書類、名刺、レシートなどすべてデータ化 リモートワークの必需品 ScanSnap iX2500

正確さを要求される公認会計士は、『ScanSnap×AI』をどう活用しているか?【ふかほり税理士事務所】

鎌倉で公認会計士の方がScanSnapで読み込んだレシートをAIで処理されていると聞いて取材した。ふかほり税理士事務所の深堀宗敏さんは、公認会計士の資格を持ち、PwC税理士法人からマネーフォワードに入ってプロダクトマネージャーを務め、現在は独立して税理士事務所を構えているという経歴の持ち主。正確さが必要とされる税理士の仕事に、不確実性のあるAIをどのように使うかについて、詳しく話をうかがった。

公認会計士が営む税理士事務所ではAIをどう使うか?

ScanSnapでスキャンしたドキュメントを生成AIでどう活かすかというのは大きなテーマになっている。たとえば、レシートを認識させると金額はもちろん、日付や支払先の入力も可能だ。仕訳をしてもらうことも可能だ。

ただ、問題なのは生成AIならではの『あいまいさ』だ。あいまいなことが出来るのが生成AIの長所ではあるが、正確性を要求されるタスクにおいてはそのあいまいさにどう対応するかが重要になる。

深堀さんは「やるべきことが分かってAIを使うのはいいけど、なぜそうなっているのか分からないような状態では使わない方がいい」とおっしゃる。たとえば、事務タスクをこなす際に、生成AIはコードを書くのに使えば、事務タスクがどう行われたか、間違った時にどこに原因があるかをひも解くことができる。

「たとえば、弁護士の方が生成AIを使うこともできますが、法律相談を受けて『なぜそうなったか』が答えられなくて、『AIがそう言ったから』では仕事にならないと思います」

プロの仕事にはエビデンスが必要。どういうカタチで生成AIを使えば、エビデンスを担保できるかということだ。

世界的税理士法人→マネーフォワード→税理士事務所として独立

まずは、深堀さんのご経歴を先にご紹介しよう。彼が会計とコンピュータの両方を深く学んでいるということがこの話に関係するからだ。

大学卒業時に公認会計士試験に合格、同年PwC税理士法人に入社。PwC税理士法人とは世界最大級の会計・コンサルティング企業で、国際的な大企業の税務を専門に扱う税理士法人。深堀さんは同社で8年の経験を積み、その間に公認会計士の登録もおこなっている。

PwCのような企業は、国際的大企業の節税をサポートするのも重要な仕事になる。

「国をまたいで税金の回避を提案したりするようなこともあって……本来、お客様の経営の相談に乗る、寄り添うみたいなことをやりたかったのに、税金を減らすのが仕事というのも違うなと思い始めて」

その後、まだ創業して、4年目、社員が100人ぐらいの規模だったマネーフォワードに入る。当初『家計簿アプリのスタートアップ』だったマネーフォワードが、『クラウド企計』を業務の中心に据え、企業会計に詳しい人材を必要としていたのだ。深堀さんはそこでプロダクトマネージャーの一角として開発に関わる。当初はソフトウェア開発については詳しくなかったが、SQL(データベースを扱う開発言語)を学んでエンジニアに歩み寄り、以後のマネーフォワードのサービスの開発に大きく貢献する。

その後、2021年にマネーフォワードを退職。その後、請求処理系サービスを提供するスタートアップでプロダクトマネージャーを担った後、以前から立ち上げていた自分の税理士事務所に集中することにしたという。ふかほり税理士事務所は、一般的な税理士としての仕事もするが、それ以上に過去の経歴、IT知識を生かして、経営に伴走するビジネスパートナーとして税務・バックオフィスの悩みに対応している。

ふかほり税理士事務所
https://kamakura-ac.co.jp/

会計処理のAI利用でブラックボックスが発生しないようにするために

「AIを利用するのは便利ですが、その部分がブラックボックス化するのは、会計処理として不都合です。『なぜ、そう仕訳したのか分かりません』というわけにはいかないのです」と深堀さん。

