キーボードなのに『馬の鞍』って、いったい、どういうこと?
『面白いキーボード』って、何だよ(笑)
ある日のこと、ThunderVolt編集長の村上タクタ氏より、興味深い提案をいただいた。
「小川さん、面白いキーボードがあるんだけど、使ってみない?」
私は、アメリカンカルチャーをベースにしたライフスタイルマガジン『月刊Lightning』の編集をしていることもあり、毎日なにがしかの原稿を書いている。そのため、PCは毎日触っているのだが、キーボードにはまったく無頓着な私。キーボードを変えようなんて、考えたこともない。タクタ氏はテック系メディアの編集長で、逆に、いつも新しいデバイスを持ち歩いてる。
それにしても、面白いキーボードって何だよ(笑)。興味をそそられた私は、ありがたくその提案を受けることにした。
『馬の鞍』のように、生涯使い込めるキーボードだって!
後日、私の元にその“面白い”キーボードが届いた。【Happy Hacking Keyboard Professional HYBRID Type-S 日本語配列/墨】この長い名前のキーボードが、私の新しい相棒。カラバリは、墨・白・雪の3色があって、昭和の“マイコン”感のある白も捨て難かったが、普段から黒いライダースジャケットを着ている私は、墨をチョイスした。
箱から出して、眺めてみる。しっかりとした作りで、モノとしてすごくかっこいい。ブラックボディもクールな印象。でもまだ私にはこのキーボードの“面白さ”がわからない。その面白さを探るべく、まずはHHKBのサイトを眺めてみることに。
PFU Happy Hacking Keyboard(HHKB)
https://happyhackingkb.com/jp/
「アメリカ西部のカウボーイたちは……」から始まるサイトを見て、びっくりした。キーボードのサイトに、カウボーイの話が出てくるとは。
パソコンは消耗品であり、キーボードは自分の体に馴染んだインターフェース。パソコンを替えても、馬の鞍のように使い慣れたキーボードを使い続けようぜ、ということらしい。
これにはグッときた。
私は、Lightningで主にレザーに関する原稿を書くことが多いのだが、レザーアイテム、特にブーツなどは、まさにこのキーボードと同じ発想で作られている。
ブーツは、当然のことながら履き続けることでソール(靴底)が減ってくる。アッパー(ブーツ本体の部分)の革は、使い込むほどに着用者の足の形へと変形し、どんどんと味も出て履きやすく変化していく。靴底が擦り減ったら新しいソールに交換することで、一生履き続けられ、どんどん自分の身体に馴染んでいくのだ。
そのため、一流と呼ばれるブーツは、一生履き続けられる堅牢さと、ソール交換しやすい構造を持っている。スニーカーでは、こうはいかない。スニーカーは、構造上ソール交換が出来ないので、足に馴染み、いい感じになった頃にはソールも擦り切れ、ごみ箱行きになってしまう。
HHKBのコンセプト、たしかに“面白い”。
この最上級のHHKB Professional HYBRID Type-Sで、値段は3万6850円(税込)と安くはないが、一生モノの仕事の道具にお金をかけるのはむしろ当然。
ちなみに私の選んだモデルにには、墨色に黒でうっすらと文字が刻印されているが、さらに、エキスパート向けには、キートップに刻印のない『無刻印』というモデルがあって、タクタ氏によると、それを使ってる方がエキスパートっぽくてカッコいいらしい。ちょっとオカシイ(笑)
いろんなデバイスでもHHKBを使い続けられる
このHYBRID Type-Sは、Bluetooth接続とUSB接続が可能で、Bluetooth接続ではデバイスをあらかじめ4台まで登録でき、簡単に切り替えが可能らしい。ということは
●会社のデスクトップ
●自宅のノートパソコン
●普段持ち歩いてるiPad
に、簡単に使えるということではないか。
手に馴染んだマイ・キーボードを、どんな時でも使う。これって実は理にかなってるかも。
考えてみれば、ラフを書く時や取材メモを取る時でも、私は同じペンしか使わない。ノートも絶対に同じブランド。編集者とは、普段いろいろとアンテナを張り巡らせている割には、仕事の道具に関しては案外保守的なのかもしれない。
試しに、iPadと一緒に普段使いのバッグに入れてみる。
思ったほどかさ張らないし、これなら許容の範囲内。
極上の打鍵感って、こういうことか!
愛用するiPadに接続してみると……これがすごく使いやすいのだ。
深めのストロークで、打鍵感はすごく良好。「俺、原稿書いてるぜ!」と気分も上がる感じ。「静電容量無接点方式」というらしいが、キータッチが柔らかくて心地よい。
嬉しくなって、いろいろ原稿を書いてみた。もちろん、今この原稿もHYBRID Type-Sで書いている。
深夜のファミレスでビールを飲みながら書いているのだが、とにかく静かなのが嬉しい。特にこのHYBRID Type-Sは静粛性に優れているらしいが、移動中や飲み屋で原稿を書くことも多い私にとって、この静粛性はありがたい。
さらに自分仕様にカスタマイズまでできるとは!
HHKBは、そもそも「プログラマーが理想とするキー配列のキーボード」として作られているため、通常のキーの配列とちょっと異なっている。
プログラマーではない私は、最初かなり戸惑ったのも事実だ。
「Control」キーの位置が、今まで私が使ってきたキーボードと異なるため、「コピペ」やテキストを保存する際、指が素直に動かないのだ。これには参った。
早速、ThunderVolt編集長の村上タクタ氏に泣きついたところ、どうやら背面のディップスイッチを使えばキーのキーコードを変更でき、また「キーマップ変更ツール」をダウンロードすれば、すべてのキーに好きな機能を割り当てることが可能となるらしい。
こうしたカスタマイズ機能も、ありがたいかぎり。
世界に一つだけの、自分だけのモノを作り上げることができる「カスタム」は、Lightningでもお馴染みの言葉。Lightning誌面でもよくカスタムバイクやカスタムカー、カスタム革ジャンを紹介するが、「カスタムキーボード」なんて素晴らしいではないか。
長く使うために、自分仕様に仕上げられるキーボード。
使いやすく愛着も湧いて、PCを替えても使い続けたくなる“相棒”。
パソコンにもキーボードにも素人の俺だが、このHYBRID Type-Sとは、長い付き合いになりそうだ。
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