渋谷の名店「G.B.ガファス」漆畑さんに聞く、メガネトレンド事情

雑誌「2nd」の特集でも取り上げたが、いまは「ダブルブリッジ」や「オーバル」など、“ナード感”のあるメガネが人気だ。そこで、渋谷の人気眼鏡店「G.B.ガファス」漆畑さんに理解を深めるべくトレンドの流れを解説してもらった。

「G.B.ガファス」プレス・漆畑博紀さん|「G.B.ガファス」、「デコラ東京」のプレスにして、両店を運営する「グラッシーズ」の常務取締役。90年代からメガネ業界に携わる。一方でファッションにも造詣が深い

メガネの流行は巡る。そしてこれから

——2025年春夏の展示会では、想像以上にダブルブリッジやオーバルを見かけました。つい最近まで、ウエリントンやボストンなどのシンプルな形が人気でしたよね?

そうですね。特に「ジュリアスタートオプティカル」の[AR]は、みなさん注目されていたように思います。ああいった形は、まだメガネがファッションとして捉えられていなかった50〜60年代ごろに多く作られていたようなデザイン。2000年代前半にジョニーデップが着用していることが話題になったのをきっかけに、業界でもこぞって「“タート”ってなんだ?」という空気になって、みんながヴィンテージを探し始めたのを覚えています(笑)。そこから現在にいたるまで、ああいったクラシックなシェイプのムーブメントが続いていたイメージですが、いまは落ち着いたというよりもすっかり定番化しましたね。

——70年代以降は、メガネトレンドはどのように推移していくのですか?

「レイバン」の大ヒットによってサングラスが先に大衆化していきました。日本でも石原裕次郎など著名人たちの着用も手伝って、一気にメジャーな存在へと駆け上がります。いま、「ダブルブリッジ」や「ティアドロップ」のメガネが注目されているのは、このサングラスを発端とする70年代の空気感の見直しがベースにあるように思います。

——80年代はまた空気が変わるんでしょうか。

80年代初頭までは、まだマスには降りていませんでした。当時は、唯一百貨店で「カールツァイス」や「マルヴィッツ」のようなドイツブランド、もしくは「アルマーニ」や「ダンヒル」のような高級ファッションブランドのアイウエアが並んでいて、買えるのは裕福な人だけでした。あとは、量販店みたいなところで、ブランド名もないような安いメガネを「視力が悪いから仕方なくかける」みたいなイメージです。ですが、その流れを変えたのが1984年に登場した日本のブランド「ルネッタバダ」。

70年代のサングラスブームを受けて、もちろんサングラスも作っていましたが、同時にメガネの提案も積極的に行っていました。それまでのようなファッションブランドが作るアイウエアでもなく、道具としてのメガネでもない、ファッション特化型のアイウエア専業ブランドが日本に登場したのはこれが初めて。「メガネ=ファッション」というイメージが一気に定着しました。一方でボストン型の上品なフレームを提案していたアメリカの「オリバーピープルズ」や、アート志向の強かった「アランミクリ」など、多様化していきます。我々「G・B・ガファス」のようなコンセプトショップができ始めたのもこのあたりです。

——「オーバル」や「スクエア」のような天地の浅いメガネはいつ登場するのでしょう。

この直後、80年代後半あたりですね。それまで主流だった天地幅のあるメガネの反動なのか、「天地の浅いメガネ」ブームが起こって、90年代に入るとそこら中オーバルだらけでした。旧くからリーディンググラスみたいなメガネはあったのですが、「天地幅が浅いって意外とお洒落かも」とみんなが一斉に思い始めるわけですね。それ以来ウエリントンもスクエアに取って代わられ、なにからなにまで天地幅が浅くなっていきました。木村拓哉がかけていた天地浅めの「アランミクリ」のブロウタイプや、裏原ブームと連動して「ステューシー」のスクエアが流行っていたのも印象的でした。2000年代に入ると、「タート オプティカル」の[アーネル]のようなボストンウエリントンの再興によって、またもや天地幅が広くなっていきます。冒頭で話したとおりです。

——まさに「トレンドは巡る」という言葉どおりですね……。今後は一体どうなっていくんでしょうか。

いま、ファッションにおいて“時代やスタイルのミックス”という言葉をよく聞きますが、メガネも同じだと思います。たとえば90年代的スクエアなのにフレームを肉厚にするとか、クラシックなボストンウエリントンをモダナイズするとか、様々な要素がミックスされていく。着用者側もメガネに対するリテラシーが上がっていますし、作り方だけでなく、かけ方ももっと自由になっていくと思います。

トレンドメガネの変遷「トレンドは50~60年代的デザインから70~90年代的デザインへと移りつつあります」

メガネのシェイプやデザインにおける流行というものは、絶えず移り変わっている。各年代を象徴するデザインを「G.B.ガファス」の商品を参考に見ていこう。

【1950s】トレンドを超えて定番になったボストンウエリントン

「ジュリアスタートオプティカル」の[AR]は、アメリカのメガネ黄金期に作られたボストンウエリントン型

【1950s】作家や政治家がかけていそうな“真面目系”ダブルブリッジ

パイロットグラスの流行を受け、ダブルブリッジが台頭。棋士の羽生善治や政治家がかけているような堅い印象

【1970s】天地幅が浅くなっていきファッション的にかけやすくなる

同じダブルブリッジでも、裕福な紳士のみが着用することを許されていたようなハイエンドなデザインも存在した

【1980s】ドイツブランドが台頭し、台形状のスクエアも人気に

「マルヴィッツ」、「カザール」などのドイツブランドも富裕層にとっては定番。天地幅のあるスクエア型が特徴

【1980s】「ルネッタバダ」登場。メガネがより広く行き渡る

84年に登場したブランド「ルネッタバダ」の斬新な提案は、メガネをファッションアイテムへと押し上げた

【1990s】天地幅はより浅くなり、オーバル人気が爆発

ウエリントンやティアドロップブームの反動か、天地幅の浅いメガネが市民権を獲得。オーバルはその筆頭だった

【2020s~】クラシックを軸に、様々な年代感をミックスしてモダナイズ

漆畑さん曰く、「今後メガネは年代もスタイルも巧みにミックスして、現代的にアップデートされていくはず」

上から4万7300円/ジュリアスタートオプティカル、5万3900円/イエローズプラス、5万3900円/イエローズプラス、5万5000円/イエローズプラス、4万9500円/ルネッタバダ、5万7200円/ルネッタバダ、5万5000円/ユウイチ トヤマ(G.B.ガファスTEL03-6427-6989)

(出典/「2nd 2025年7月号 Vol.213」)

この記事を書いた人
パピー高野
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パピー高野

断然革靴派

長崎県出身、シティーボーイに憧れ上京。編集部に入ってから服好き精神に火がつき、たまの散財が生きがいに。いろんなスタイルに挑戦したい雑食タイプで、ヨーロッパからアメリカものまで幅広く好む。家の近所にある大盛カレーショップの名を、あだ名として拝借。
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