祖父の形見で導かれたVHSへの道。
古着を掘るのが好きだったようにアメリカントイや旧い雑貨などもよく掘り、集めていた。店の空きスペースに、まずそれらを置く。
「もう自分の好きなものを置いちゃえと。ただ最初は全然売れず」
繁華街とは程遠い西早稲田では、個性が強すぎたのだろう。そんなとき、祖父が亡くなった。形見としてテレビデオが田中家に。『コレ、店のゴチャゴチャしたとこに置いたら?』。母からの助言とも体の良い押し付けともいえる一言がブレイクスルーになる。
「店に置くと、2周回って『テレビデオ格好いいな』と。『そういえばVHS、良いかもな』とも」
ネットを漁ると、映画のDVDが廉価で買えた。特に輸入盤の紙ジャケがやけに魅力的だった。店を彩るインテリアとして好きだった作品を買って並べてみた。
「ざっと1000本くらい」
多すぎる。それが良かった。『なぜか映画のVHSが大量にある自転車店がある』と映画好きがざわついた。口コミで客が増え、その中にマルイのバイヤーもいた。
「『ポップアップやりませんか?』と声をかけられたんです。最初は自転車店で探していたらしいんだけど、『この雑貨の雰囲気でやりましょう』って誘われたんです」
そして2024年、新宿マルイメンにポップアップストアが誕生。懐かしい雑貨と古着とともに、テレビデオをVHSが並んだ。
「ヤバい。『ダークマン』ある!」「ダーティハリー好きの親父のプレゼントにいいかも」「Gosh!!」
国内外から人が集まる日本有数の繁華街で、田中さんのセレクトはハマりすぎるほどハマった。
まずは店のファンがじわじわ増えた。さらに映画館にVHSとテレビデオを設置、ロビーを盛り上げるビジネスも仕掛け始めた。最近は田中さんセレクトでミニシアターでの特集上映まで進行中だ。
「50歳過ぎて新しい世界と友人が広がった。嬉しいですよね。そもそも100%好きなモノを本心で勧められる喜びったらない」
こうして進化した『リピト・イシュタール』は今日も営業中。VHSと雑貨とオーナーの満面の笑みがある最高の町の自転車店だ。

