ミリタリーブームの火付け役「MA-1」を着るなら知っておきたい知識教えます。

1980年代後半に迎えたヴィンテージブーム。中でもアメリカ空軍のパイロットたちが着用したフライトジャケット、──MA-1は、一躍そのトレンドの主役級プロダクツとして人気を集め一世風靡。それから40年近く経過した現在でも、MA-1の存在感は色褪せず揺るぐことはない。そんなMA-1の誕生秘話や歴史、して素材やディテールに選ばれた理由を知ればファッションとしてもっと楽しめるはずだ。

MA-1は老若男女誰しもが知る、ミリタリーブームの火付け役。

数あるフライトジャケットの中でも、MA‒1は別格の存在である。端的に言うと「カッコ良さ」に尽きると思う。

まず腰上までの絶妙なミドル丈が秀逸。元々狭いコクピット内での運動性能を追求したデザインだが、結果、ファッション的にもラフに羽織れるブルゾンとして活用できること。そして米空軍独自に設定された気温域のインターメディエイトゾーン(マイナス10℃から10℃)に対応する防寒性能。戦闘機が飛ぶ最高高度5万フィート(15㎞)という上空での寒さに耐えうるこの防寒性能は真冬のファッションウエアとして最適だ。

それから男心をくすぐるのが、MA‒1にまつわる歴史的背景や、機能性をアップデートすることによって生じたデザインの変遷など。知識欲とコレクション欲を刺激する事柄がいっぱいである。

特に30年以上もの長きに渡り米空軍パイロットへ支給され続け、合計8タイプ(フライトジャケットとしては6タイプ)もの変遷を遂げてきたのはMA‒1ぐらいなものだろう。つまりそれだけフライトジャケットとしての完成度が高かったと言うこと。後継モデルのCWU‒45/Pが採用された後でも、1980年代までグランドクルー用に使われていたことが、米空軍にとってもMA‒1が銘品であると言うことを裏付けている。

往年の俳優が映画で着用したことも、銘品としての格を上げる要素にもなった。1980年に製作された実在の賞金稼ぎラルフ・ソーソンの半生を描いたスティーヴ・マックイーン主演映画『ザ・ハンター』である。賞金稼ぎのユニフォームかのように扱われるMA‒1の正統なアメカジの着こなしに、思わずときめいた読者諸兄姉も多いことだろう。また実際に余命数ヶ月の宣告を受け死期が迫るマックィーンのMA‒1を羽織った姿に、生き様にこだわった男の色気を感じてしまう。

このように日常の道具としてもファッションウエアとしてもカッコ良く使えてしまうMA‒1だからこそ、現代でも銘品として愛されるのだろう。

[MA-1 の主な歴史]

1944年 米陸軍航空隊(USAAF)にインターミディエイトゾーン(−10℃~10℃)用フライトジャケットとしてMA-1の起源となるB-15が採用

1947年 米陸軍航空隊(USAAF)が陸軍から独立、米空軍(USAF)として組織編成される

1950年代初頭 1953年に支給されたB-15Dの後継モデルとして、1950年代初頭(1953~1955年)にMA-1のテストサンプル開発が始まる

1950年代中頃 米空軍(USAF)にMA-1(MIL-J-8279/1stモデル)が正式支給(1955~1956年)される。

1956年 USAFにてテクニカルオーダー指示書により、B-15A~B-15Dの前身モデルを一斉にムートン襟からリブニット襟に改修する(通称Mod.)

1957年 MA-1 Aタイプ(MIL-J-8279A/2ndモデル)が登場

1960年 MA-1 Bタイプ(MIL-J-8279B/3rdモデル)が登場

1961年 MA-1 Cタイプ(MIL-J-8279C/4thモデル)が登場

1968年 MA-1 Dタイプ(MIL-J-8279D/5thモデル)が登場

1972年 MA-1 Eタイプ(MIL-J-8279E/6thモデル)が登場。フライトジャケットとしての最終モデルとなる

1976年 MA-1の後継モデルであるCWU-45/Pが米空軍(USAF)に採用される。MA-1のF・Gタイプは1980年代までグランドクルー(地上勤務要員)に支給され続ける

MA-1の正式な軍用規格番号は「MIL-J-8279」。数字 の後に表記なしからA~Gまで計8タイプが存在。年代によりディテール変更はあるが、基本的な規格は同じだ

Cタイプからライニングがレスキューオレンジへ、またラベルも襟元からポケット内部へと変更される。
Eタイプからポケットフラップが付く。映画「ハンター」でマックイーンが着用したのはEタイプの民間モデルだ
Aタイプでは比翼上部が初期の角ばったデザインから丸みを帯びたフォルムに変更
BタイプではオキシジェンタブとICSコードループが航空機器の進化によって省略

【銘品】Type MA-1 MIL-J-8279

シェルにはウールとナイロンの混紡生地を使用。短丈で広いアームホール、袖先がリブで締まっているデザインは軍用ならではの意匠

USAFの主力航空機がジェット戦闘機へと進化。それに伴い前身モデルであるB-15Dを改良・進化させて誕生したのがMA-1(MIL-J-8279)である。今日のファッションシーンの影響力を考えると、優れた銘品であると言わざるを得ない。

「MIL-J-8279」という軍用規格番号は初期型MA-1のこと。比翼が角型だが顎に干渉するため、Aタイプから上部が丸型に変わる
初期型とAタイプのMA-1に見られるのが、酸素マスクのホースを固定するオキシジェンタブ。’60年に登場するBタイプから省略

【MA-1コラム】航空機の進化に合わせて装備品であるフライトジャケットも進化。

ジョット戦闘機用のヘルメットが大型になったため、ムートン襟からリブニット襟に改修したB-15Dと同形状のMA-1テストサンプルを試験運用、のちにMA-1として正式支給される。やがてナイロンから難燃素材ノーメックスを使用したCWU-45/Pへとモデルが進化していく。

B-15D Mod.

MA-1 TEST SAMPLE

CWU-45/P

(出典/「Lightning 2025年1月号 Vol.369」)

この記事を書いた人
ADちゃん
この記事を書いた人

ADちゃん

ストリート&ミリタリー系編集者

Lightning本誌ではミリタリー担当として活動中。米空軍のフライトジャケットも大好きだけど、どちらかといえば土臭い米陸軍モノが大好物。そして得意とするミリタリージャンルは、第二次世界大戦から特殊部隊などの現代戦まで幅広く網羅。その流れからミリタリー系のバックパックも好き。まぁとにかく質実剛健なプロダクツが好きな男。【得意分野】ヴィンテージ古着、スケートボード、ミリタリーファッション、サバイバルゲーム
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

決して真似できない新境地。18金とプラチナが交わる「合わせ金」のリング

  • 2025.11.17

本年で創業から28年を数える「市松」。創業から現在にいたるまでスタイルは変えず、一方で常に新たな手法を用いて進化を続けてきた。そしてたどり着いた新境地、「合わせ金」とは。 硬さの異なる素材を結合させるという、決して真似できない新境地 1997年の創業以来、軸となるスタイルは変えずに、様々な技術を探求...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...

Pick Up おすすめ記事

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

「アイヴァン」からニューヨークに実在する通りの名前を冠した新作アイウエアコレクション登場

  • 2025.11.21

ニューヨークに実在する通りの名前を冠した「アイヴァン」の新作コレクション。クラシックな要素をサンプリングしながらも現代の空気感を絶妙に捉え服と同等か、それ以上にスタイルを左右する究極のファッショナブルアイウエア。 Allen 2023年、NYに誕生した「ビースティ・ボーイズ・スクエア」。その付近で出...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...