平成生まれのビートルズ愛【ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.9 中村こより】

昭和歌謡に興味をもつ若者、平成生まれの昭和好きが普通にいるように、若いビートルズファンも普通に存在している。SNSはもちろんのこと、最近のポールの写真展でも多く見かけることができ、確実にビートルズが次の世代へ受け継がれていることを実感させられる。残念ながら、自分のまわりには少ない。昨年同コーナーに登場いただいた真鍋新一さんくらいなのだが、彼とて昭和生まれ。さて、平成生まれのビートルズファンはいないのか、と考えていたら、ひとりだけいた。中村こよりさんは、小学生のときにビートルズファンとなり、そのビートルズ愛が高じて、書籍『東京ビートルズ地図』(交通新聞社)をひとりで企画し、編集をした女性編集者である。発売は2020年。現在はフリーで活躍する中村こよりさんと、世代を越えたビートルズ話に花を咲かせました。

コロナ禍前に出せた『東京ビートルズ地図』

2020年に刊行された『東京ビートルズ地図』(交通新聞社)

竹部:こよりさんとのつきあいは、この『東京ビートルズ地図』からなんですよね。奥付を見ると、この本が出たのは2020年3月24日ってあるからコロナ直前。作っていたのはその前の年の2019年で、もう5年以上も前のことなんですね。

中村:出た直後に緊急事態宣言になってしまって。発売日がもう少しあとに設定されていたら、コロナ時に出しても売れないって判断で発売が延期や中止になっていたかもしれないです。

竹部:そういうタイミングだ。せっかくいろいろお店を回って、苦労して作ったものだからホントに出せてよかったですね。

中村:大変だったけど楽しかったですね。

竹部:いろいろなお店に行っていろいろなビートルズファンの店主に話を聞けたのはいい思い出ですよ。そもそもこの企画はこよりさん主導で始まったものなんですか。

中村:この前に出た『東京ジャズ地図』がすごくいい本で、数字もよかったんです。それには私は関わっていなかったんですが、もしかしてビートルズでも作れるんじゃないかって思ったのが最初の出発点でした。

竹部:たしか僕に連絡が来たのは、ライターの和田靜香さんからの紹介だったんですよね。

中村:企画が通って、『ビートルズ地図』を作ろうってなったときに上司が和田さんに聞いてくれたんです。「誰かいい人いませんか?」みたいな感じで。それで竹部さんを紹介されたんです。

竹部:和田さんには昔からお世話になってまして。でも最初は「できません」って断ったんですよね。本業も忙しかったし、ビートルズ本はほかに適任がいるんじゃないかと思ったし。でもこよりさんの熱心さに押されて「じゃあやりましょう」ってことになったんですが、結果的にやってよかった。一緒にやったライターの半澤さんはその後も一緒に仕事しているし。

中村:音楽に詳しいライターさんとのつながりも少なかったので、竹部さんにお願いできて本当によかったです。

竹部:その時点でもう店の掲載リストは完成していたんですか。

中村:そうですね。調べ始めたらどんどん見つかって、ある程度の数は集まりそうだっていう状態にはなっていました。

竹部:昔出た『ビートルズ・カタログ』って本にビートルズ関連の店がたくさん載っていて、「いい企画だな、自分もいつかそういう店に行きたいな」って思っていたんですね。そこに載っていたお店はさすがにもうないけど、それを追体験できたのはうれしかったです。でも、調べて、アポどりしてという作業は大変だったでしょ。

中村:曲名を店名にしているお店が多いので、ある程度あたりをつけてネットで調べていったら、結構お店の情報が引っかかって。一度実際に行ってみて、いいなって思ったお店に連絡して、取材協力をお願いしていったんです。

竹部:それはお疲れ様でした。普段自分がやっている作業を他人にやってもらって、自分は行って取材して書くだけっていうのが新鮮でした。ライターに専念できたっていうのが。この本を作る前に自分で行ったことのあるお店はありました?

中村:六本木のアビーロードくらいですね。

竹部:この取材のとき、僕も久しぶりにアビーロード行くことができて嬉しかった。そのアビーロードもいまは移転しているから、前の場所がこうやって記録されているということは貴重ですよね。久しぶりにページをめくってみると懐かしい。よくこれだけいろいろ行ったなと。よく覚えているのは鶴見のラバー・ソウル。取材開始が営業終了後の夜11時で、終わって12時過ぎ。終電で帰ったんですよ、もう眠くて……(笑)。

中村:そうでしたね(笑)。

竹部:印象に残っているお店はありますか。

中村:本が出てからの話になっちゃうんですけど、三軒茶屋のグラス・オニオンです。他の記事の撮影でお店を訪ねたときに、店主さんが「この本を持ってお店巡りをしている女の子が来た」って言っていて、それがすごく嬉しかったです。しかも、20代の女の子2人組だったとか。そんな若い世代に届いているんだって。

竹部:自分がやったことが何かしらに影響するって、嬉しいよね。

中村:この本を作ったのは、もっと下の世代のビートルズ好きをお店に呼び込みたい気持ちがあったので、それが叶ったのかもと思って嬉しかったです。

竹部:ビートルズファンは50代~60代、僕と同じ世代で、こよりさんみたいな人は珍しいですからね。でも振り返ってみると、自分が80年代によく行っていたフィルムコンサートって若い人ばかりだったんですよ。10代のファンがメインでした。リアルタイムでビートルズを知っているファンはほぼいなかったんです。まぁ、その世代がそのまま年を取って、熱心なファンになっているということなのでしょうが。それにしても、ここで紹介した店は今どうなっているんでしょうね。

