リンゴ・スターになりたくて|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった 特別対談 Vol.17 金澤沙織

5歳からビートルズの映画に親しみ、物心がついたときには一端のビートルマニアになり、高校生のときにリンゴに憧れドラムを始めたという金澤沙織さん。現在はさおりんごスターを名乗り、ビートルズを好き過ぎるジャズ系ドラマーとして活躍している彼女にこれまでのビートルズライフ及び、ドラマー視点のビートルズサウンドの魅力に話を弾ませました。

ビートルズファンとして自分のオリジナル曲を作りたい

さおりんごスター名義のシングル

竹部 ぼくが最初にさおりんごさんと会ったのは、たをやめオルケスタのライブだったと思います。いつだったか。10年以上前であることは間違いない。

金澤:ですよね。バンドの取材もしてくださいましたよね。そのときビートルズのポスターをいただいた。確か。そんな記憶があるんです。

竹部:それは記憶がない(笑)。なんのポスターだろ。その後に古内東子さんのライブがあったじゃないですか。国際フォーラムで。バックがたをやめの。その楽屋で挨拶したことを覚えていますよ。

金澤:あれは2016年ですね。

竹部:このレコードは?さおりんごさん名義のビートルズカバーシングル。

金澤:懐かしい。これは2015年じゃないですか。

竹部:このレコ発ライブをアーカイヴァー鈴木さんと町田のライブハウスに観に行って、そこでサインをもらったんだと思う。そのあたりで『ビートルズ・ストーリー』の本にも協力してもらったりしましたよね。今日お会いするのはそれ以来だと思うんですよ。約10年ぶり。

金澤:『ビートルズ・ストーリー』は今でもよく見返しますよ。家にもずっとおいてありますし。

竹部:そうなんですか。それはうれしい。あれ、もう一度作り直したいんですよ。あれを作っていたのは『デラックス・エディション』が出る前で。

金澤:そっか。あれからいろんな情報が加わっているんですね。

竹部:そうそう。いろいろアウトテイクもいろいろ出てきているし。

金澤:「ナウ・アンド・ゼン」もまだ出ていないときですよね。

竹部:そうなんですよ。だから改訂版作りたいって、藤本さんと話していて。さおりんごさんは、『デラックス・エディション』は聞いていますか。ジョンが歌う「イエロー・サブマリン」とか。

金澤:それは聞きました。でもすべては聞ききれないですよね。

竹部:いろいろ出てきていますからね。今日は10年ぶりにお会いしたということで、さおりんごさんの近況を聞きたいんですけど、最近はどんな活動されているんですか。

金澤:相変わらず、たをやめはやっていますし、ビートルズバンド、時々自分のリーダーのバンド、あとはジャズバンドのライブもやっているんですけど、あの頃から変わったことというと、自分のオリジナルの曲が増えました。

竹部:といいますと?

金澤:私はもともとクラシックピアノをやっていたので、ピアノで作った曲をジャズ風に演奏したいなと思っていたんです。あと、ビートルズファンとして自分の曲を作りたいっていう夢、というか憧れがあったんです。最近はクラシックとかジャズとか関係ないところでの自分の曲ができるようになったんです。

竹部:それは聞いてみたい。

金澤:ピアノとドラムは人に習って学んで上達してきたんですけど、作曲に関しては誰にも教えてもらわずに、独学でやっているんです。ビートルズもそうじゃないですか。作曲を勉強したわけじゃなくて、吸収した音楽から作り出していますよね。その方法でやりたいと思って、あえて教えてもらわない。自分のフィーリング、その場の空気感を、どうメロディにしたらいいのだろうって考えて作り続けています。

竹部:それはインストなんですか。

金澤:まだ自分で歌詞を作るっていう感覚がなくて。

竹部:それをたまに人前で演奏したり?

金澤:はい。それがこの10年ですごく変わったことですね。

竹部:いくつかのバンドを掛け持ちしているのは大変そうですが。どこかの事務所に入っているわけでもなく?

金澤:ないです。始めたときから自分ひとりでやっています。プレイヤーであり、プロデューサーであり、マネージャーであり、みたいな感じでずっとやってきたんで、もう慣れちゃったっていう。

竹部:大変でしょ。

金澤:そんなにたくさん仕事の話は来ないですけど、来たときにこれはやったほうがいいか、やらないほうががいいかという判別する力はつきますよね。それは直感でわかるようになりました。

竹部:経験して鍛えられたんでしょうね。

金澤:そういうものだと思ってやってきたんですけど、こういう経験はしないでもよかったんじゃないかなって思うときもあります。

竹部:そういうときあるよね。いつかネタになったり、笑えたりしたらいいんじゃないかなと思うけど、その渦中にいるときは辛いですよね。

金澤:なんでこんな目に遭うんだろうとか。もしかしたら今の子はそういうのは少ないのかもしれないですね。

竹部:最初からやらないのかも。でもいろいろ経験したからこそ勘が磨かれるわけですよね。

金澤:今となっては良かったかなと。

アナログレコードを聴く時間が増えました

取材時にさおりんごさんが持参した私物アイテム

竹部:今はその決められた仕事をやりつつ、作曲活動も始めて。ご自身の最終到達点っていうか、目標はいかがでしょうか。

金澤:以前はこうなりたいという願望が強かったんですけど、最近はあまりそういう欲がなくなって、そのときにおもしろいと思ったものを一生懸命やろうっていう気持ちが強くなりました。やりたいことはやり尽くしたという感じはしていて。