そこで『処理の透明性を確保しながら、効率化を実現する』領収書の仕訳処理フローを考えたとのこと。PwCで、同社が担当する超大企業のシリアスな会計処理や経理処理の文化を体験し、マネーフォワードで開発を経験し、そして現在自身の税理士事務所で、現実的に処理を省力化したいというニーズがある深堀さんだからこそ作れたワークフローだともいえる。

先に概要を説明すると、このワークフローはScanSnapとClaude(クロード)AIのふたつのOCRを連携、突き合わせ処理してその2つに差違があるところにフラグが立ち、そこは原本を視認チェックするという仕組みになっている。視認チェックするのは手間だが会計処理としての正確さを求めるとこうなるということだ。

ScanSnapを使って、高度なファイル名を作るのがキモ

詳しく説明していこう。

まず、ScanSnapでスキャンし、画像データとしてGoogle Driveに保存する。

この時に、ScanSnap側の設定で、

  日付_相手先_金額_決済方法_カード種別_カード番号

という命名規則で、リネームする。これがかなり重要なポイント。

②で読み込み書類をレシートに設定すると、③〜④のように読み取ったレシートのさまざまな名称をファイル名に使える。こうやって、ScanSnapのOCRで読み取ったデータをファイル名にしてGoogle Driveに入れるのがポイントだ。

Google Driveに入れると、GAS(Google Apps Script=Googleサービス用のスクリプト言語)が使える。このGASについても、あるていど基本が分かっているなら生成AIと相談しながらコードを書けば良い。それだけで、Google Driveの中のファイルをかなり自由に扱えるようになる。

さらにGASを使って、画像ファイルの情報をスプレッドシートに展開し、構造化されたデータベースを作る。

  ファイル管理情報(A~C列):ファイルID、ファイル名、ファイルへのリンク
  分類情報(D列):保存フォルダ名
  取引情報(E~H列):日付、相手先、金額、決済手段
  カード情報(I~K列):カード種別、カード下3桁
  システム情報(L~M列):最終更新日時、フォルダID
  処理状況(N~O列):処理フラグ、カード種類

これで、ScanSnapのOCRが読み取った情報をGoogleスプレッドシートに展開し、さらに画像ファイルがリネームされてスプレッドシートに連携された状態が作れる。

クレジットカード情報との突き合わせ

次にGASでマネーフォワードのデータと連携した操作を行う。マネーフォワードのクレジットカード連携機能で自動取得したデータと、スプレッドシートのデータを照合し、該当する領収書データには処理済みのフラグを設定する。

突き合わせのキーはカード番号の下3桁、金額、日付を使っているとのこと。

ファイルをGoogle Driveに入れれば、GASでさまざまな自動処理を行える。

ScanSnapのOCRと、Claude AIの文字認識の突き合わせ

この後がこのシステムのキモ。

スプレッドシートに保存されているリンクから領収書の画像を呼びだし、その画像をClaude AIに読み込ませて、領収書画像から日付、金額、相手先、内容をAIに認識させて取り込む。この内容をScanSnapのOCR結果と突き合わせるのがポイントだ。

こうやって、二重処理を行うことにより、自動化した際の間違いを大幅に減らすことができる。突き合わせてScanSnapのOCRと、Claude AIの認識が合わなかったものに関してはフラグを立て、手動で確認するとのこと。

手動で確認するのは手間のように思えるが、手書きの読みにくい文字や、印刷のかすれなどはどこまでいっても「どう認識するか?」という問題が発生するので、そこは人間が確認して「これは、こう読むべき」と意思決定した方が確実なのだそうだ。

さらに、税務調査からの確認が入った時にも、いつでも元の領収書の読み取りデータを引き出すことができる。この『透明性の維持』こそが、税務処理で大切なポイントなのだそうだ。