中村:コロナの影響で少なくなってしまっているかもしれないですね。

竹部:そうかも。もしそうだったとしても、記録として本に残しておいてよかったですよ。まだ営業を続けている店にはあらためてもう一度回ってみたいですね。

中村:ライブハウスなどは特にここ1〜2年でいろんな活動が再開されて、パワーアップしているかもしれないですね。

父がギターで弾く「ミッシェル」でビートルズに開眼

ビートルズ『ラバー・ソウル』

竹部:『ビートルズ地図』を作る前と作った後で、こよりさんのビートルズの理解度っていうか、ファン心みたいなものは変化しましたか。

中村:だいぶ変わりました。この本を作るまではビートルズは音楽を聴いて楽しむもので、音楽という側面しか見ていないところがあったと思います。でも、実際にビートルズを好きな人に接してみて、音楽以外の魅力がよくわかりました。

竹部:ビートルズの幅広くて奥深い魅力。こういう楽しみ方があるんだと。

中村:そうそう。

竹部:もともとこよりさんは音楽的なところからビートルズに惹かれるようになったんですね。

中村:そうなんですよ。小学生のとき、父がよくギターで「ミッシェル」を弾いていたんです。私はそのメロディがずっと頭に残っていて、本物が聞きたくなって、家じゅうにあるCDを探したんだけどなくて。父に聞いたら「それはビートルズの『ラバー・ソウル』というアルバムに入っている」って言われて、CDを渡されたんです。それで聞いたらはまってしまったという。

竹部:小学生でビートルズの音楽に惹かれたとは早熟。それは西暦で言うといつ?

中村;私は1993年生まれなんで、2004年くらいですかね。小5のときでした。

竹部:『1』のあとだ。『1』世代ということなのかな。

中村;でも私は『1』は全然通ってないんです。ビートルズのアルバムは父親が一式揃えていて、家にCDがあったので、それを1枚ずつ順番に聴いていったんです。

竹部:どういう順序ではまっていったんですか。まず中期から入ったわけですよね。

中村:そうです。『ラバー・ソウル』のあと、初期に戻って順番に聞いていきました。

竹部:『プリーズ・プリーズ・ミー』に戻って、『ラバー・ソウル』を経由して『レット・イット・ビー』までか。その頃はどういう風に聞いていたんですか。学校から家に帰って、ランドセルを置いてから聞くわけですよね。

中村:毎日聞きまくりです。CDコンポの前で、CDを聞きながらライナーノーツや歌詞カードを見てひたすら。小学校では周りにビートルズファンはいないので完全に浮いていました(笑)。

竹部:それはそうでしょう(笑)。2003、4年だと、時代的にはどういう曲が流行っていたんだろう。

中村:KAT-TUNがデビューして修二と彰の「青春アミーゴ」が出たあたり。まわりの女の子はみんなハマっていましたね。そのちょっと後ぐらいにORANGE RANGEが出てきて彼らも大人気でした。だから全然まわりと好み合わないんです。

竹部:それは合わない(笑)。友達と遊びに行っても流行りの音楽の話はしないということ?

中村:そうですね。友達が集まると今出たような歌手の曲で歌ったり踊ったりしていたんですが、そのときだけ仲間に入れないみたいな状態になっていました。

竹部:それって、友達の人の家で?

中村:そうです。テレビを見ながら、真似をして歌ったり踊ったりして遊ぶみたいな。

竹部:それは北海道時代?

中村:そうですね。十勝に住んでいた頃です。それこそ、その辺の原っぱで遊ぶこともありました。

竹部:北の国の大自然で聴くビートルズ、いいな。空気が違うから聞こえ方違うだろうな。でも親からしたらちょっとびっくりだよね。娘がそんなにビートルズにはまってしまって。

中村:そうだったと思います。でも父は喜んでくれて。MDが普及しはじめた頃、父がMDでビートルズのベストを作ってくれて、それをよく聞いていた覚えもあります。

竹部:お父さんが重要。いい環境にあったんですね。

中村:逆に小さい頃から親に強制的に聞かされていたらそんなにはまらなかったんじゃないかなって。

竹部:そういうものですよね。「ミッシェル」のほかに好きな曲は?

中村:最初に聞いた『ラバー・ソウル』の1曲目「ドライブ・マイ・カー」で雷が落ちました。なんだ、これかっこいいって。

竹部:小学生にして、それはシブい。別にメロディアスな曲ではないのに。

中村:渋いですね。今そう思います。理由はわからないんですが、かっこいいと思って聞いているうちに、誰が歌っているんだ?って、知りたくなるじゃないですか。そうしたら、私のかっこいいと思う声はポール・マッカートニーなんだって気づいたんです。あとになって、ポールのライブを観たとき、ポールのソウルフルな歌い方にピンと来たんだろうなって思いました。

竹部:ということは中期のビートルズが好きなのでしょうか。

中村:それは難しいんですよ。全部の時代、それぞれ好きなんですけど、でも、最初に聞いたのが『ラバー・ソウル』なので、思い入れがあるのは中期になりますね。『リボルバー』も好きですし。

竹部:音楽を聞いたあとは歌ってる人の写真を見たいとか、映像を見たいみたいな気持ちにはならなかった?

中村:最初はCDのジャケットに載っている写真を見て、顔を認識するくらいでした。「ポールの顔、かわいいな」みたいな程度。中学生になってからYouTubeで映像を見るようになりました。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。
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