竹部:年齢的なものかな。

金澤:そうかもしれません。40代に突入しました(笑)。

竹部:若い! 音楽をやっているからですかね。

金澤:私の周りの同世代の人もみんな若いんですよ。子どもっぽさが残っているというか。自分もそういう気がします。

竹部:いまの仕事のビートルズが占める割合ってどのくらいですか。

金澤:さっき言った以外にドラムのレッスンの仕事をしているんですが、ちょうどビートルズとジャズが半々ぐらいですかね。

竹部:毎日なにかしらで演奏している感じですか。

金澤:昔から比べると数は減りました。毎日ではないですね。選別してかないと。

竹部:コロナで変わったとか。

金澤:コロナのとき、最初の頃は何もできなかったんですけど、私は早い段階で再開した方でした。というのも、ドラムセットの周りって、ほかの人と一定の距離があるじゃないですか。管楽器や歌の人はシビアだったと思うんですけど、ドラム、ピアノ、ベースってある程度間隔を空けているので、わりと早い段階から演奏ができました。

竹部なるほど。

金澤:でもコロナのときに気づいたこともあって。人前で演奏ができないことが必ずしも悲しいことじゃないって。確かにつらい時期ではあったんですけど、プロになってから勢いでずっと走り抜けてきたので、ここらでちょっと一息ついてもいいかなっていうタイミングでもあったんです。だから精神的には問題はなかったですね。駆け出しの頃だったらつらかったかなとは思うんですけど。

竹部:一度休みたい時期だったと。

金澤:SNSだったり、配信だったりでも演奏ができたので、ライブを休んだとしても、人に忘れられるようなことはなかったですし。休んで練習ができる時間がもてたとも考えていましたし、補助金も出ましたし。逆に次のステップに行こうという意識になりました。あとはライブが貴重なものになったことで、応援してくれる人が集中してライブにたくさん来てくださるようになって、回数が少なくなっても苦しくはなかったです。

竹部:最近の趣味としてのビートルズ活動はいかがですか。

金澤:いくら仕事としてビートルズを演奏しても、ビートルズに対する気持ちは最初に好きになった子どもの頃のままというか、止まらないです。最近は昔好きだったものを掘り起こして、見たり聞いたりする時間が増えて、アナログレコードを家で聴く時間も増えました。あらためて研究したりしています。

竹部:どのあたりのレコード?

金澤:普通に日本盤とイギリス盤ですね。今日そのなかから一枚持ってきたんです。『サージェント・ペパーズ』のリマスター盤。これ、2017年にリバプールに行ったときに買ったんですよ。

竹部:思い出のレコードだ。2枚組なんですね。音がいいんだ。きっと。

金澤:いいですね。アナログは「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の最後のリフレインが無限ループなんですよ。

竹部:そうだ。自分で針をあげない限り終わらないやつ?

金澤:ビートルズのレコードは親が持っていたやつが実家にあって。あとは知り合いやファンの人からいただいたりしたので、自分で買ったのはこれがもしかしたら初めてで。

竹部:CD世代ですもんね。レコードで聞いて気づく魅力もありますよね。

金澤::レコードで聞くと、そこでビートルズが演奏しているみたいな感覚があります。そこにドラムがあるなって。いいスピーカーで聴いているからかもしれないですが。

竹部:CDや配信とは全然違いますよね。

5歳のときから観ていたビートルズ映画

「恋する二人/ぼくが泣く」日本盤シングル

金澤:わたし、「アイル・クライ・インステッド」がすごく好きなんですけど、この間あれのシングル盤を手に入れたんです。

竹部:「ぼくが泣く」。あれってシングル出ていた?

金澤:4人の顔が真ん中に映っているジャケの。

竹部:ありました。日本盤ですね。「恋する二人」のB面だ。

金澤:それがいつの盤とか詳しいことはわからないんですけど、あの曲ってすごく短いじゃないですか。針を落としたらあっという間で、気が付いたら終わっていたっていう(笑)。それを何回も聞くのがいいんですよ。

竹部:2分もない曲なのに濃密ですよね。

金澤:10分ぐらいあるように聞こえます。あの密度はすごいなと。それってビートルズしかないもののような気がするんです。

竹部:何回も言うことなんだけど、ビートルズって時間を超えた存在なんですよ。ぼく最初にビートルズのCDをCDプレイヤーに入れたときに、びっくりしたんですよ。『プリーズ・プリーズ・ミー』のトールタイムが30分って表示されて、そんな短いの、みたいな(笑)。それを現実として受け入れられなかった。時間としてはもう1時間以上ある感じあるじゃないですか。

金澤:本当にそうですね。

竹部:それからビートルズのCD聞けなくて、初めてビートルズのCD買ったのは『アンソロジー』。オリジナルアルバムは09年のリマスター盤まで買わなかったんですよ。ブートは買っていたけど。

