ヴィンテージだけに宿る美しさがある。
その魅力は、何か?
中井雅樹さんに問うと、とつとつと、しかし静かな熱を帯びた、あまたの言葉が返ってきた。
「現行モノにない色とカタチに惹かれる」「誰とも被らない一点モノの魅力もある」「時を経てヤレた感じも独特の味がある」――。
古着のデニムやスウエットシャツ、旧車のバイクの話ではない。
中井さんが惚れ込んで、もう20年以上扱い続けているのはヴィンテージのバイク用ヘルメットだ。
東京・杉並区。中井さんは14年ほど前から、環八通り沿いに『ヘルマート』という名の店を出す、オーナーだ。
「ヘル」と名が着くように、そこで1950年代~’80年代を中心にアメリカでつくられたベルやブコやショーエイのジェット型やフルフェイスを輸入。ヤレすぎた緩衝材はきれいにリペアして販売している。現行モノにない、時を経て出た“味”を、今のバイク好きやコレクターに引き継いでいる。
「そう、もう20年やってますね。まさかこんなに長く、この仕事をすると思わなかった」
ほつれたハーフヘルメットのストラップにミシンをかけながら、中井さんは言葉を続けた。
「高校を出て、すぐにアメリカに行って。ほぼほぼ就職なんてしないままに、今ココにたどり着いて、ずっといますから」

ローズボウルなどで古着を仕入れた。

入口は、古着だった。
’90年代中頃、地元・金沢で高校生だった中井さんは毎週のように古着店が集まる竪町ストリートへ。リーバイスの赤耳や両Vのスウエットシャツを買い漁った。
「夏休みにはアメ村や高円寺まで遠征に行くこともありました。同じですよ。やっぱり現行モノとは違う、独特の味に魅かれていた」
古着店でよく聴こえてきた音楽にもハマった。リンプ・ビズキット、サイプレス・ヒルあたりだ。
「不思議と西海岸系のバンドが多かったんですよね。よく行く古着店のオーナーからアメリカでの買い付けの裏話なんかも聞いていて、自然と『自分もアメリカへ、LAあたりに住みたいな』と」
扉は大学受験の失敗で開く。両親に「大学4年間でかかるはずだったお金を留学費用にさせてほしい」と交渉して通ったからだ。
語学留学の名目でLAへ。青い海、空、そしてカルチャーに浸った。カレッジに通いながら、たまにライブに行ったり、メルローズあたりをブラブラしたり。特に古着はたまらなかった。ことあるごとにローズ・ボウルやスリフトショップで掘った。自分用もあったけれど、半分はバイトだ。
「例の金沢の古着店のオーナーが仕入れにくるたびアテンドしたんです。次第にひとりでも仕入れてネットで売るようになっていた。まだヴィンテージが普通に見受けられる時代でしたからね。宝探しのおもしろさも残っていた」
宝の中にヘルメットがあった。
金沢の長屋からはじめ、環八通りにたどり着く。
スリフトに出入りしていると旧いヘルメットとたまに出会った。コンパクトな帽体。ステッカーチューン。ヤレて味のある感じに何だかそそられた。前後してバイクに乗り始めていたことも大きい。
「メルローズで見たナックルのチョッパーがめちゃくちゃかっこよくて。向こうで免許をとりKZに乗り始めていた。『ヘルメットもヴィンテージっていいな』と感じて」
古着に混ぜヘルメットをオークションサイトで売ると、日本のバイク好きがすぐさま購入してくれた。ちょうどヴィンテージ古着が高騰、宝探しのおもしろみが減った感もあった。「ならば……」と参入少ないブルーオーシャンだったヘルメットに特化し、ネットでの販売からスタートしたわけだ。
「そして帰国して、最初は地元、金沢で実店舗を出したんです。旧い昭和の長屋みたいな場所を借りて、最初はカンバンも出さずに」
こうして中井さんはオーナーになった。バイク好きの早い人たちは見逃さなかった。著名なカスタムビルダーやコレクターの中には某人気ファッションデザイナーも、東京から長屋を訪ねた。
「結構お客さんは来てくれたのですが、こっちは社会人経験もほぼないガキでしたからね。タメ口で接客したりして。お客さんから叱られることもたびたびでしたね」
もっとも、それだけに残った「使い手目線」での仕事ぶりは、信頼につながった。必ず試着を勧めたり、サイズやが合わなければ購入を控えさせたり、手探りながらリペアの技を磨いたり。その仕事ぶりで支持者を増やしていった。
「東京などの都市部から来てくれる方もやはり多くて。それならば、と5年めには上京しました。東京で勝負したくて」
2010年、環八沿いに店を出した。『ヘルマート』のカンバンと数百のヘルメットとともに。
「開店当初なんてヒマ過ぎて、日々、不安ばかりでしたけどね」
しかし次第に口コミやSNS経由での輪が広がり、いつしか「ヴィンテージのヘルメットならあそこ」と環八通りを目指してくれる人が増えた。今や上は70代、下は高校生までのお客さんが来る。
「最初はハーレー乗りが多かったけど、最近は現行バイクやスクーター乗りも来てくれます。ヴィンテージのヘルメットに魅力を感じる人が増えているのは嬉しい」
20年、ずっとヘルメットを直し、売ってきた『ヘルマート』と中井さんの力でもあるのだろう。
「ないですよ。スタッフとお客さんと家族に恵まれただけです」
とつとつと話しながら、またリペア作業に戻った。長く生真面目に仕事してきた人間だけに宿る味と魅力が、その横顔にあった。


旧いヘルメットだけが放つ色気がある。そいつを感じる、4つのヴィンテージ。
『ヘルマート』が扱うヴィンテージヘルメットは20年以上のキャリアを持つ中井さんが厳選した良品のみ。コレクションとしてはもちろん、ガレージインテリアにもいい。憎らしいほどかっこいいものばかりだ。値段はお店で。
まさに王道! BELL 500TX
ヴィンテージヘルメットを代表する500TX。ジーンズでいう501、ギターでいうファンダー・ストラトキャスターだ。極めてシンプルなのにスタイリッシュなのは、オリジナルの凄み。
大人の色気感じます。McHAL FULL FACE
ハーレーダビッドソンの純正ヘルメットでマックホール製。黒い帽体が渋い’70年代ものだ。大人に似合う感じ。「1973年のショベルヘッドなんかと同じカラーリングが施されています」
コレクション向きのハーフヘル。BELL SHORTY
こちらは’60年代のベル。こうして右と並べるとスタイリッシュさが増しているのがわかる。
ハーレー純正。McHAL APOLLO
コンパクトなフルフェイスタイプは、マックホール。やはりハーレー純正モデルだ。「’70年代ですね。Mサイズですが帽体はコンパクト」
【DATA】
am3:41
東京都杉並区清水3-9-7 11時~14時(仕上がり商品の受け取りは17時まで) 水曜休
http://hellmart.jp Instagram:@hellmart_tokyo
(出典/「Lightning 2025年3月号 Vol.371」)
Text/K.Hakoda 箱田高樹(カデナクリエイト) Photo/S.Kai 甲斐俊一郎
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