
埋もれがちな良品を拾い集めて。
「駄菓子屋みたいでしょ」
駅前からのんびりとした商店街が続く豊島区東長崎。商店街の十字路に立つその店のカウンター越しに、今井宣一郎さんは言った。
「ゴチャゴチャとおもちゃみたいなモノばかりあって近所の常連さんが飲み食いしながら物色できる。店先でお隣の焼き鳥屋さんで買ったつくねや鶏皮を片手にまったり過ごすお客さんもいたりね」
とはいえ、飲み食いするのはうまい棒じゃなくエールビール。物色するのは風船じゃなくポートランド製のバッグやNYで手作りされたペナント。それにワッペン、ステッカー、キャップ……なんて僕ら好みのアイテムたちだ。
『リビンラージ・ビア&ギャラリー』は、今井さんが起ち上げた雑貨とクラフトビールの店だ。
“大人の駄菓子屋”が、コンセプトのひとつ。
加えて店名にあるように、一部をギャラリーに。クリエイターたちに展示の場として提供しているのも、ここの“らしさ”だ。
「ニッチでもいい商品や作品って、たくさんある。大手やメジャーな会社が目を向けない埋もれがちなものを『これいいでしょ』『なんか良くない?』と紹介していきたんですよ」と店でも出している板橋産の生ビールをぐいとかたむけながら、今井さんは続ける。
「昔からそれが好きだったから」

DCシューズもメレルでも、1を10にする達人。
1971年、東京北区生まれ。
ガンプラが欲しいのにいらぬプラモを抱き合わせで買わされたり。神保町で中古レコードを買い漁ったり。エル・エル・ビーンをメールオーダーで個人輸入したり――。
団塊ジュニア世代あるあるな青春を歩みつつも、ちょっとだけ王道からハズれるのが好みだった。
「レコードも周囲は歌謡曲やロックだけど僕はYMOだったり。服の好みも古着で渋カジが主流だったけど、スケーターのような横乗り系が好みだったりしましたね」
大学でも同じだった。サッカーサークルで揃いのスタジャンをカスタムオーダー。今井さんが率先してつくった。「他にありそうで、自分たちしか持っていない」。そんなひと手間とささやかな優越感を愛するタイプだったわけだ。
だから大学卒業後、流通業を経て裏原に事務所を持つ小さな輸入会社に就職。立ち上がったばかりだった「DCシューズ」のマーケティング担当としてファッション誌などの広告を手掛けたのは「楽しくてたまらなかった」という。
「マーケを学んだわけじゃなかったけれど消費者目線で挑戦でき、結果も出た。自分は何もないものを価値化するいわゆる0→1(ゼロイチ)じゃなくて、1→10(イチジュウ)が得意なんだなって、走りながら気づけましたよね」
その後、大手商社の子会社に転職。老舗アウトドアシューズ「メレル」の担当になると1→10の強みをさらに活かす。ステューシーやノンネイティブなどとコラボを企画。次々ヒットさせたからだ。
「『なぜストリート系のブランドと簡単につながれるの?』と回りは不思議がってましたけどね。理屈じゃない。僕にしてみたら遊びと仕事が地続きで『面白そうなことやりましょう』と、真正面から声をかけていただけなんですよ」
ただ2010年代中頃、少しずつ時代の空気が変わるのを感じた。アナログからデジタルへ。マーケティングも営業も、定量的なロジックが求められるようになり、厳しく数字を問われるようになったからだ。好きで得意としていたマーケの仕事が、居心地の悪い場所になりはじめたわけだ。
「そして2016年に16年いた会社を飛び出したんです。45歳で『リビンラージ』を起ち上げ。その頃、子供が産まれたことも後押しになりましたね。自宅もある東長崎で自営すれば、子供と一緒にいる時間も増えると考えた」
大手がやらないモノを「リビンラージ」に。
最初は輸入卸業だった。ポートランドのバッグブランドやNYのハンドメイドのペナントブランドを発掘して代理店になった。
埋もれがちな小さな作り手の1→10を手伝う、自分好みに特化したわけだ。そういえば屋号の『リビンラージ』は「ビッグになる」、「豊かになる」という意味だ。
「大手がやらない小さなブランドをセレクトするようにしています。あと大事なのはサイズごとの大量在庫を持つ必要がないプロダクトであること。何しろクツはサイズと在庫が大変でしたから」
2020年から事務所の一角を店にして、小売りもはじめる。きっかけは、コロナ禍だ。モノが動かなくなり、卸だけではきびしくなった。そこで事務所の一部を店舗化。元もと好きで買い集めていたアメリカの雑貨などもゴチャっと置いてワクワク感を演出した。
近くに大学が3つほどあり元もと若者が多い街。くわえて、少しずつ人気カフェなどができたことから、街をそぞろ歩く人たちが興味津々に『リビンラージ』を訪れはじめた。さらに大勢に来てもらおうと、2024年に今の場所に移転。飲食店免許をとり、クラフトビールを置くようになった。
「ビールも近隣で作ったローカルのものを多く置いて、推してます。少しでも応援したいから、どんどん店で飲んでもらう。そして酔った勢いでサイフの紐をゆるめてもらおかなと」
雑多な品揃えは結果として間口を広くした。クラフトビール目当てのカップルもチープな雑貨好きの大学生も、80年代カルチャーにノスタルジーを感じるあなたも。興味が出てきたら、東長崎の十字路を、ぜひ目指してほしい。
“飲み過ぎ”からの”買い過ぎ”だけには、気をつけて。
あの頃のカルチャーが香る、お宝たちと出会う(飲みながら)。

ビースティーボーイズやトニー・ホーク、チョコレートツアーなど90年代の音楽やスケートのVHSが店に馴染む。ビールが進み、時間を溶かす。

カナダ、アメリカ、板橋(!)などのクラフトビールも人気メニュー。その場で立ち飲みできる。酔うとサイフの紐がゆるくなるのでご注意を。

DCシューズやメレルを手掛けてきた元商社マンの今井さんが独立して作った店。アメリカの学生の部屋のようなワクワク感にあふれている。
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