金澤:たしかにデジタル数字はちょっと嫌ですね(笑)。

竹部:パソコンに取り込んだときも、現実感があり過ぎてすごく嫌だった。

金澤:その時間のことすら忘れて聞きたいっていう気持ちですか。

竹部:そう。時間を気にしたくない。で、「ぼくが泣く」のどこが好きなんですか。

金澤:わたしはジョンが好きなんです。とくに『ハード・デイズ・ナイト』の中でジョンがひとりで歌い切っている曲が好きなんです。小さい頃から聞いていたっていうのもあるんでしょうが、「アイル・クライ・インステッド」はジョンが歌いきっているじゃないですか。コーラスもないし、ギターソロもないし、ずっとジョンひとり。そこが好きなんです。

竹部:たしかに。あの曲ってアメリカ盤のサントラには入っているのに映画では使われていない。謎なんですよね。

金澤:あの曲ってコーラスの最後にベースとタンバリンだけになる瞬間があるんですが、そこがいいんですよ。

竹部:細かい! そもそもさおりんごさんがビートルズを聴き始めたっていうのは? ドラムが最初? ビートルズが最初なんですか。

金澤:ビートルズです。5歳のときでした。ドラムをやりたかった理由がビートルズなんです。

竹部:その話、『ビートルズ・ストーリー』の取材で聞いたことありましたね。

金澤:両親がビートルズのファンで、家に『イエロー・サブマリン』と『ハード・デイズ・ナイト』と『ヘルプ!』のビデオがあって、毎日のように見せてくれていたんです。それを普通に楽しんでいたんです。

竹部:5歳で。でも5歳じゃ判別がつかないですよね。

金澤:初めて見たときの感覚は覚えていないです。で、映画3本と一緒に観ていたのが『レディ・ステディ・ゴー』。トータル4本を見まくっていたんです。今日そのVHSを持ってきました。年季が入っています。当時のやつなんで。

竹部:あった。このビデオは当時としては安かったんですよ。ぼくも持っていましたよ。

金澤:ここに入っている「アイル・ゲット・ユー」が好きで、ジョンがかっこいいっていう感覚で見ていました。

竹部:5歳で(笑)。この中のビートルズって、デビュー間もない映像が多いから、まだ幼いっていうか、あまりカッコよくないのもあるんですよね。そこも含めていいんだけど。

金澤:幼稚園児だったのでよくわかっていなかったです。『イエロー・サブマリン』なんかは映画として、物語として観ていたんです。ジェレミーがかわいいみたいな。『ヘルプ!』だったら、ユーモアのあるシーンで笑ったり。たとえば、エレベーターの天井にリンゴの指輪がくっついてしまうところとか、リンゴが寝ているすきに指輪が奪われそうになるシーンとか。あそこが好きで、きゃっきゃっ言って笑っていました。それで、あのシーンを弟と一緒に家にあるおもちゃで再現する(笑)。

竹部:楽しそう(笑)。

金澤:そのときはいまはもう存在しないバンドだとか、ジョンはもういないとか知らずに見ていたんですけど、ある程度年齢が行ったときにジョンは死んでいるっていうことに気がついて。

竹部:いつ?

金澤:小学生か中学生のときですね。それがショックで。しかも殺されたってことが怖くて。まるで身近な人が殺されたみたいな感じで、ショックだったんですよ。会ったこともない人なのに。ジョンの歌がいちばん好きだったんで、中学のときは毎日悲しがっていました。カバンにジョンの写真を忍ばせて、誰にも気づかれないように隠れて見たりして。学校は校則が厳しかったんで、本当は持っていっちゃいけなかったんですけど……。

モダンジャズの道からビートルズバンドへ

ビートルズスタイルの衣装でドラムを叩くさおりんごさん

竹部:なぜジョンだったんですかね。

金澤:やっぱり歌じゃないですかね。歌声。人の悲しみや楽しさとかの感情をぶつけているような感じがしますよね。

竹部:たしかにジョンのボーカルって、生まれたばかりの赤ん坊が泣き叫んでいるような原始的な衝動がある。

金澤:そうです。ジョンとポール、ジョージの3人がコーラスをしているときに思うんですけど、ジョンの声だけすごくよく聞こえますよね。ポールとジョージは馴染むのがうまいから綺麗にまとまる。でもジョンは個性が強すぎてまとまらない(笑)。キーは合っているとか、そういうんじゃなくて、誰かの中に入ってこじんまりしているタイプではない。ポールがライブで「ミスター・カイト」を歌うじゃないですか。ポールは器用なので、上手く再現ができるけど、やっぱり違う。ジョンの声の印象が強かったんだなって。

竹部:確かに。ポールが歌う、ジョンの曲ってなんか別曲のイメージがある。

金澤:そうそう。わたしはもうジョンよりも年上になってしまったんですが、40年の短い人生中でどれだけの人に影響を与えたかのってあらためて思ったり。

竹部:自分がジョンの年齢を超えるっていう感慨はありました?

金澤:それはありましたよ。ジョンが生きていたのって40歳と2か月ぐらいじゃないですか。自分で計算して「今日超えたぞ! 今日からジョンより年上」みたいな感じでした。ビートルズファン40歳ターニングポイント説ありますよね(笑)。

竹部:ある。ぼくも40のときに転職したし。

金澤:影響されて?

