アメリカのワークウエアを日本で作ることとは。【ジャパントラッドを担う、注目の10人】

アメリカ服の象徴にして、その時々の時代感が投影された往年のワークウエアたち。長年アメリカで活動していた「ポストオーバーオールズ」デザイナー・大淵 毅さんと、大淵さんとともに働き、2006年に帰国して独立したコロナユーティリティ」デザイナー・西 秀昭さん。アメリカのワークウエアをベースとしつつ、単なるリプロダクトではなく、いまの時代感に沿ったユーティリティウエアをクリエイトし続けるおふたりに、ジャパンメイドの特性や世界に誇る優位性を訊く。

(右)「ポストオーバーオールズ」デザイナー・大淵 毅さん|1962年生まれ。25歳で渡米し、ヴィンテージバイヤーとして活動後、1993年にブランド設立。 2019年SSシーズンより東京に拠点を移し、昨年には新しい旗艦店を中目黒にオープン (左)「コロナユーティリティ」デザイナー・西 秀昭さん|1963年生まれ。ニューヨークにてインポーターとして活動後、ポストオーバーオールズの立ち上げに参画。2006年の独立とともに帰国し、コロナユーティリティを設立

アメリカではもうできなくなってしまったことが、今の日本ではできる。

服好きにとって「アメリカ製」なるワードは、今もなお、少しだけ特別な響きがある。特に欧州テーラードの流れを汲み、独自の意匠で覇権を競い合った戦前、合理性へのシフトを余儀なくされた戦中から戦後にかけてのワークウエアは、いわゆるアメリカ服の象徴にして、その進化の過程を覗き見るための写し鏡となっている。

他方で’80年代に差し掛かると、多くの大手ブランドは、生産拠点を低賃金な中南米や東南アジアへと移し、かつて見られたアメリカらしさは徐々に後退していった。非効率ながらも魅力的だった技術やアイデアは、今や後進国の職人や最先端のAIに取って代わられ、被服産業にもロストテクノロジーの影が迫っている。

’80年代末からアメリカ東海岸を拠点にヴィンテージバイヤーとしてキャリアを重ね、’93年に〈ポストオーバーオールズ〉を旗揚げした大淵毅さんと西秀昭さんは、当初よりアメリカの生産背景から、メイドインUSAのワーク、デイリーウエアをクリエイトしてきた。

その後、西さんは独立とともに帰国し、日本の生産背景のもと〈コロナユーティリティ〉や〈ファティーグスラックス〉を立ち上げ、2018年には大淵さんも30年を過ごしたニューヨークから東京へと拠点を移し、ほぼすべてのアイテムを国内生産へとシフトしている。

黄金期のアメリカ服に精通し、かつてはアメリカ生産を続けていたおふたりが、なぜあえてジャパンメイドへと舵を切ったのかを探ることで、ひいては日本の被服産業における独自性や優位性が見えてくるのではないだろうか。そんなおぼろげな発想から対談に望んだものの、両名にとっては必然であり、最善策でもあったという。

大淵 ポストオーバーオールズを立ち上げた’93年頃になると、すでに多くのブランドが生産拠点を海外へと移していったため、アメリカ国内の生地や付属などのメーカーが続々と暖簾を下ろし始めた時期でもあったんですね。うちも生産自体はもちろんアメリカですが、日本製の生地を使うことも増えていきましたし、付属類(ボタンなどのパーツ類)も日本の市場で手に入るものが徐々に魅力的に映っていくようになりました。

そんな流れは徐々に加速していき、2000年代の終わり頃には次第に日本で生産したいと思うようになっていったんです。アメリカではもうできなくなってしまったことが、今の日本ではできるんじゃないかと。

西 コロナユーティリティでは、ブランド立ち上げ当初より生産背景は国内ですが、たとえアメリカ
で生産したいと考えたとしても、そこにはロットという大きな壁があって。生地をゼロから作るのは、決して不可能ではないものの、膨大な量とコストを要求されます。それも数千メーターみたいに、僕らみたいな小さなブランドが捌き切れる量ではないんですよね。

大淵 そうそう。それに日本では大体すでに誰かがやっているんですよ。僕らが『こういうニュアンスの生地を使いたい』と思って、生地屋さんに相談すると、彼らはすでに似たようなものを誰かのリクエストで作った経験がある。それは生地だけでなく、ちょっと特殊な縫製や付属にも言えることだけど、そういったマニアックかつ感覚的なオーダーを汲み取ってくれるだけの経験値を育んでいたんですね」

日本は妥協せず、もの作りができる環境だと思う。

ポストオーバーオールズ設立30周年となる今秋冬コレクションに採用される付属。シルク織りのブランドタグ、くびれのある脚付きドーナツボタンや黒塗りのチェンジボタンなども、国内だからこそ実現できた好例

’90年代、日本で起こったヴィンテージブームは経年が見せる無二の表情と安価で手に入れられるといった古着本来の価値観を一変させた。ファーストや大戦、後付けパーカや吊り編みスウェットといったあらゆるカテゴリーのアイコンモデルが急騰し、もはや投資対象にまで市場が膨れ上がると、それらをモチーフにオリジナル商品の開発が同時多発的に進められた。いわゆる復刻ブランドの台頭だ。

オリジナルヴィンテージを解体し、糸の番手やステッチ幅、さらには年代ごとに記事の組織や使用付属などを徹底的に調べ上げ、コストに優れた国内生産でどこまでも忠実に再現すべく、トライ&エラーが重ねられた。

大淵さんの言う「日本ではだいたいすでに誰かがやっている」とは、言わばその副産物として国内ファクトリーに残された多くの経験値にして、今やジャパンメイドの最たるアドバンテージとなったというワケだ。

西 生地作りから縫製、染色や洗いといった加工まで思い描いたニュアンスをトータルで再現できるのも、国内生産ならではの利点のひとつでしょうね。

大淵 さらに決してイージーではないオーダーにも小ロットで応えてくれるから、妥協せず、もの作りができる環境だと思います。

西 はい。もはや日本にはないものがない、とまで言えますよね。

ヴィンテージバイヤーとしてキャリアを共にした、旧友でもある両名。旧い雑誌に掲載されたと思われるウィリス&ガイガーのトラベラーズジャケットを探しながら、コロナユーティリティの新作ストリームジャケットのディテールについて語り合っていた
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2nd 編集部
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