの名を冠したブランドの代表作だ。
ブラウンやタンが主流の中、ヴィンテージでは確認されていないブラックレザー×ブラックナイロンの組み合わせは圧倒的な人気を誇る。ミニマルで都会的な洗練を纏いながらも、旧きよきカウボーイの魂を宿す特別な一着として、世界中で愛され続けている。8万4700円(アール柳橋 TEL080‒7024‒4090)
黒が引き出す、英国名門の気品と機能美|Barbour/BEDALE

1894年、イギリス北東部の港町サウスシールズで創業した「バブアー」は、漁師や港湾労働者を冷たい雨風から守るワックスコットンジャケットの供給を起点に発展した。やがて王侯貴族のカントリースポーツに愛され、王室御用達ブランドとして格式を築き上げていく。1980年に誕生した乗馬用の[ビデイル]はその象徴的存在であり、ラグランスリーブやダブルジップ、チンストラップ付きのコーデュロイ襟といった機能的なディテールを備える実用着であった。現在は、街着として幅広い世代から絶大な人気を誇る。
本作[OS ビデイル]は、ゆとりあるシルエットへと進化した現代的なモデル。袖口を折り返すことで覗くタータンチェック裏地がアクセントとなる。堅牢で光沢を抑えた6オンスのワックスコットンを採用、艶を控えた黒がブランドの気品を象徴するような、一層シックで洗練された佇まいを演出する。伝統と機能美を兼ね備えた不朽の名作だ。6万8200円(バブアー パートナーズ ジャパン TEL03‒6380‒9170)
かしこまった肩書きからあえて逸脱し、現代の都市生活にフォーカス|BARACUTA/G9

ハリントンジャケットの代名詞[G9]。1937年、英国マンチェスターで誕生し、スティーブ・マックイーンやジェームズ・ディーンといった時代の寵児たちが愛用したことで、瞬く間にスタイルシンボルとなった。ライニングのフレーザータータン、ラグランスリーブ、アンブレラカットなど、象徴的なディテールの数々もまた、このモデルを不動の存在へと押し上げた。
とはいえ、ここで注目したいのは“黒”だ。英国発祥の気品とアメカジ由来の軽快さを併せ持つ本モデルが、黒に染まることで意外性という化学反応を起こし、モダンな印象へと変貌を遂げる。ライニングも、黒の外装によって一層際立ち、内外のコントラストが美しく強調される。
英国の職人技が宿るオーセンティックな一着が、黒を纏うことで放つ新鮮さ。歴史的定番という肩書きに甘んじることなく、現代の都市生活にフィットするライトアウターへと進化した。その答えのひとつが、“黒”という選択肢なのだ。5万9400円(伊勢丹新宿店 TEL03‒3352‒1111)
単なる小物ではなく、スタイルの核となる一本|BENTLEY CRAVATS/KNIT TIE

今日もなお、裁断以外のすべての工程をハンドメイドで行う伝統を守り、世界各国の一流メゾンのOEMでも知られる「ベントレー クラバッツ」は、1956年にニューヨークで創業した知る人ぞ知る名門。その代表作ともいえるのが、シンプルながらも品格を備えたシルクのニットタイである。幅6㎝という汎用性の高いサイジングにより、ドレスからカジュアルダウンまで自在に対応。モノトーンの装いに合わせれば、圧倒的な引き締め効果を発揮する。
表面にはニット特有の柔らかな質感と程よい光沢があり、クラシックな佇まいにさりげない華やぎを添えてくれる。丁寧な縫製と老舗ならではの精緻な仕事が、日常の一本を確かな存在感へと昇華させるのだ。ここでも、無難な色ではなく、装いに強度を与える“黒”をあえて推したい。ブランドが積み重ねてきた伝統と、黒が持つ普遍的な力。そのふたつが共鳴したとき、単なる小物ではなく、スタイルの核となる逸品へと変わる。もちろん、急な冠婚葬祭にも対応できる汎用性の高さも記しておきたい。1万5730円(メイン TEL03‒32
64‒3738)
フィールド由来の普遍性を現代の感覚で再定義|Eddie Bauer/SKYLINER

1936年、創業者のエディー・バウアーが自身の低体温症の体験をもとに開発した、世界初のダウンジャケットがこの[スカイライナー]だ。その歴史的背景から、本モデルにはクラシックなカーキやネイビーといったアウトドア由来の定番カラーが似合うと考える人も少なくない。だが、あえて“黒”という選択肢をとると、この名作は異なる表情を見せる。
本モデルの本質は、言わば道具としての機能美と構築的なデザインにある。ダイヤモンドキルトのステッチや短めの着丈、無駄を削ぎ落としたシルエットは、約90年前に誕生したとは思えないほど、計算し尽くされた造形美と言える。そんな造形を黒が際立たせる。光を吸い込むようなブラックは、陰影を強調し、ステッチの立体感をよりシャープに映し出す。決して奇をてらったものではなく、むしろジャケットの持つ普遍性を現代の感覚で再定義する試みでもあるのだ。4万4000円(エディー・バウアー吉祥寺店 TEL0422‒26‒5350)
王道インディゴとは異なる退色感も魅力のひとつ|LEVI’S/501®

以前本誌でもお伝えしたように、実は1903年のカタログですでに掲載されていたブラックデニム。そんなリアルワーカー御用達だったブラックデニムを、ファッションのフィールドへと押し上げたのが、1890年のデビュー以来、王座に君臨し続けるアイコンモデルの[501]だ。1980年代以降、モードやロックといったユースカルチャーとシンクロしながら着実に市民権を得ていったブラックデニムは、近年のトラッドシーンでも、王道インディゴとは異なる魅力に多くの支持が集まっている。
特に本モデルは、脇割り部にセルビッジを備えたプレミアムな仕上がり。新品ならではのシャープさを楽しむもよし、経年変化によってグレーへと褪せていく姿を愛でるもよし。一本で2度3度と表情を変える。そんな変化を楽しむのもブラックデニムならではの醍醐味だ。デニム上級者であっても、ジーンズにはまだこんな余白があったのかと気づかせてくれる一本である。1万8700円(リーバイ・ストラウス・ジャパン TEL0120‒099‒501)
(出典/「
Photo/Takuya Furusue , Norihito Suzuki Text/Takehiro Hakusui , Yu Namatame
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