竹部:おそらく。あったんじゃないかな。やっぱりジョンの死って、自分の人生の中でもいちばん大きい事件だし。父親の死のよりもショックがでかかった気がしますよ。ジョンの死は僕が中2のときのことだったんだけど。かなり落ち込んで。会ったこともない人なのに。あの衝撃があるから、今もビートルズが好きなのかもしれないっていうぐらい。

金澤:みんなの人生変えている人ですね、ジョンは。

竹部:文献を読んだり、最近の映画を観たりすると、いろいろジョンの裏側が描かれているじゃないですか。ああいうのを知ると複雑な気持ちになるけど。

金澤:遠くで見ていた方がいい人ですよね、きっと。いろんな考え方はありますけど、ジョンはヨーコがいたことがきっと良かったんだと思うんです。

竹部:いろんな”たられば”がありますからね。

金澤:話は変わりますけど、映画『イエスタデイ』は見ました?

竹部:見ましたよ。

金澤:感動まではいかなかったですけど、なるほどみたいな。そういう人生もありかっていう感覚でおもしろく見たんです。ビートルズがいないという設定はありえないですけど、最後にジョンが出てきたことが興味深かったんです。実は生きていた。何もせずにって。

竹部:似ていたしね。

金澤:そうなんですよ。もしかしてこんな未来もあったのかな、っていうことを思いました。

竹部:ジョンが生きていたらって。SNSやっていたのかなとか。

金澤:政治的な発言したいたのかなとか。もしくは『イエスタデイ』のように田舎で隠居しているのか。

竹部:ヨーコと別れていたのかなとか。

金澤:そうか。ヨーコは都会の女の人だから、遠くには行かないかもしれない。

竹部:ぼくは晩年の内田裕也と樹木希林みたいな感じで、実際別々に生活しているんだけど、夫婦ではあるという感じだったのかもしれなって思うんですよ。で、さおりんごさんのドラマー人生に話を戻したいのですが。ドラムを始めるのはどういうきっかけだったんですか。

金澤:さっきもちょっと言いましたが、5歳からクラシックピアノやっていたんですね。でも、そんなにうまく弾けなくて。そのあとは吹奏楽でトランペットをやったりとか。いろいろやってみたんですけど、得意ではなかったんです。

竹部:楽器を弾くのが好きだったと。

金澤:あと5歳からビートルズを聴いているから、ビートルズになりたいみたいな気持ちはぼんやりあって。といっても歌も得意じゃないし、ギターやりたいとも思わないし、ということでドラムがやりたいと思ったんです。リンゴになりたいって。ドラマーってあまり目立つ存在じゃないけど、リンゴって映画では全部主役じゃないですか。子どもの頃から主役はリンゴってインプットされていたんですよ。前に出てなくても、後ろでもかっこいいって。

竹部:5歳のときに見た映画の影響がここにも出てくると。

金澤:もうひとつ、ピアノとドラムは結構似ているんです。リズム楽器であり、打楽器であり、という共通点が多くて、ピアノやっているとドラムがやりやすいんです。それは後で気づくんですけどね。小学校のときに授業で叩いたことがあったんですが、そのときにすぐに叩けて、ドラム楽しそうだなって思った記憶もあったんです。それで高校生のとき、吹奏楽部でホルンをやっていたんですが、そこでドラムを叩かせてもらったことがあったんです。そこで勘違いしたんです(笑)。自分はプロのドラマーになると決意したんです。

竹部:根拠のない自信って大事かも(笑)。

金澤:学校も勉強も好きじゃないから大学に行きたくないし、一緒にいて楽しい友達も少ないし、とにかく同世代から抜け出したいという気持ちが強かったんです。そういうのもあって、プロを目指して音楽やると漠然と思ったんです。

竹部:それで、ドラムを習い始めて。

金澤:エイトビートを叩きたかった。ビートルズがやりたかった。リンゴになりたかったっていう動機だったんですけど、ジャズのドラマーの先生に師事したんです。そこでジャズをやりなさいって言われて……。

竹部:ドラムって体力勝負のところがあるじゃないですか。

金澤:途中で後悔したんですよ。運動部経験もなく、体が頑丈なわけでもないのに、大変な楽器を始めてしまったって気づいて……。体調壊したり、腱鞘炎になったりとかもあったんですけど、今思うことは、体育会系的な部分は楽器を運ぶことぐらいで、演奏に関しては力の抜き方との技術を取得すれば大丈夫。どんなに細い女の子でもドラムはできる。

竹部:最近増えていますよね、YouTubeでもよく見かける。

金澤:ギャルバンはいっぱいありますよ。私の若い頃は女性のドラマーは珍しくて、現場に行くと、「ほんとに君がドラムをやるの?」ってよく言われたものです。今は言われることはもうないと思います。

竹部:で、最初はジャズなんですね。

金澤:あれよあれよという感じでジャズドラマーの道に導かれて、先生のボーヤをして、ライブ前のセッティングを手伝って、現場で曲を覚えて、みたいな感じでした。いまどき珍しい現場叩き上げです。ライブでやっている曲を次までに覚えておかなきゃいけない。当時はYouTubeもサブスクもないので、CDを探して借りてとかしながらひたすら曲を覚えていました。ライブ中に「うちの弟子が来ています」と言われて、そのときに言われた曲を叩けなければならない。ひたすら修行の日々を過ごしているうちに、ビートルズをあまり聞かなくなっちゃって。

竹部:ジャズっていうのはモダンジャズ?