データは最終的にマネーフォワードに取り込める形式のCVSデータとして書き出すことができるようになっている。

Claudeの文字認識にどのぐらい負担をかけるかの設定が難しい

仕訳については高速モードと、詳細モードが作ってある。全部を詳細モードにすると時間がかかり過ぎてタイムアウトになるから、高速モードでザッと見て、その後必要な部分だけ詳細モードにするのだそうだ。

たとえば『道路公団』と入っていると、高速道路代になる。コンビ二の買い物なども内容まで読んで、ボールペンやA4ファイルがあると消耗品費になる。

ただ、これが万事詳細モードになってしまうと、コンビニでお茶や弁当を会議費として買っていて、その時にボールペンも買っていると、1枚の領収書を分けなければいけなくなってくる。厳密に言えばそうなのだが、あまり少額のものを厳密にやっていると実務的でなくなる部分も発生する。そのあたりの実務的なチューニングが難しいところになりそうだ。

「設定していると分かるんですが、人間はとても複雑な判断をしているんですよね。逆に人間について理解が深まります。システムに反映しようとすると、人間の『いい意味での曖昧さ』というものの表現が実に難しいんです」と深堀さん。

同じペットボトルのお茶でも福利厚生費なのか会議費なのかは、誰が飲むのか、どういう状況で使われたのかによって違う。金額が小さいからそこは大ざっぱに……とか、金額が大きいからここは正確にということもある。人間は実に複雑な判断をしている。たとえば、会社の経費で、遠距離をタクシーで移動してしまうのは贅沢だとしても「この時は緊急だったんだな」とか、「この場所は公共交通機関がないから」「終電以降の時間だから」など、時間や状況から判断できるのは人間だ。

iX1600にも要望がある

深堀さんはiX1600を便利に使っているそうだ。でもまだいくつか要望はあるという。

「たとえば極端に長い領収書。間にクーポンが入ってるようなの。もちろん、1枚で読み込ませれば読めるんですが、重ねて読み込ませた時に読み込めない。逆に、パーキングメーターの小さな領収書。あれも重ねるとダメですね」

ホチキスも検知して欲しいという。「自分で気をつけてても、お客様の書類がホチキス止めしてあって、巻き込まれてクシャクシャになるっていうのもありますよね。理想は、ホチキス止めしてあっても、折り畳んであっても読み取ってくれると一番ありがたいですが……無理ですよね(笑)」しかし、そういうところに労力がかかるのは事実なのだ。

AIを良く理解して、使いこなすことが大切

AI利用に関しても意見があるという。

「AIにみなさん期待しすぎな部分があると思うんですよね。『人工知能』っていうぐらいだから、何でもできる……って思い過ぎて。『AIが間違った』『オレの期待したAIじゃない』とかなってしまう。AIは理解して、それでGASなどのプログラムを書くとか、そういう使い方になるのではないかと。マネーフォワードみたいな会社が、そこを理解してアプリで解決してくれるか、それとも個人個人が自分で自分用のアプリを作るようになるんじゃないかと思います。数年後には、若い人達は『自分が使いたいソフトウェアをAIに協力してもらって作るから、市販サービスは要らない』みたいなことになるかもしれません」

AIがあれば、弁護士や会計士の仕事がなくなる! といった意見もあるが、そうはならないと言う。

「結局、文化や背景みたいなものがあって、そのお客様、状況みたいなものに対応しなければなりませんから。もちろん、作業はあるていど簡略化されるとは思いますが。また、長い間培った経験値のある人の仕事はなくならないと思います。ただ、単純作業みたいなところは簡略化されるので、逆に仕事経験が浅い人の仕事はなくなる。すると、10年、20年経った時に、訓練された経験値のある人がいなくなるというような問題は出てくるかもしれません」とのこと。

まだまだ過渡期ということで、これからもAIに関してはいろいろと変化していきそうである。

(村上タクタ)

この記事を書いた人
村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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