アメ車の黄金期を象徴するアイコン「テールフィン」の世界

富めるアメリカの象徴として後世に語り継がれるのが、第二次世界大戦集結後の’50年代だ。自動車は毎年のようにモデルチェンジを行い、年を重ねるごとに派手な装飾が増加していく。そのムーブメントは1959年、巨大なテールフィンという形でピークを迎える。そんなアメ車にとっての黄金期の象徴ともいえる、テールフィンにクローズアップする。

好景気をきっかけに、デザイン性の高いコンセプトカーが誕生。

戦前、自動車に関するテクノロジーは飛躍的に進歩を遂げていくが、自動車のデザインはあくまで機能優先だった。モデルTを大ヒットさせたヘンリーフォードも戦前は経済性や性能をセールスポイントとし、視覚的な魅力を訴えかける販売に力を入れることはなかったのだ。

そんな流れを変えることとなるのが、ハーリー・アールという人物の登場だ。カリフォルニアで自動車販売業を営む父のもとで育ったハーリーは、ハリウッドスターを相手に自動車のカスタムなどをしていたが、その後’27年にGMに入社すると、自動車メーカーとして初めての設計部門を立ち上げる。ここから自動車のデザインは本格的に発展を遂げることとなる。

’38年に発表されたBUICK Y-JOB CONCEPは、自動車史上初のコンセプトカーといわれている歴史的にも記念すべき一台。縦格子のグリルやラップアラウンドのバンパーデザインは後のBUICK車に受け継がれていくこととなる

特に’40年代の後半に入ると、戦後の好景気からアメリカはものすごいスピードで豊かになってゆく。ちょうど工業製品や電化製品に関してもインダストリアルデザインの優劣が売り上げすら左右することが認知されつつあった時代。自動車業界もその重要性が急速に認知されつあったのだ。

そんな時代に彼がスタートさせたのがコンセプトカーという概念だ。’38年のBUICK Y‒JOBや’51の年Le Sabre、’54年のFirebirdなど、現実には販売は難しいものの、ワクワクするような近未来のデザインを次々発表していった。GMは自社の自動車ショー「モトラマ」を開催し、こうしたショーモデルやコンセプトモデルを展示。今後のデザインの方向性をユーザーに示すことで、誰もが自動車の未来像に憧れ、夢を抱いたのだ。

もうひとつ彼の功績と言われているのが、年次改良という概念だ。それまでは一度リリースした車両は必要な部分のみ手直ししてそのまま数年売り続けるのが一般的だったが、この時代のアメリカ車は毎年モデルチェンジを行い、続々新しいデザインの車両を生み出していったのだ。

これによって新車で購入した車両も、数年後には時代遅れに感じてしまう。これが早期の買い替えを促進し、自動車の販売は飛躍的に向上し、自動車業界全体に大きな影響を及ぼすこととなる。デザインの発展はそんな効果も生み出したのだ。

ちなみに’30年代から’50年代にかけてハーリーが関わった車両は数え切れない。中でも’53年に発表した初代コルベットは最も有名な代表作といえるだろう。これまでスティール製のボディが当たり前だった自動車業界にFRPという新素材を持ち込み、美しい曲線で構成されたスポーティなボディを作り出したのだ。

他にも彼が手がけた’49年のキャディラックには、テールランプ部分に突起が備わっていた。実はこれが後に大きくなり、テールフィンへと変貌を遂げていくのだ。

’51年に発表されたLE SABRE。丸みを帯びたフロントグラスやロケット噴射口のようなテールデザインなど、当時最先端だった航空機に大きく影響されており、テールフィンも徐々に大きくなっていることがわかる

テールフィンの生みの親ともいえるGMのハーリー・アール。

それまで機能や性能が第一だった自動車に、デザインというベクトルを追加したのは、’27年にGMに入社したハーリー・アールという人物だった。彼が生み出したコンセプトモデルなどのデザインは、後のテールフィンの成長のきっかけとなった。

ハーリーがジェット戦闘機にインスパイアされモトラマで発表したFirebird。初代は’53年に発表。写真は’56年に発表されたFirebird II

’53年登場のコルベットは、ボディに最先端の新素材FRPを採用。さらにキャノピーのような窓やフィンのついたテールが特徴だった。

見よ、この大きくて、力強くて、エレガントなテールフィンの姿を! 1959 Cadillac Eldorado Biarritz Convertible

’59年にベーシックなキャディラック62から上級グレードとして独立したエルドラドは、モデル62とボディサイドのモール形状が異なるのが外観上の大きな特徴となる

アメリカの建築や家具のデザインがミッドセンチュリーというかたちで花開いたように、自動車のデザインもまた同じ’50年代に強烈な発展を遂げ、歴史にその事実を刻むこととなる。時代背景として第二次世界大戦に勝利し、戦後の好景気に沸いていたが、これに加えてジェット機をはじめとした航空機による移動が一般化したことや、米ソの宇宙開発競争のスタートなど、これまでになかった世の中が次々に誕生し、自動車のデザインにも大きな影響を与えることとなる。

それまで丸みを帯びたデザインだったボディラインは、’50年代に入ると、徐々に後方に伸びるような直線的なデザインとなり、テールランプ周辺に尾翼のようなデザインを取り入れたり、ロケットの噴出口を模したテールランプのデザインなどが取り入れられるようになる。またクロームメッキを施したパーツを多用し、自動車の装飾はより派手になっていた。

その最盛期はテールフィンが徐々に大きくなり、ピークを迎えた’59年という説が一般的だ。中でも’59年キャディラックは、巨大なテールフィンと砲弾形状のテールランプ、ロケット噴出口のようなマフラーなどこの時代最先端のデザインを詰め込んだデザインとなり、今でもアイコニックな一台として語り続けられている。

ボディサイドの上下から徐々にロケット噴射口のようなテール部分に向けて流れるように収束していくエルドラド独特のモールは、よりスペーシーなデザインとなっていることが判る
’59年当時、丸目四灯ヘッドライトは、認可が下りたばかりの最先端のデザインだった。バンパーは複雑な凹凸のデザインとなり、砲弾型の突起やクロームの装飾が豪華絢爛を極めた
’50年代の初頭から徐々に成長してきたテールフィンは、この’59年のキャディラックでピークを迎えた。テールランプは砲弾型となり、テールフィンの中段から2つ並んで飛び出している奇抜なデザインは、後世にも語り継がれる名作
リアの両端にあるロケット噴射口のような突起に挟まれた部分にも、フロントと同じ細かい突起のある格子状のグリルが備わるのが特徴

伸びやかな直線的なボディデザインに対して、フロントガラスは大きく湾曲しているのが、’50年台後半から’60年代初頭までのデザインの大きな特徴
失われがちなボディ同色のトップカバーもしっかりと備わる
エルドラドはロッカー部分にクロームの装飾が備わるが、この装飾はフェンダースカートにも備わり、後部へと続いている

【スペック】
メーカー:GM(ジェネラル モータース)
全長:5715 ㎜
全幅:2038 ㎜
全高:1435 ㎜
ホイールベース:3302 ㎜
エンジン:水冷V型8気筒OHV
排気量:5700 ㏄
燃料供給方式:キャブレター

(出典/「Lightning 2024年4月号 Vol.360」)

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