金澤:そうです。マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンス、オスカー・ピーターソンとか。ほかにはカウント・ベイシー、アート・ブレイキーとか。

竹部:ジャズは尺が長いし、アドリブでしょ。

金澤:きっかけは全部アイコンタクトとか雰囲気ですから。それができるようにしないといけなくて。曲もコードも決めず、何にも言わないで、座って「よろしくお願いします」って言ったら曲が始まる。そこからすべては目とかの合図で、終わりまで演奏する。

竹部:ドラムはリズムだからまだいいけど、ピアノとベースってコードがあるでしょ?

金澤:即興で演奏するんです。ジャズのプレイヤーはみんな頭の中にストックがあるんですよ。そんな人たちがいるのに、ドラマーが曲を覚えられないなんて言っていられない。それで何かに頼らずに演奏することは学びました。

竹部:すごい。そのままジャズの道に進むこともできたわけですよね。

金澤:ジャズのドラマーとして、このまま行くだろうというときに、いま一緒にThe Cray Beatsっていうバンドをやっている山口大志さんっていう人に会うんです。わたし、それまでビートルズバンドって見たことがなかったんです。ビートルズファンあるあるで、そういうのは見ない方がいいみたいな気持ちがあって。でもそこで初めて観たビートルズバンドに衝撃を受けたんですよ。ジョンの歌を歌える人なんていないと思っていたのに、自分のジョンを表現することに全力でやっていた山口さんに感動してしまって。そのときに「何曲か叩く?」って言われて飛び入りで2曲くらい叩いたんです。コピーもできていなかったと思うんですけど、なんとか自分の分かる範囲でビートルズを叩いたんです。

竹部:そこで叩かなければビートルズをやることもなかったかもと。

金澤:リンゴもジャズを叩いていた時期があるんですね。それもあって、ただビートルズをやりたいというのではなくて、ジャズの土台があったうえでのビートルズだったので、それがよかったんだと思うんです。

竹部:だからリンゴのシャッフルは独特なのか。

金澤:シャッフルもそうですけど、普通にエイトビートにもその影響が出ていると思います。あとリンゴはよく6連符とか3連覇とか細かいフレーズ叩くんですけど、そういうちょっと揺れるような感じのシャッフルとエイトビートみたいなフィーリングですね。それもわかったんです。そういうわたしの気持ちが伝わったのが、「さおりんご、ビートルズバンドやればいいじゃん」って言われて。最初は女性はビートルズバンドには向いていないと思っていたんですよ。そうしたら「いや、大丈夫。できる」と言われて。

リンゴ・サウンドのキモはハイハット

The Cray Beats

竹部:それは転機でしたね。

金澤:ただ曲を聞くのとやるのとでは全然違うんで、いざやるってなったらめちゃくちゃ大変でした。あらためて曲をドラムとして覚え直して、コピーをし続けて今に至る。

竹部:それっていつの話ですか。

金澤:いつだろう。10年ちょっと前だと思います。

竹部:ということはまだ最近じゃないですか。その頃からさおりんごって名乗っていたんですか。

金澤:まわりから「さおりんご」とはよく言われていたんです。で、あるとき、mixiだったかな、ふざけて、さおりんごスターに変えたんです。リンゴ・スターなるじゃんみたいな感じで(笑)。そしたら反響があって。これでいこうかなみたいなって。

竹部:永沼忠明さんが、ネタで「職業=ポール・マッカートニー」って言い出したら受けて、そのまま使っているって、この対談に出てもらったときに言っていました。リンゴの叩き方のどのあたりを意識しているんですか。

金澤:ハイハットの叩き方とフィルイン。一番はハイハットですね。リンゴって、同じパターンでもちょっとずつ使い分けているんです。ハイハットのこの辺を叩くとこの曲になるとかというのをちょっとずつ試していて。

竹部:ハイハットを叩く箇所へのこだわり!

金澤:そうです。この曲はハイハットのサイドをちょっと開け気味で叩いた方がいいなとか、思いっきり開けて叩いた方がいいかなとか。その日お借りするライブハウスのセットにもよるんですけどね。今日の感じだと、もうちょっと開こうかなとかをその日に決めるんです。

竹部:それはおもしろい。

金澤:子供のころから『ハード・デイズ・ナイト』と『ヘルプ!』を見ているから、めちゃくちゃ体に染み込んでいるはずなんですけど、いざ演奏ってなると新しい発見がたくさんあるんですよ。

竹部:35年以上聞いているわけですよね。

金澤:そうですね。聞いている歴で言ったらおじさんのビートルズファンと変わらない。演奏できることは嬉しいんですけど、あのときのリンゴには一生追いつけないなって。当時って、まだ20代前半じゃないですか。

竹部:そうなんですよ。二十歳そこそこ。

金澤:だから、ずっと研究し続けようって感じですね。ビートルズがそこにいるってことはありえないんですけど、ビートルズを好きな人が、レコードで聞いた音が目の前で流れてきたら、夢のようなことだと思うんで、そこに近づけるように、ハイハットの質感がひとつを気にして叩こうと思っているんです。でも、真似できるところは真似していますけど、パフォーマンスは真似しないようにしています。人間が違うので。イギリス人男性と日本人女性では、同じことしても全然違うなっていうことで、やらないんです。

