また現在のアコースティック・ギター・ブランドのすべてが、マーティンから何らかの影響を受けている。つまり、マーティンが存在しなければ、アコースティック・ギターの形状だけでなく、それこそ流行した音楽すらも違っていたかもしれない。ここではマーティン・ギターの人気の理由を、まずはその歴史から紐解いていく。
ハドソン・ストリート196番で、マーティン社は産声をあげた。
マーティン社の創業は1833年。ドイツからの移民フレデリック・クリスチャン・マーティンが、ニューヨークのハドソン・ストリート196番で小さな楽器店を開いたのがその始まりだ。だが、当時のアメリカではギターは文化として認知されておらず、経営には苦労したようである。1839年にペンシルバニア州のナザレスに移住した頃にはその実力が次第に認められ、マーティンのギターは広く世間に浸透していった。
あまりにも革命的な構造だった、『Xブレイシング』の発明。
1843年に、クリスチャン・マーティンは革命的ともいうべき発明をする。それが『Xブレイシング』である。ブレイシングを簡単に説明すると、トップ板の補強と効率よくトップ板を振動させ、音質や音量をコントロールする役割の“骨組み”のこと。Xブレイシングと呼ばれるように、X型にブレイスを交差させた構造によって、今日まで続く“マーティン・トーン”が生まれたといっても過言ではない。
今では多くのブランドが当たり前のように採用しているXブレイシング。クリスチャン・マーティン本人もまさかここまでポピュラーなものになるとは思わなかったはずだ。
多くのミュージシャンに愛される、マーティンの代表的なギター。
長い歴史の中で数々のギターを生み出し、世界中のギター・ブランドの模範となったマーティン社には、いくつかの代表モデルがある。まずはカントリー・シンガーのジーン・オートリーがカスタム・オーダーしたことによって生まれた、フラッグシップ・モデル『D-45』だ。
D-45(2018)
オリジナル呼ばれるD-45は1933年から1942年に91本しか製造されず、世界中のコレクターやミュージシャンが手にいれたいと願っている幻のギターだ。その後、1968年に復刻され、使用される材や細かなパーツなどが変更されながらも製作し続けられているのが現在のD-45。美しい貝が装飾に使われ、高級感のあるルックスも魅力のひとつ。その音色もゴージャスできらびやか。まさにフラッグシップ・モデルと呼ぶにふさわしい豪華さをもつギターである。
D-28 (2017)
45よりも装飾が少ないが、サイド&バックにローズウッドを用いた『D-28』は、すべてのミュージシャンから愛され続けている永遠のスタンダードモデルだ。ポール・マッカートニーは、ジョン・レノンと1967年に一緒に購入してから現在もメイン・ギターとして使用し続けている。ビートルズの音楽が今も尚受け継がれているのと同じように、どんなに音楽が変化し続け時代が変わってもD-28はミュージシャンたちにとって欠かせない存在であることは間違いない。
そして、D-28と共に歩んできたもうひとつのモデルが、サイド&バックにマホガニーを用いるモデル『D-18』。素朴で温かみのある音色が魅力でポール・サイモンやジョージ・ハリスンなどが愛用していたことでも有名。音にまとまりがあり、バンドのギタリストにも人気のモデル。
000-28
エリック・クラプトンがアンプラグドで使用したことによって、その人気が再燃したのが000-42や000-28だ。000もボディ・サイズで、Dよりも小ぶりで抱えやすく、バランスの良いサウンドが特長。スケール(弦長)も短く、女性でも弾きやすい。
音楽趣味人にとっての夢、それがマーティンという存在。
デジタルでアコースティック・ギターのサウンドをエミュレートできてしまう現代でさえ、多くの音楽趣味人の憧れのギターであり続けるマーティンのギター。多くの人が心地よく感じ、印象に残るその音色。いつの時代もプレイヤーの想いを音色に変え、心に響く音楽を紡ぎ出してくれる。
手に入れることを夢みて毎日の仕事を頑張る。その夢を叶え、マーティンのギターを手に入れたことで日々の生活に潤いが生まれる――こんなにも人生を豊かにしてくれる楽器が、今の時代にどれほど存在するのだろうか? これこそが創業から180年以上もの時を経た今も、マーティン社がアコースティック・ギターのトップ・ブランドとして愛され続けている理由である。
【問い合わせ】
マーティン・クラブ・ジャパン 03-5911-3611
http://www.martinclubjp.com/
取材協力/マーティン・クラブ・ジャパン 03-5911-3611 http://www.martinclubjp.com/
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