竹部:素晴らしい心構えですね。

金澤:レコードで聴いてもあまり聞こえなかったりするんですけどね。

竹部:初期の曲は聞こえづらいですよね。

金澤:たとえば『ウィズ・ザ・ビートルズ』の中の曲でいいうと「オール・アイ・ゴット・トゥ・ドウ」とか「オール・マイ・ラヴィング」。みんなハイハットの開け具合違うんですけど、研究してなるべく近づけたいなと思って。自分がレコードで聞いたドラムを出せるように考えています。

竹部:『赤盤』のリマスターって聞きました。

金澤:サブスクで聴きました。あと、レコードを流してくれる店で。

竹部:この対談に出てもらったビクターの川口さんが言っていたんだけど、『赤盤』リマスター盤の「オール・マイ・ラヴィング」のドラムってすごくクリアに聞こえるんですよ。それまでってドラムの音があまり聞こえないんですが、今回のやつはスネアがクリアに聞こえると。とくにサビの「♪オール・マイ・ラヴィン~」のところのスネアの連打。こんな叩き方だったんだって。言われて聴き直したんだけど、これは僕も驚きました。

金澤:聴いてみます。最近の技術はすごいですね。

2年連続で訪れたロンドン、リバプール

リバプールのジョンが育った家前で

竹部;さおりんごさんが叩いていて楽しい曲はどのあたりでしょう。

金澤:「アイブ・ガッタ・フィーリング」とか「ゲット・バック」。

竹部:「ゲット・バック」はドラムの曲ですよね。シンプルな曲ゆえにドラムで聴かせる。

金澤:すごく深いんですよ。リンゴは左利きっていうこともわかる。なんか不思議な叩き方をしているんですよ。あれ、そういえば今日ってルーフトップ・セッションの日ですね。

竹部:そうだ、1月30日。

金澤:今まであまり考えなかったことがなかったんですけど、ルーフトップ、ゲット・バック・セッションのあの辺りの曲が個人的に表現としてテンションが上がるかもしれないです。「ドント・レット・ミー・ダウン」も好きですし。

竹部:ビートルズのメンバーってプレイヤーとしての技術的なところをキャラが消している気がしますよね。映画で普通に役者やってしまうところもそうだけど、記者会見で面白いこと言ったり、スキャンダルの話題性とかで、プレイヤーとしてのすごさがあまり目立たない。鍛錬の苦労が顔に出ていないっていうか。

金澤:そうですね。キャラが目立っちゃう。天才だから普通にやっているだけなんでしょうけどね。音だけ聞いたら、とんでもないことをしているんですよ。だから何十年経った今でも発見がある。

竹部:10年ぐらい前にビートルズバンドを見に行って、「やればいいじゃん」と言われたそのあとは?

金澤:別のビートルズバンドで叩くようになって、少し経ってから、最初に誘ってくれたバンドに入るんです。それがThe Cray Beatsなんですが、まるで計画していたかのような感じがするんですよ。ビートルズになることが夢だったのに、なぜかジャズやることになって、そのあとにビートルズバンド誘われるっていうのは、自分の中の神様がいて、まずここで「修行してこい」って言われて、その通りにやった結果導かれて、夢が叶ったっていう。

竹部:強く思っているとそっちの道に導かれるといいますよね。The Cray Beatsは定期的にライブをやっているんですか。

金澤:月に1回はやっています。主に経堂のクレイジーラブってジャズクラブともうひとつ、荻窪のルースターっていうところです。ルースターの方は鍵盤の人が入るので、中期から後期にかけての曲を再現しています。経堂は初期のロックンロールが多めですね。

竹部:リンゴの再現は難しいけど、演奏すること自体は楽しい?

金澤:楽しいです。やってみて思ったのは、私の中ではビートルズの現場とジャズの現場はあまり変わらなかったということです。ビートルズだから、ガチガチにコピーしなければいけないのかなと思って、ちょっと怖かったんですけど、やってみたら自由に演奏できたんです。コピーをするということは大事ですけど、それはジャズも一緒なんですね。セッションは柔軟性が必要だし、そこはジャズの経験が生きている気がします。

竹部:演奏していて印象に残っている曲はありますか。

金澤:ビートルズバンドを10年ぐらいやってきたので、もう8割くらいの曲は演奏してきたと思うんです。なので、初めて人前でやる曲はだいぶ少なくなっているんですけど、ずっと演奏したかった曲を叩けるのはいつも嬉しくて、去年は初めて「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」をやったんです。あれ、最初にロールが入るじゃないですか。わたし、この曲のためにロールを練習してきたんじゃないかって(笑)。「ノーウェア・マン」にもロールはあって、ライブで何度もやっているんですけど、やっぱり「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」は最高でした。あと「ドライヴ・マイ・カー」。

竹部:いいよね。

金澤:今日はわたしが中学生のときに聴いていた『ラバー・ソウル』のCDを持ってきました。

竹部:これも年季が入ってる(笑)。この曲はサビ前のドラムのパターンが3回とも違うんだよね。

金澤:たまに間違えるんです(笑)。あれはドラムの基礎練習のパターンと似ていて、冷静に考えれば簡単なんですけど、たまに間違えてしまう。それと、あの曲ってカウベルが入っているじゃないですか。ドラムを叩いているとカウベルは叩けないんですけど、ビートルズ・バンドの先輩が左手でカウベルを叩きながら、右手だけでエイトビートやるっていうのをやられていて、「それ真似していいですか?」って許可を取って真似させてもらっているんです。

竹部:それは神業。

金澤:ハイハットの音が1個減っちゃうんですけど、それよりもカウベルが大事だと思って。さらに私はハイハットの上にタンバリンを乗せて、それを左足で踏みながら再現するっていう。両手両足全部使うっていう技を編み出したんです(笑)。ほかにやっている人がいるかもしれないですけど、今のとこと見たことなくて。

竹部:曲芸師ですね(笑)。それにしてもドラム視点のビートルズナンバー考察がおもしろい。

金澤:そもそも「ドライヴ・マイ・カー」は最初にドラムが入るところも不思議なんです。あれってそのまま頭から歌うと4拍子にはまらないんですよ。どうやったら4拍子にハマるのかっていうのをコロナ禍のめちゃくちゃ暇なときに研究していて。

竹部:イントロ部分のギター、ベース、ドラムのアンサンブルは奇蹟的ですよね。

金澤:一生懸命作っていてもああいうのは出来ない。偶然、自然に編み出しちゃっいるのかな。やってみたら、よかったのでこれでいいんじゃない、みたいな。

竹部:偶然的必然ね。ライブ時のお客さんの反応はどうですか。

金澤:私を応援してくれる人は楽器経験者が多いんです。だからそういう人たちと情報交換ができるのがうれしい。あと、昔ビートルズを聴いていたけど最近は聞かなくなったっていう人がわたしのライブに来て、またビートルズを聞きたくなったっていう意見はよく聞きます。そういうとき、ほんとに嬉しいなと思います。その日演奏した曲が、その人の思い出の曲で、「これだ!」って気づいたりとか。その曲しか知らなくても、別にマニアじゃなくても、ビートルズ好きでいいじゃないですか。なので、もしリクエストがあったら、どんな曲でもやってあげて、その人の思い出になったらいいなと思います。

竹部:メディアでビートルズを語る人って決まっちゃうけど、自分のまわりにもいろいろいますってことで始めたのがこの連載対談なんですよ。第一回は藤本さんなんですけどね。あと、印象に残っているビートルズ活動といえば、なんでしょうか。イギリス行きですか。

金澤:ロンドン、リバプールっていうコースで2回行きました。2017年と2018年、コロナ前だったんです。

竹部:2年連続で?

金澤:2017年に行って、もう1回行きたいってなって思って次の年にもう1回。チケットが安くて、気候のいい時期を選んで。本当に衝撃でした。羽田から飛行機が飛び立った瞬間に感動して泣いちゃって。ヒースローついた瞬間にもう1回泣いて。

竹部:周りの人驚いたでしょ(笑)。

金澤:そもそも海外旅行とかは1人でも行けるタイプなので、自分で調べていろんなところに行ったんですよ。リバプールでは「マジカル・ミステリー・ツアー」のバスも乗らなくて。バスが苦手っていうのもあったんですけどね。乗り物酔いが嫌だから行けるんだったら自力で行きたいと思って。

竹部:自力で回りたくなるのはわかります。

金澤:路線バスを乗り継いて行ったんですけど、途中で道がわからなくなると、現地の人が親切に教えてくれて、「ストロベリー・フィールドに行きたいんだったらここ真っすぐ」みたいな感じで。ストロベリー・フィールドの門を見た瞬間のことは忘れられないです。世界中の人が知っている曲のこの場所に今私しかいないよね。来てしまった。みたいな(笑)。それからペニー・レインまで歩いて。ジョンの家も行って、次の年にはポールの家も行きました。ロンドンではアップルビルにアビーロードも行きましたが、いちばん思い出深いのは、チズウィックハウスですね。「レイン」と「ペーパーバック・ライター」のビデオの場所。そこで撮った写真がわたしのLINEのアイコンになっています。

竹部:ぼくもあそこは好き。そのまま残っているというのが驚きですよね。

金澤:あと、映画『ヘルプ!』に出てくる川沿いにあるシティ・バージというパブにも行きましたよ。映画に出てくる店内はスタジオのセットなんですが、外観は当時のまま変わってなくて。4人が店のガラスを割ってバンって出てくるシーンを思い出すことができました。4人が歩いてくる道を歩いたり。感動でした。

映画『ヘルプ!』に出てきた路地

竹部:パブの中も入ったんですか。

金澤:入りました。普通のパブでしたが。ちょっと高めかな。映画の雰囲気は全くなくて、ジョンの真似してビールはこぼせなかったです(笑)。でも美味しかったですよ。

竹部:それは感動だね。うらやましい。

金澤:あそこはロンドンからちょっと郊外に行く感じで、そんなに遠くはなかったですけど、行きづらい場所にあって。でも好きな映画のロケ地に行ったことは、一生の思い出です。それで、今日は思い出のビートルズアイテムを少しだけ持ってきたんですけど、そのひとつがこの『アンソロジー』のビデオです。

竹部:これ当時すごく高かったんだよね。社会人だったけど買えなかった。8巻セットで数万した記憶がある。全部買ったの?

金澤:はい。高校のときに初めてのバイト代で買ったんですよ! 女子高生のバイト代がこれってやばいですよね。

竹部:共感してくれる人いなかったでしょ?

金澤:はい(笑)。誰も。このなかの『7』ばかり見ていたんですね。

竹部:この頃が好きということ?

金澤:「ハロー・グッドバイ」のジョンが好きなんですよ。『サージェント・ペパーズ』のあたりのジョンは眼鏡かけて髭を生やしているじゃないですか。最初見たとき、え?って。でも、『マジカル』では髭を剃って、「ハロー・グッドバイ」では眼鏡も外すじゃないですか。アイドル時代の雰囲気が戻ってきているところが好きなんです。

竹部:わかる(笑)。でも当時のファンは、髭と眼鏡ってどういう反応したんだろうね。あれ?って思うよね。

金澤:私だけじゃなく、苦手な人多いですよ。『ホワイト・アルバム』からの長髪と、長髪に髭を生やしてヨーコと白い服を着ているときのジョンは女性受けが悪いと思います(笑)。

竹部:その意見よく聞きますよ。全裸にもなってしまったしね。

金澤:あれは見たくなかったです。1回見てしまったら取り返しつかないんで(笑)。

竹部:止めてほしかったね。

金澤:誰か止められなかったのかって。もう取り返しがつかないです(笑)。

ロンドン、チズウィック・パークにて

一周回って『ハード・デイズ・ナイト』

竹部:やはり、さおりんごさんは初期派なんですかね。アルバムで言うと。

金澤:『ハード・デイズ・ナイト』。一周回った後の話ですよ。中後期の難しい時期をちゃんと消化して、初期に戻るんですよ。『レディ・ステディ・ゴー』で、アイドル期のジョンとポールが一緒に歌っているシーンを見るとたまらないです。それに共感してくれる人がなかなかいなくて。

竹部:『レディ・ステディ・ゴー』はソフトになってないし。『レディ・ステディ・ゴー』をちゃんとソフト化してほしい。でも64年のジョンとポールは最強ですよね。

金澤:そうなんですよ。ジョンの「おれの声を聞け!」みたいなところが最高です。

竹部;『ハード・デイズ・ナイト』は『ウィズ・ザ・ビートルズ』ほど黒っぽくないし、『フォー・セール』や『ヘルプ!』ほど暗くないし。

金澤:『ヘルプ!』『ラバー・ソウル』はちょっと暗いですよね。アイドル路線に疑問を持ち始めているような。この辺りのジョンには影を感じるんですけど、そういうことなんですかね。

竹部:『アンソロジー』で時系列に見ていくと、『ヘルプ!』『ラバー・ソウル』を経て中期のサイケの難解な感じに移行するのはよくわかるよね。ドラムもややこしくなるじゃないですか。「ストロベリー・フィールズ~」「アイム・ザ・ウォルラス」「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」。セットのタムも増えているんですかね。

金澤:初期の頃より増やしている可能性はあるけど、増えても1個か2個だと思うので、それをオーケストラのように聞かせるというリンゴはやっぱりすごいなって。「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のドラムはほんとにすごいんですよ。

竹部:ギリギリまでタメて叩く。

金澤:フィルインが歌みたいで。歌を歌うみたいな感覚で叩かないとああいうドラムにはならないので。

竹部:そういえば、リンゴの来日公演も当然。

金澤:行けるやつは全部行きました。出待ちしたときには近くで会うこともできて感激でした。ポールも来たときは毎回行っていますし。また来ますかね。

竹部:来るのかな。期待しましょう! 最後に、今後のビートルズ人生はどんなふうに過ごしていこうと思っていますか。

金澤:もう1回イギリスに行きたい。ということと、ビートルズバンドのことで言えば、1年ぐらい前におそろいの衣装を作ったんですよ。シェイスタジアムのときのようなやつを。昔からビートルズが着ていたような服を着るのが夢だったので、それが叶ったんです。結構嬉しくて。だから他にもビートルズっぽい洋服着てみたいなって。サージェント・スーツとか。

竹部:自分で作んなきゃ。

金澤:刺繡とか大変そうですね。

竹部:ルーフトップの赤いコートとか。

金澤:いいですね。演奏しにくそうだけど。あ、一度ビルの屋上でも演奏したいです。

竹部:通報されないようにしないとね。

金澤:最終的に通報されて終わるのはいいんですけど、途中で止めたくないな。そうだ。どこかのビルの屋上でビートルズイベントやりたいですね。演奏だけじゃなく、トークとか展示、あと出店とか。ビートルズ好きな人が遊びに来るみたいな。

竹部:藤本さんに企画してもらおう。盛り上がりそう。「イエロー・サブマリン音頭」をみんなで踊るとか(笑)。

金澤:楽しそう。

竹部:屋上でルーフトップ・セッションってことはあの格好ですかね。

金澤:やっぱり。古着屋とかにないですかね。真っ赤なレインコート。

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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